見出し画像

【読書】熱源

画像1

日本が歴史の中で一番輝いていたのは,日露戦争あたりではないかと思っている。
まあ司馬遼太郎の影響なのだが(笑)
あの敵前大回頭の秘策で世界一のバルチック艦隊をぶち破ったあたりだ。
この辺りは,司馬遼の「坂の上の雲」もだが,吉村昭の「ポーツマスの旗」がより詳しい。

この時期を外すと,戦後の復興期ホンダやソニーが頑張っていたころが輝いていたと思われる。
今は…(涙)

この本は私が好きな日露戦争前後から,第二次世界大戦あたりまでの時代背景の中で生き抜いた「アイヌ民族」の歴史のような本。
地区は南樺太。主権が日本やロシアに行ったり来たりで落ち着かない地区であった。ロシア人からも日本人からも未開の地に住む異文化の種族…的な位置づけで,「いつかは無くなる(淘汰される)」人種だという目で見られている。またアイヌは特殊な環境で,北海道に住んでるアイヌは日本人に同化させられようとし,樺太に住んでるアイヌはロシアに同化されようとしている。

樺太のアイヌを調査しようとしている人は,革命家の兄弟というだけで留置所に送られてきたポーランド人。こちらもロシアに同化されようとしている祖国を何とかしたいと思っている。そのポーランド人が選んだ妻が,アイヌの女性…。

複雑な事情が錯綜する中,着実に時代は動いていく。日露戦争で日本側に付いた樺太のアイヌは,ロシアが負けて樺太の下半分を日本に取られるという状態で今度は日本人に同化される環境に。「よい日本人になるためには,兵隊になって勇敢に戦い天皇陛下のために死ぬのだ…」的な教育を受けるようになり,実際にそのようになろうとするアイヌも物語後半に出てくるが…。悲惨。

私はずっとフィクションと思って読んでいたが,何となく違和感があった。この違和感は何なのだろう…とずっと思っていたのだが2/3くらい読んだとこで,歴史上の実在の人物が登場したのだ。二葉亭四迷。ここで,えっ!!となって調べたら,何と今まで主人公として登場していた架空の人物と思っていた人も実在したアイヌだという事がわかる。結局これはノンフィクションに限りなく近いフィクションだったのだ。これは面白いはずだ。さすが直木賞取るだけある。

その後,あの有名な国文学者? 金田一京助が出てきて,実際に現地でアイヌ語を研究したり住民と触れ合っているシーンの描写があり,アイヌ人としてのアイデンティティを確立するために,世界初の南極点到達を目指す白瀬隊に志願して,実際に南極で活躍したり…と縦横無尽に世界を駆けまわるのだが,根っこは「アイヌを認めて欲しい」という種の欲望。

最後は第二次世界大戦の玉音放送後にロシアが樺太を取り返しに来た場面で終わるのだが,もう一大叙事詩になっている。とても壮大な話だが考えさせられることは多い。人種問題でもない。とにかくアイヌを人間と見ていないのだから。しかし白人からするとアイヌも黄色人種の日本人も同じ感覚。日本人はアイヌを自分達より劣っているとしか見ていなかった時代…。

文章の至る所に,アイヌの心の叫びが表現されています。これを読むだけでも自分自身の心に訴えかけられるものがいっぱいあり,生き方に影響される部分があると思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?