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ダブル・ディスクリプション・モデルとは?

 一般に問題というものは個人の内部に還元されがちです。
 不登校の問題にしても,学校に行かない子どもの弱さや怠け心にその原因が求められることは少なくありません。仮にこの問題が両親との関係で論じられたとしても,親の育て方が悪いなどととらえられてしまえば,これは子どもから親へと原因が移っただけであり,やはり個人内の問題として扱われていることになります。
 しかし,相互作用の視点をとると,このような原因追求の姿勢から解放されることになります。問題の原因を求めるのではなく、今現在その問題が解決されずに維持されているのはどのような相互作用の悪循環によるものなのか,さらには良循環を形成したり維持したりするにはどのような相互作用が必要なのか,という発想の転換が可能になるからなのです。

 心理療法の歴史の中でも,問題を相互作用の視点からとらえること,この個人内から個人間への視点の推移は、まさにパラダイムの転換(若島ら,2000)ともいうべき革命的な出来事なのでした。 東北大学の長谷川啓三名誉教授を中心とした臨床心理研究グループは,この相互作用の視点,すなわちインタラクショナル・ビュウを重視し,1986年以来,Mental research Institute(MRI)とBrief Family Therapy Center(現 Solution Focused Brief Therapy Center)のアプローチを良循環の概念で統合したアプローチを展開してきました。

 ダブル・ディスクリプション・モデル(DDM)※2 と名付けられたこのアプローチは,「良循環に徹底的に関わっていくアプローチ」(石井ら,2005)であるといえます。その関わり方にはふたつあります。ひとつは「悪循環を断ち切ること」,そしてもうひとつが「良循環のカケラをみつけること」です。

 家族療法諸派の中でも創成期から今日に至るまで中心的な存在であるMRIのアプローチは前者の立場です。残念ながら問題を維持する結果となってしまったせつない解決努力(偽解決)をやめる援助と同時に,他の行動をクライエントと協働で創造することによって,良循環の形成を支えていきます。

 一方,後者の立場はSFBTCのソリューション・フォーカスト・アプローチです。解決に焦点を当て,例外探しに重点を置きます。例外を「すでにおきている解決」としてとらえ,みつけだしふくらませていくことで解決の構築を目指すのです。長谷川名誉教授は例外をむしろ良循環と呼んでいます。例外という概念だと相互作用の視点があやふやになってしまうことを危惧してのことです。「すでにおきている解決」が相互作用をとおして良循環を形成していくという視点こそが,家族療法の持つ大切なユニークさなのです。

 ダブル・ディスクリプション・モデルは,多種多様な思想に彩られています。臨床心理学者はもちろん文化人類学者,精神科医,ケースワーカー,科学者,精神分析家など,多くの理論家によって耕された土壌に立っています。 ですから理論を学ぶのはとても大変です。
 しかしそれをふまえ、乱用の惧れに常に注意を向けていられるなら,役立つエッセンスをどんどん臨床に活かしていくことは,いいアイディアだと思います。

 そこで,実践的なエッセンスをまとめると次の2つになろうかと思います。
1.少しでも、ごくわずかでも、好ましいことは、やめない、続ける。
2.残念ながら悪循環を支えている解決努力のせつないテーマをガラリと変えてみる。

※1 ダブル・ディスクリプション・モデル概念図
参考:若島・長谷川(2000)よくわかる!短期療法ガイドブック.金剛出版

※2 ダブル・ディスクリプションとは二重記述のこと。家族療法の理論の父ともいうべき文化人類学者のグレゴリー・ベイトソンが,両眼視差による立体視に喩えたように,異なる見方をすることによって,物事が浮かびあがって見えてくる。 DDMでは,ソリューション・フォーカスト・アプローチを表のアプローチ,MRIアプローチを表のアプローチとしてとらえ,表裏のアプローチによって立体視のようなボーナスが得られると考えられている。

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