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統合デザイン学科卒業制作インタビュー #04竹節駿也

竹節 駿也(たけふし しゅんや)
多摩美術大学統合デザイン学科4期生
米山貴久・米田充彦プロジェクト所属プロジェクト所属


ー卒業制作で制作した作品の紹介をお願いします。

卒業制作では日本酒の体験をデザインしようと考え、お酒の情緒と書いて「酒情」という作品を作りました。


おぼんと酒器を合わせて日本の国旗に見える「日ノ丸酒器」、お酒を注ぐことによって月の輪郭が出てくる「月ノ輪酒器」。
器が花の形になっていて飲んでいない時に徳利に差し込むことで、お酒の場に花のある風景ができるという「花酒」。
水滴っていう、墨汁に水を垂らすモノがあるんですけど、それにインスパイアを受けて、各々飲みたい量を調節できる「酒滴」という酒器。
最後に、日本酒を飲んだことない若い人が一雫だけ飲めるように、スポイトみたいなものと器を作った「一雫」という酒器セット。

全部で5作品を作りました。


ーこの作品を作ろうと思った経緯について教えてください。

大学2年生の時に、趣味でカクテル作りを始めたんですよ、それが高じてアルバイトでバーテンダーをやっていて、そこからずっと料理とカクテルに関わるようになって、家で友達を呼んで酒作って、それに合う料理を作ることが趣味になりました。

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※実際に作ったカクテル


それで大学3年生の頃に卒業制作でお酒のデザインをしたいと思ったんですけど、お酒のデザインってかなり統合的なことに気づいて。

ラベルとか、ボトルのデザインがあって、それを注ぐグラスや器があって、飲む空間があって、音楽があって、そこに提供する人の仕草があったり言葉があったり。
お客さま側の記憶とかのなかにストーリーがあって、その全てが合わさって初めて「お酒を飲む」という体験ができると思うんですね。

いろんな条件が統合的に絡み合ってお酒を飲むことが成立するって、お酒を作ってる時に気づいて、それから卒制はお酒全体をデザインしようかなって考え始めました。

でもアイデア出しで悩んで、そもそもお酒って日本酒以外にもスピリッツだったり、ワインとかウイスキーとか種類が山ほどあるし、好みも分かれるし、あと壊しにくい伝統だったり歴史があって。
だからお酒に対する固定観念があったり領域がひろすぎてどうしようと思った。アイデア出すってなったら何かしら自分で制約をつけないといけないなと思ったんです。

そこで4年間で学んだことを振り返ったときにふと、地域ブランディングを経験していたなと気づいて。
長野は日本酒有名なのあるなとか、自分があんまり飲まないお酒って何だろうと考えた時に、日本酒だ!って思って、だったらその地域のブランディングに関われて、かつ自分が苦手な日本酒のデザインをしてみたら面白いんじゃないかと思って、日本酒のデザインをしようって思ったんですね。

まあ、お酒ならなんでもよかったんでしょうね。統合的なデザインができれば。
それがまず最初のきっかけでした。


ーテーマが決まってからどのように制作していったのか、制作過程をお聞きしたいです。

まず製品として使えることが目標だったんです。

ほんとに製品に落とし込めないと、ただの大喜利になっちゃう。
ただのお花の形をした酒器を作りましたとかおしゃれなラベルたくさん作りました。だと、卒業制作頑張ったね、3Dモデル頑張ったね、で終わっちゃうので。だから、結局ボツにした作品が山ほどあるんです。
最初は季節十二ヶ月分の酒器を作ろうとしたんですけど、なんか納得できなかった。

製品として辿り着いたのがこの5作品で、スケッチの段階だと雨のように降る酒器だったり、紙のように流れる酒器だったり、毛細管現象を使った静かなカクテルグラスとか…30~40くらい案をだして、3Dプリンターに起こして、注型したりして作ってたんだけど、なかなかうまく落とし込めなくて。

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※ボツになった作品の一部


制作過程で言うと、まずアイデアを沢山出して、できそうなものからどんどん作っていく。それから、これは無理そうだなと思ったものを引いていってブラッシュアップできるものを作っていって、最終的に11月頃に5作品に絞ってクオリティを上げました。

この時点では漆とかは塗らずに、元型となる形だけで選んでいました。

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最終的に、製品に落とし込んだ上に高島屋のショップで売っているくらいの雰囲気を作りたいと思っていたので、先生に製品を塗装するための塗料はスプレーでいいよって言われたんですけど、スプレーで塗ったモノでお酒飲みたくないなと思って、一から漆の勉強して、漆を塗ったりしていました。

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※漆の色の検討


今回卒業制作で学んだのは、アイデアを製品に落とし込む難しさですね。

酒器なので、口当たりとかも考える必要があって自分で何度も試したし、持ち方とか、お客さんはこうするんじゃないかなと考えながら形を作っていきました。
アイデアだけでやっていても、うまくいかない部分がすごくあって大変でした。酒滴って作品は水が出て欲しい量でないし、月ノ輪酒器は月の輪郭に全然ならない。くそー!って感じでした。

その時にありがたかったのが、知り合いにホテルで働いてる人がいて。その人に実際に使ってもらったり見てもらったりして、これだったら日本酒つぎたいよね、飲めるよねっていうことを確かめながら進めていました。

やっぱり製品を見たときに「ここに私が作った料理載せたいな」とか「この日本酒つぎたいな」って思って欲しかったんですよ。

だからデザイナーじゃない、プロダクトのことを全く知らない人にも見せて、その人がすぐに使い方を理解できたら次に進む、よくわからないって言われたら作り直す、みたいな感じで進めていきました。
この、モノとしてのクオリティを上げる作業が一番大変でしたね。

最終的にできた5作品は割とキャッチーと言うか、説明しなくても見た人が一発でこうやって使うんだ!ってわかるモノが残ったかなって思います。


ー展示空間はどのように考えていきましたか?

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展示空間に関しては反省が沢山あります。

今回手が回らなかったんですけど、やっぱり実際にこの製品を使ってお酒を飲んでもらいたかったです。

実は5作品一つ一つに長野のお酒を自分でセレクトして注いでいるんです。通販で売ってないものも何個かありますね。長野のお酒を自分で試飲して、酒器が完成した時に自分が注ぎたいって思ったお酒とともに展示したんですよ。

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日本酒のもつ『地域性』を活かすことで卒業制作という場を借りて長野のお酒に少しでも興味を持ってもらえるかなと思ったんです。いわゆる酒蔵でやる試飲体験を提供したかった。
でも展示場所だとお酒は提供できなくって。そこができなかったことに後悔があります。

交渉してもできなかったかもしれないんだけど、卒業制作展の委員に頼んで、ステッカーをしている人はお酒が飲めるようにして、その人達がこの作品を使ってお酒を飲む、というところまでを一つの体験型の作品としてやりたかったなっていう後悔があって。できなかったと思うんですけどね。やりたかった。笑

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あとは製品に触れないようにしてしまったことですね。触る用と見る用で2作品置くなりして触ってもらって、視覚的だけじゃなくて重さとかも体験してもらうべきでした。
他の作品で、お客さんが作品を体験して楽しんでいるところを見て羨ましかったです。

展示空間としてはイメージ通りになったし、高島屋のショップみたいな佇まいでいいねって言ってもらえて、それは良かったんですけど、そういった最後の体験までを設計できなかった。

その他にもお酒の匂いに関して、同じ空間で展示をする人たちに迷惑をかけてしまったなと思います。僕個人の展示じゃないので、早めにみんなにお酒を使うからって言っておくべきでした。
卒業制作だからかもしれないけど、他の人と同じ空間で展示をするってなった時に個人の主張が強すぎてもダメなのかなと。

だから本来は11月に展示台を作って、日本酒を置いて、そこまで設計しながらクオリティを上げていくスケジュールを立てるべきだったなと思いました。でも今回そこを学べたので今後展示する時にすごく役に立つなと思います。最後に失敗できてよかったです。


ー展示を行った感想を教えてください。

全体を通して思ったのが、すごく人に助けられました。

展示空間を作ることがすごく大変だったんですけど、展示台を作る時も友人がアドバイスをくれたりとか、みんなで作り上げることができて良かったなと思っています。

あとお客さんの反応ですごく嬉しかったのは、他の作品だと「こういう風にみえるね」とか結構会話をしながら見ているんですけど、僕の作品の前だとみんな静かになるんです。みんな静かになって、こっそり写真を撮っていく。いわゆる雰囲気に飲まれる。
それが嬉しかったし、ぼそっと「あ、これ飲みたい」「これ欲しい」っていう言葉が聞こえたのがすごく嬉しくて。

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作品に対峙するお客さんの反応が自分が求めてたものというか。みんなでワイワイ話しながら見るというよりは、一人ひとりが作品と対峙して、静かになって、写真を撮って帰っていく。で、最後に飲みたいと思ってくれる。

「これだったらお酒を飲みたい」と思わせるようなものを作りたかったので、コンセプトとやりたいこと、アイデアが全部マッチして良かったなって思います。


ーこの作品を通して、今後やっていきたいことなどあれば教えてください。

1年間卒業制作をやってみて思ったのは「自分の限界を知れてよかった」ということですね。
だらけてしまうところとか、自分はこういうところでやらなくなるんだとか、全部含めて自分の限界を知ることができました。

これからデザイナーとして働いていくんですけど、自分は今ここまでできるからそれを超えるためにどうしたらいいかとか、今後のデザイナー人生を考える良いスタートになったなと思います。

これからもやっぱりお酒のデザインに一生関わっていきたい。お酒デザイナーですかね笑。クラフトビールとかのデザインをしてみたい。

あとは、今年直近の目標ですけど、今年中にデザインのHUBを作りたい。コロナ禍で大きくはできないですけど、僕の家とかもしくは借家で、クリエイターが集まる場所を作りたいんです。僕の家で集まって僕が作ったカクテルを飲みながらクリエイターがアイデアをだして実装して社会に流していく。クリエイターって音楽作れる人もいるから、お酒を飲むためのBGMをつくったり、料理人の知り合いと料理作ってしまったり。

自分たちが満足できるものから、ハッカソンのようにそれこそ金曜日の夜に集まって日曜日までに作っちゃうみたいな、そんなお酒や料理をわいわい楽しみながらチームでものを作っていく場所を作りたいですね。

それこそ展示の会場を独りよがりにならないように作らなきゃいけないっていう改善点を見つけたから、今年1年まずいろんな人と何かを作っていきたいなと思っています。
これまでは個人的に物を作ることが多かったので、これからは誰かと。
その誰かと一緒に、社会に新しい提案だったりあったらいいねっていうものを作っていきたいなと思っています。

(インタビュー・編集:徳崎理沙、土屋陽和)


今回インタビューした作品は、3月13日から八王子キャンパスで開催される、美術学部卒業制作展・大学院修了制作展Bでご覧いただけます。
他学科の作品も同時に鑑賞できる展示となっております。是非ご来場ください!

美術学部卒業制作展・大学院修了制作展B
会期

3月13日(土)〜3月15日(月)
10:00~18:00(最終日15:00まで)
場所
多摩美術大学八王子キャンパス
東京都八王子市鑓水2-1723
交通
JR・京王相模原線「橋本」駅北口ロータリー6番バス乗り場より神奈川中央交通バス「多摩美術大学行」(運賃180円)で8分、JR「八王子」駅南口ロータリー5番バス乗り場より京王バス「急行 多摩美術大学行」(運賃210円)で20分
詳細:美術学部卒業制作展・大学院修了制作展B




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