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統合デザイン学科卒業制作インタビュー #02松岡諒

松岡諒(まつおか りょう)
多摩美術大学統合デザイン学科4期生
米山貴久・米田充彦プロジェクト所属プロジェクト所属


ー卒業制作で制作した作品の紹介をお願いします。

ルーケットという、調光可能な充電式ライトとその充電器を作りました。
光量を暗くすることで、周りの環境を見えなくする。そうすることで自分の世界に没頭できる、というコンセプトです。

何かを照らしたり、空間を演出する目的を持った従来のライトとは違った光の使い方を提案しました。

なくても困らないけどあったほうが嬉しい、だけどこれでしか出来ない事がある、みたいなライトのあり方を探りました。

好きな明るさにしてぼーっとしてもいいし、誰かとコロコロいじりながら話してもいい。家族やカップルで使うと本当に相手しか見えなくなるので、いつもとはまた違った雰囲気が出ます。

テーマとした「自分の世界に没頭する」ということは、静かで丁寧で集中したものなので、繊細な操作方法を設定しました。

まず電源を入れるときはまっすぐ立たせる必要があり、片手では操作が難しい設計になっています。しっかり両手で抱えてそーっと置かないと立ちません。
倒して調光する時も、転がす速度で光の増減量が変わるようになっていて、じわ〜〜っとあかりをつけることもできるしちょっと早めにあかりをつけることもできる。だけど転がす動作が早すぎると反応しません。

ちょっとがさつな動きでは一切動かないようにしているので、使用者は操作方法を探っていくと同時に自分を無意識に集中させていき、使い方と世界観を理解します。


ーこの作品を作ろうと思った経緯について教えてください。

大学3年生の終わりの段階で、デザインする時にコンセプトとか形だけじゃなくて、中身の構造も考えられる人になりたいなと思っていて、じゃあ卒業制作は無理やりにでも中身を考えられる何かを作ろうと思いました。

この作品は電子工作を使っているんですが、2020年の4月の時点では全然知識がなくて、しょうがないからできることだけやろうと思って、電子工作初心者用のサイトや本を調べつつ、できることできないことを分けていきました。

電子工作初心者ってほんとに「LEDを光らせてみよう!」から始まるんですよ。
卒業制作も初めからライトを作ろうとしていたんじゃなくて、テーマを決める段階で僕はLEDしか使えなかった。これが結構大きくて、卒業制作では光を扱おうと決めました。

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それから具体的にアイデアを固めていくために、miroを使って光の居場所やどうい
う風にみんなが光っているものを扱ってるか、ということを分析していきました。

スクリーンショット 2021-01-27 18.40.17


ー作品のテーマをどのように決めたのかお聞きしたいです。

最初は人の動作に反応して調光ができる機能的なライトを目指していました。でも機能的なライトにはしっかり対象を照らしてほしいと思ってしまうので、常に人の動きで明るさを変えてしまうライトはむしろ使いづらくなってしまうことがわかりました。

それと、卒業制作ではプログラム制御による調光に挑戦してみたい気持ちの方が強かったのでだんだん機能的じゃないアイディアに軌道修正していきました。

あと、実はテーマは最初から狙って決めたというよりは消去法で決めていて。
4象限(*)を使って、作ったものとリサーチしたものを機能的とか、情緒的とか、人に近い遠いとかに全部分けていった時に、人に近くて情緒的なライトがなかったんです。

昔からライトっていうものはいろんな人が設計しているし、同じことをしても仕方ないと思って「光自体を楽しむ」という方向に決まりました。

※4象限マトリクス
4象限タイプは、2本の線を引いて真ん中で交差させることで4つのセグメントを作り、「ポジショニング」や「全体の分散の傾向」を捉えるものです。4つの象限の枠がそれぞれに意味を持つので、整理や分析の結果から次の戦略が明確になりやすいフレームワークです。

引用:ポジショニングがわかる「4象限」タイプの作り方/2軸思考 | 毎日が発見ネット


ーテーマが決まってからどのように制作していったのか、制作過程をお聞きしたいです。

形の検討は沢山やりました。

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元々、できることをちゃんとやる、逆にできないことは捨てようと思っていて。
初めはおきあがりこぼしみたいにして倒れそうなんだけど倒れないみたいな、ちょっと不思議な形を目指していました。

重りの向きとか配置の検討を進めて実現可能な形を探っていったんだけど、自分で用意できる重りの形とサイズ的にどうしても難しくって形が球体みたいになってしまったんです。それでおきあがりこぼしにする案をやめて。

今度はこの菱形のような形を活かして、どうやったら転がせる方向にできるかということを何十個も作っていって出来上がった形ですね。

行き当たりばったりでやっとできた、偶然できた形っていう感じが強いかもしれない。狙ったアイデアは結構最初の方にすぐ終わってたり。なんとか打開策を見つけようとして、進んでいった感じかな。

全然思い通りにいかなくてやりたかったことの8割9割できていないんだけど、先生に「デザインはそういうもんだよ」とか言われつつ、できることをやっていきました。
結果的には、操作方法と形がとうまくマッチしてよかったなと思います。

あとは今回実装することを目的としていたから、中身のことも考えなきゃいけないハードルがあって。今までの課題みたいに「実際はこうなる想定です」とは言えない。
だから中身とデザインと製造方法の3軸を同時進行でやっていました。

例えば形をちょっと丸くするだけで、中のLEDに無理が出るとか、LEDをもうちょっと増やそうとすると製造方法にガタがくるみたいな。
自分の中で3人ぐらいが戦って、できるできないを決めていきました。

成形方法は、樹脂を流し込む際に別のものを入れて一体化させるインサート成形という方法があって。

基板を設置する用の型がまずあって、それを今度は次の型に差し込むっていう方法で進めました。

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だから最初は狙っていなかったんだけど、この中に基板とかLEDを封じ込められたから防水機能もついて、お風呂でも使える!というライトになりました。笑

今回ライトを実際に自分で作ってみて、樹脂を検討したり、基板を設計したり、今までやったことないことがいっぱいあったんだけど、そういうことを学ぶいい機会だったし、すごく楽しかった。学んだことを使い切れてよかったです。

電子工作をそもそもやったことなかったのに、今回培った知識を使って配線したり、基板を設計してみたりして、すごい体験だった。

作品って、作り込めば作り混むほど、他人にはどうやって作られてるのか想像できなくなるみたいで。「これどうなってるの」ってよく聞かれました。

ただLEDを光らせてるだけなんだけど、パーティングライン(*2)が見えないとか開け口がないだけで良い違和感を与えるものになったみたいですね。

※2 パーティングライン
成形品を金型から取り出す際に、金型を2つまたは3つに分割します。 この金型の分割されるラインのことを、 「パーティングライン」 といいます。 また、金型の分割面のことを 「パーティング面」 といいます。

引用:金型のパーティングライン


あとは充電器も作ったんですけど、これ実はただの白じゃなくてややグレーなんです。ライトと重ねた時に一番落ち着いて見える色を探りました。

充電器ってなくてはならないものだけどメインじゃないからすごく奥深くて。

充電器単体で見たときに金属部分があると目につくから非接触充電にしたり、なにか他に光源があったときに上面が光を反射しすぎないように表面をちょっと丸くしたりとか、あくまでもライト本体の方に意識が向かうように色々工夫しました。


ー展示空間はどのように考えていきましたか?

展示空間は、このライトは暗い場所で使われることを想定していたから暗い部屋にしたいっていうのがもちろんあって。

でも廊下とか、展示をしている学校自体は明るくしているからどうやって暗さに慣れてもらう空間を作れるかということにすごく気を使いました。

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まず入り口に入ると、ぼんやりした感じでタイトルがあって、入り口のスポットライトが切れるか切れないかの位置に次の説明文があります。

IMG_9889のコピー

IMG_9913のコピー

ちょうど説明文の位置が照明のグラデーションの中間ぐらいになるように設定していて、ここで、暗さに慣れてもらう場所っていう空間配置にしています。
説明文も実は黒字じゃなくてグレーにしていて、左から右に読む間に暗さに目が慣れていかないかなと思って、画策したことのうちのひとつです。

それから、部屋っぽくするために展示委員に無理をいって壁の貼り方を他の部屋と変えてもらったりして、机とクッションがあるだけの空間にしました。

思い返してみるとこのデザインを伝える一番の肝が展示空間だったんですけど、設営ですごく手間取ってしまって。設営日終盤に駆けつけてくれた十数人には感謝してもしきれません。初めましての人もいたのに、本当にありがとうございました。


ー展示を行った感想を教えてください。

この作品はあえて扱いづらくしたこともあって、お客さんにはそもそもあまり触られないだろうと思っていました。

あとは卒業制作っていう催し物として面白いものとかキャッチーなものが目を引きがちだから、自分の作品はそんなに盛り上がらないだろうなっていう予想があって。

実際に6割ぐらいの人はちょっとのぞいて帰る感じだったんだけど、でも残りの4割の人は映像をすごく見てくれたり、この作品を受け入れようとしてくれました。
体験してくれた人は5分とか、長い人で15分くらい滞在してくれて。伝わって嬉しかったです。

あとは先生方が実装したことや形状や素材のことも褒めてくれて、実際に作って良かったです。


ーこの作品を通して、今後やっていきたいことなどあれば教えてください。

この卒業制作を製品化したいですね。

今回頑張って実装して、見てくれた人も欲しいとか、製品化いつですかと言ってくれて意欲が湧きました。仕方はわからないけど、出来ればと思います。
コンセプトに共感してくださる会社がいたら、ご連絡お待ちしています。

あとは1年間死に物狂いでやってみたら意外と物って作れるなってわかったことは発見です。
自分でできるとことできないところの線引きがわかったので、できない部分はできる方と組んでやってみたいです。

今後は身の回りのものから作りたいものをどんどん作ってみようかなと思いました。

mail : ryomatsuoka0369@gmail.com
Twitter : @r__otty

(インタビュー・編集:徳崎理沙、土屋陽和)


今回インタビューした作品は、3月13日から八王子キャンパスで開催される、美術学部卒業制作展・大学院修了制作展Bでご覧いただけます。
他学科の作品も同時に鑑賞できる展示となっております。是非ご来場ください!

美術学部卒業制作展・大学院修了制作展B

会期
3月13日(土)〜3月15日(月)
10:00~18:00(最終日15:00まで)
場所
多摩美術大学八王子キャンパス
東京都八王子市鑓水2-1723
交通
JR・京王相模原線「橋本」駅北口ロータリー6番バス乗り場より神奈川中央交通バス「多摩美術大学行」(運賃180円)で8分、JR「八王子」駅南口ロータリー5番バス乗り場より京王バス「急行 多摩美術大学行」(運賃210円)で20分
詳細:美術学部卒業制作展・大学院修了制作展B


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