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Scrapbox流、導入推進者に寄り添う事業開発

この記事は BtoB事業開発アドカレ 4日目の記事です。前回はいえらぶGroup@ysakano_ielove によるエンジニア、bizDev始めるってよ ~その意義と心構え~でした。

初めまして、こんにちは。さわちんです。

2022年10月より1年、Scrapboxという個人ノート・チャット・Wikiを一つにまとめたようなプロダクトにて、事業開発1人目としてビジネスサイドのあらゆることをやってきました。

Scrapboxは非常に変わったサービス。未だかつてない体験を提供するプロダクトのため、知っている人と知らない人の間の溝が非常に深い。知らない人への説明が難しく、チームへの浸透も苦労します。この1年を一言で表すと「導入推進者への寄り添い」でした。

このnoteではScrapboxの事業開発についてかなり具体的にお話します。抽象化された情報はシンプルでまとまりが良いですが、追体験がしにくく経験値にはなりにくい。このnoteから1つでも持ち帰っていただきたく、具体的にお話させてください。長文ですがよろしくお願いいたします。


Scrapboxは「ありそうでない、わかりそうでわからない」サービス

Scrapbox、ご存知でしょうか?

Scrapboxは説明が難しいサービスです。「どんなサービスでしょうか?」と聞かれるとちょっと回答に困ります。ついつい「使ってみたらわかるよ」と答えながら実物を見せてしまう。Scrapboxユーザの皆様はきっとうんうん頷いていらっしゃると思います。

説明は難しいですが広がっています。ユーザ数は32万を超え、様々な企業でご利用いただいています。使ってみると価値が分かり、ファンになる。ヘビーユーザーの皆様の力で、クチコミが広がり、社内に導入されて、ここまで広がってきました。

そんなScrapboxを、今私が一言で言うならばこうです。

個人ノート・チャット・Wikiの3つを同時に使うチームの新感覚ノート

しっかり説明するならば、こうなります。

従来はテキスト化されなかったり、個々人で管理・活用していた『個人メモ』『ちょっとした会話 / チャット』が自然と書き残り、みんなとシェアされるプロダクト。『用語集や方針、議事録、考え方がシェアされる社内Wiki』としても使われて、あらゆるものがリンクを辿っていもづる式に発見されるので、思考・試行錯誤・学習・育成といった知的生産のレベルがアップします。

Scrapboxのユニークさを説明するときに使う図

個人ノート、チャット、Wikiはそれぞれ馴染みがあってイメージは湧きます。3つ全部使って仕事をしているでしょう。でも3つ同時に行うのは経験したことがなくて、使い方もその良さも想像つかないと思います。

上記の説明と図も私が関わってから発掘したもので、これまでは

  • チームのための新しい共有ノート

  • アイディエーションツール

  • 無限のホワイトボード

といった伝え方をしていました。

良いプロダクトだけど全然うまく伝わらない。ヘビーユーザーがやってみせてもらって興味を持ち、一緒に使う中で少しずつ価値がわかっていく。コミュニティイベントでも「良いサービスだけど紹介が難しい」「会社で使いたいけど、うまく巻き込めない」という声が出るScrapbox。

そんな中で私の事業開発はスタートしました。

考え方が新しすぎて、どこもかしこもハードルだらけ

そもそもScrapboxは研究開発の場で生まれたプロダクトでした。

  • 深く学び、言葉の理解を通して概念を捉え、調査や観察したことをノートにとる

  • 意見をぶつけ合う中で、お互いの知識や知恵をシェアする

  • 数年〜数十年と長い時をかけて知識を体系化し、新発見をする

Scrapboxはこれらの活動を支援するために生まれ、学校や研究室、エンジニアといった人たちの中では自然と広がっていきました。それは元々この研究プロセスに慣れていたからです。ただツールが変わっただけ。

一方、自然に広がらないのがビジネスサイドです。本質的にやりたいことは同じですが、経験がない。普段のやり方とかなり違う。だから

  • 導入推進者の心に火を灯す

  • イメージがつかない決裁者を説得する

  • メンバーを巻き込み、一緒にやり方を変えていく

これら全てにハードルがあります。一筋縄ではいかないけども、企業単位での売上は大きくないから人をあてられない。だから私が開拓しながら、仕組みに落としていく、まさに事業開発な動きをしてきました。


ツール導入には実は5つの壁があります。

「まずはトライアルしてみてください」ができないエンタープライズ企業

Scrapboxはすでにプライベートで利用している方が所属組織に導入することが多いサービスです。普段は少人数で利用しているので「チームで使うとどうなんだろう?」「業務でもうまくいくのかな?」とチームでトライアルを試す。うまくいく確信を得て、社内承認をとる。この流れが一般的です。

しかしエンタープライズではこの流れが途切れてしまいます。クラウドの利用申請にセキュリティチェック、規約チェック。気軽に試すためにトライアルがあるのに、その前に「チームで使うとどういいの?」と説明する必要がある。鶏卵問題です。

デモで最後まで乗り切るのも難しい。大きい会社、歴史がある会社ほど、自社の事業・人材に合わせてそれぞれユニークな生態系ができています。ツール導入のときは常に「自社にフィットするか?」を不安に思っています。だからBtoBの営業では近しい会社での利用事例が大変効果的。SIer経由でツール導入がされたり、自社開発が多い理由は生態系に合わせた運用構築が欠かせないからだと感じます。

まずは最初に、Scrapboxの利用準備・検証に時間をかけてもらわなければならない。だからエンタープライズ企業の社内あるあるを抑えて、「うちで試してみたい!」と思ってもらえる言い回しを新しく生み出す必要がありました。

1番「たしかにそうだ…」と言っていただくスライド
みなさん「見つからない」の経験は豊富で、よく頷いてくださいます。

慣れゆえに、自分は課題に感じない決裁者

導入推進者の心に火を灯しても、決裁を通すにはハードルがあります。

ツールにおいて「使いやすさ」はツール以上に慣れの影響が大きい。複雑でわかりにくいサービスも一度体得してしまえば、手癖で仕事ができます。だから提案が決裁者に「そんなに困ってないよね」「こんなもんじゃない?」と一蹴されないように、ツール導入推進者が現場課題を上手に説明する必要があります。

Scrapboxで言えば「見つからない」「うまく学べない」という課題も「ほんとに?私は全然困ってないけど?」ということがあります。

決裁者は検索性に困ってないかもしれません。

  • 規約はあのフォルダにあるじゃないか

  • 提案資料は更新が激しいから営業マネージャーの田中さんに聞かないと正確じゃないだろう

今の状況でもうまく学べているかもしれません。

  • このスライドの言ってることはこういうことだろ?(行間を想像するだけの業務経験がある)

  • 顧客課題がイメージしにくいならば、セールス島で誰かに聞けばいいじゃないか

自転車に乗れなかったあの頃をうまく思い出せないように、人はできなかった頃を忘れるようにできています。現場の課題が決裁者に理解されているケースはレアです。でもツール導入推進者はうまく伝えられない。だからサービス提供者として「あるある!そうそう!」「なるほど。そういうことか!」と思えるくらい課題を言語化する必要がありました。

言語化できない経営インパクト

「現場課題を言語化・図解し、上長にも共感してもらう」以外にも、決裁をとる方法はあります。上長や事業・組織のミッション達成に貢献するサービスだと理解してもらえば良いんです。

経営インパクトで話すのはとても重要です。安ければなくてもOK。リーダーのような現場に近い人が予承認できるので、現場課題の共感だけで稟議が通ります。一方、高い製品であれば、本部長・経営陣が承認することになるため、経営へのインパクトの説明が必要になります。「PL/BSにいつどう貢献するか」「経営課題の解決に寄与するか」が大事になります。

Scrapboxでも同様。利用者が感じる特徴や感想で留めず、組織にどんな効果をもたらすかを説明する必要がありました。

Scrapboxがうまく活用されるとマネジメントが楽になります。

機能/使用感ではなく、チームへのアウトカム(提供価値)を伝える。Scrapboxであれば「マネジメントコストを下げるためには自走する組織を作るのが一番。その基盤としてScrapboxが最適」と伝えるのが効果的です。

場合によっては経営課題を一緒に整理する必要もあります。「組織・事業を支える中核はミドルマネジメント。しかし常に激務で辞めやすく、抜けるダメージも大きい。その支援がツール導入で出来ます(お金で解決できます)」と伝えたりします。

Scrapbox導入推進者はあくまでScrapboxに詳しい人で、経営や組織に詳しいとは限りません。だからこそサービス提供者として導入価値を言語化してあげる必要がありました。

使ってくれないチームメンバー

導入推進者が巻き込むべきは上長だけではありません。メンバーもです。特にScrapboxはみんなで使うサービス。チームメンバーも一緒に使ってくれなければその価値は全然発揮されません。

営業を通して導入推進者の気持ちが高まったように、今度は導入推進者がメンバーの気持ちを高める必要があります。

実際はもっと細かく言い分けることもあります。

人は興味がなければ自発的に学ばない。ましてや仕事で使うツールとなれば、さらにです。やることだらけの中でも時間を作って学んでもらうには相応のメリットと興味関心が必要です。

この気持ち作りが難しく、「自分と似た人しか使わない」「チームでも一部しか使わない」という現象が起きがちでした。だからこそ、サービス提供者として一人一人に寄り添って使う意義を言語化してあげる必要があります。

いつまでも重たいオンボーディング

Scrapboxはツールがあれば100%恩恵が受けられるサービスではありません。一緒に仕事の仕方も変える必要があります。

  • メモをそのまま渡して、理解してもらう

  • 基本、同じことは二度書かず、リンクで再利用。リンク先を適宜読んでもらう

  • メール・口頭・チャットではなく、Scrapboxに直接コメントを書いてもらう

これらの新しい働き方は、自然と学ぶことができました。Scrapboxに書き残った文章や普段の会議でのチームメンバーの動きからから察せるからです。入社時に社内利用のツールの説明を一つずつ丁寧にする企業はありません。それでも問題なく回ります。

しかし、利用者が増え、導入推進者から離れた人も使うようになると厳しくなってきます。「なぜこうした方がいいのか」を語れるのは導入推進者だけ。従来のやり方のままScrapboxを使おうとして破綻していきます。

だからちゃんと使ってもらうには、導入推進者が各所に伝えて回ったり、資料を作ったり、フィードバックしたりする必要があります。でもそれは現実的ではありません。だからサービス提供者が新メンバーのオンボーディング資料を用意する必要がありました。

1つの資料で、営業・キックオフ・オンボーディングをする

ここまでの課題を最初は個別に対応していました。営業資料を作ったら、次はオンボーディング資料を作って、別で稟議のテンプレートを用意する。Scrapboxの事業開発は私1人です。リード獲得からカスタマーサクセスまで、お客様から声があるものから五月雨式に対応しました。

その中で生み出したやり方。それは「私が話す内容は全て資料にし、初回商談からオンボーディングまで全て同じ資料を使う」ことでした。

最初は5つ別々で資料を作っていました。
今はあえて1つにしています。

営業時に現場での運用も説明する

Scrapboxの商談では必ず運用・実現方法の質問が来ます。人は心の底から「ほしい!」「やりたい!」となると、自然と「どうやって実現するか」を考えるようです。

Scrapboxはチャット・個人ノート・社内Wikiという、業務時間の大部分を置き換えるサービスなので、必ず運用面の、それも非常に具体的で鋭い質問をいただきます。

  • リンク中心というがフォルダやカテゴリがなくて本当に見つかるのか

  • メモもシェアすることへの心理抵抗はどうやって解消するのか

  • どうやってみんなに変わってもらうのか

Scrapboxのようなナレッジマネジメントの領域は「何度も挑戦したけどいつもうまくいかない。今は一番マシなやり方をしている」という方が非常に多く、どれだけ優れたビジョンを提示してもなかなか踏み切れません。

「どうせうまくいかないんじゃないの…?」という不安を払拭するためにも、ビジョンだけではなく具体的な運用フローもお話し、「Scrapboxだったらなんとかなりそうだ」と思ってもらわなければなりません。

営業時点で運用・オンボーディングの話まで必要になるのです。

オンボーディングでビジョンから話す

オンボーディングを何度も改善する中で、メンバーにも導入推進者と同じくらいサービスを理解してもらう必要があることが分かりました。必ずビジョン・設計思想から話すようにしています。

  • そもそもみなさんが目指すべき働き方とは何か

  • その中でなぜScrapboxなのか。なぜこんな変わったUIなのか。なぜこの機能があるのか

  • うまくいく組織はどうしているのか

つまり、営業の初回提案で伝える内容をそのままオンボーディングでも伝えるんです。

オンボーディングだからと機能や基本的な使い方だけを伝えると、大惨事が起きます。

  • 機能が目的外の使われ方をしてしまい、機能アップデートをするとクレームが入る

  • 理想から考えると非推奨な使い方が、「(慣れているから)やりやすい」という理由で一気に広まる

  • フィードバックのたびに「なぜそのやり方が非推奨なのか」をしっかり説明する必要があるため、めんどくさくて放置される

Scrapbox導入をきっかけにうまくいかない習慣から脱却するためにも、ツールのオンボーディングでもビジョンを提示し少しずつ変わっていくことが欠かせないのです。

資料を渡し、クチコミ・教え合いをお客様内でやっていただく

ここまでの話をユーザー全員が自然にする世界を目指しています。すごく高い理想ですが、Scrapboxでは不可欠だと考えています。

営業(アップセル)もオンボーディングも、導入推進者や営業担当ではなく、メンバーがしているケースが多いんです。

最強の営業はクチコミです。全然知らない人が使っているツールは気になりません。でも憧れの人・尊敬する人・仲の良い人が使っていたら「なにそれ?」と気になるはず。ここが1番の営業チャンス、使いたいと思うタイミングです。レビュー込みのサービス説明になるので、どんなセールスマンよりもいい営業になります。

最強のオンボーディングは同僚です。社内に有識者がいたとしても聞きにいく人はほぼいません。ほとんどのことは隣に座る同僚に「ねえねえ、これってどういうこと?」と尋ねるはずです。どれだけ良いオンボーディング資料を作っても、勉強会をやったとしても、仲の良い同僚が先生になるのです。

図解やGifアニメーションを多用した、わかりやすくて見返したくなるような資料を作っています。

パラパラ漫画形式の特徴説明
ホワイトボード・画面共有で説明しているような体験を目指しています。

【まとめ】Scrapboxは導入推進者を大変大事にしています。

ここまで、Scrapboxの事業開発で取り組んできたことを紹介してきました。ほとんどが導入推進者の武器づくり、いわゆるカスタマーサクセスの領域のお話でした。

なぜここまで導入推進者に寄りそうのか?資料化にこだわるのか?それは私がまさにScrapboxの導入推進者だったからです。

たまたま私は

  • チームのマネジメント・採用・新卒研修・全社のナレッジマネジメントを同時にやっていて、組織課題へ深い洞察が持てた

  • 考え方はエンジニアで学習家なので「どうやって仕組みで解決するか」「人間は、集団はどんな環境でどうなるのか」の理解があった

  • SalesforceやSlackといったツール導入、採用と研修と上場準備での全社巻き込みといった経験があった

  • Scrapboxのコンセプトを代表とPdMに直接ヒアリングができた

これらの幸運が重なって、無事Scrapboxを全社導入するところまで運べました。

しかしこれはレアケースです。導入推進者がここまでやってくれることはまずありません。広げるのにすごく力がかかるし、導入推進者は労力に対して割に合わないという方もいらっしゃいます。

私はこの状況をひっくりかえしたい。むしろ「ツール導入を通して本人が成長し、社内に変革をもたらし、社内表彰をされる」が当たり前になるくらいのツール導入Experienceを作りたい。そう思って1年間やってきました。

Scrapboxを広げる中で、新しい「ツール導入」の形を提案していきます。
これからもScrapboxとその運営会社(Helpfeel社)をどうぞよろしくお願いします。

P.S.この1年で作った資料は「サポート資料」として公開しています。

プロダクトに興味持った方はぜひ以下フォームよりお問い合わせください。


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