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【卒展2021 Making Process】 #01 メインビジュアル

メインビジュアル担当
山本 和幸(やまもと かずゆき)(@Yamkaz
多摩美術大学統合デザイン学科4期生
中村勇吾プロジェクト所属

堀 聖悟(ほり せいご)(@sei_54_
多摩美術大学統合デザイン学科4期生
永井一史・岡室健プロジェクト所属


はじめまして。メインビジュアル制作を担当させていただいた山本和幸と堀聖悟です。
今回から卒展のメイキング記事を、それぞれの代表が全9回に分けて連載致します。
最後まで見ていただけますと幸いです。

今回はメインビジュアルをどのように作っていったのか、今年度の挑戦やそれにいたったプロセスも含めて紹介していきたいと思います。


1. 目的(問題)を把握する

まず何かやる場合、何をすべきか定義する必要があります。
目的があることで解決するための指標ができます。
我々は卒展のビジュアルをやることの定義を、以下の3つだと定義しました。

<卒展メインビジュアルの目的>
・卒展に多くの人を呼ぶ。
・展示の内装外装を適切に築く。
・展示する自分たちが満足ができるものにする。

自分たちの展示をより多くの人に見ていただく機会を作るために(統合に興味がある人、関係者等に)卒展が行われるという情報をしっかりと伝え、卒展に行ってみたいと思えるような魅力を引き出す必要がありました。
また、そうして来場していただいた方々が来てよかったと思っていただけるような展示空間を築くことができるビジュアルになること、展示する学生も鼓舞できるようなビジュアルになることが求められていると考えました。

2. ビジュアルのあり方を分析する

次にやるのは先代の引き継ぎです。
何をやるにしても先代の方に作っていただいたものの引き継ぎが重要です。
いきなり0から何か作るより、過去に同じことをやってくれた人の成果を知ることでより良いものが作れるはずです。

展示のメインビジュアルは、過去に実行された例は多くあるはずなので、その中で成功例・失敗例で分析(分類・比較)しようと考えました。

【分析】
様々な展示のビジュアルを見て分類していった結果、これらの結論を得ました。

名称未設定-1_アートボード 1

分析:「どういうビジュアルがいいのか?」
結果:
1. 卒展ビジュアルはその卒展を表すもの。
2. 元気・お祭り感・しっかりした感じがある方がいい。
3. 統合デザイン学科の「新しい学科であること」や、卒展が「新しいものを発表する場」だとすると「動的アイデンティティ」がいい。


分析から得た結果について解説していきます。


【1.卒展ビジュアルはその卒展を表すもの。】
ビジュアルの伝えたいことを基準に分類してみると「1. 卒展ビジュアルはその卒展を表すもの。」という王道パターンがあると分かりました。
例として何点かあげますと、以下のようになっています。

卒展=「花開く場所」→花のビジュアル(3大学)
卒展=「創る場所」→複数の人が何か作っている姿のビジュアル(2大学)
卒展=「イノベーション」→破壊、ジャンプをイメージするビジュアル(2大学)
卒展=「こういう作品があります」→誰かの作品っぽいものをそのまま載せてビジュアル化(3大学)
卒展=「誰かに届ける場所」→「プロポーズ」「ポスト」「矢印看板」「あいさつ」などをビジュアル化(5大学)

これらの「 卒展ビジュアルはその卒展を表す」という王道パターンには乗ろうと考えました。理由はビジュアルの意味は何か聞かれた際に意味が繋がっている方が良いと思ったからです。

【2. 卒展ビジュアルは元気・お祭り感・しっかりした感じある方がいい。】
次に、元気なビジュアルと暗い感じのビジュアルでの分類をしました。
その結果、元気・お祭り感・しっかりした感じがある方が、自分が参加すると考えたときにいいと思いました。4年間の集大成である卒業制作展なのに、弱そうな軽いビジュアル、元気や活気のない暗いビジュアルはふさわしくないように見えました。

【3.卒展ビジュアルは統合デザイン学科が「新しい学科であること」や、卒展が「新しい物を発表する場」だとすると「動的アイデンティティ」がいい。
次に、様々なビジュアルを見ていく中で、海外の卒業制作展や、ある展示のビジュアルで「動的アイデンティティ」という物の存在を知りました。制作コンセプトを見るとこれらは全て「革新性」の表現として「動的であること」を取り入れていました。
統合デザイン学科は、僕らがまだ4期生であり、横断的に様々な分野のデザインを学ぶ「新しい学科」であり、卒展自体は「新しいものを発表する場所」という側面を持ちます。それらの表現として「動的」を使用することは適切だと考えました。

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「DEMO — a visual feast: the very first Design in Motion festival」
駅のサイネージを全てジャックして展示 → 革新性 → 動的なタイポグラフィのアイデンティティ
引用元:Have your work exhibited in Amsterdam Central Station over 24 hours as part of DEMO Festival / It’s nice that.
https://www.itsnicethat.com/news/design-in-motion-festival-amsterdam-central-station-exhibtion-media-partnership-090419

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「RCA SHOW 2019」
卒展→革新性→太さが流動する革新的な書道タイポグラフィのアイデンティティ
引用元:Loreal Prystaj https://www.lorealprystaj.com/upcoming

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「RCA SHOW 2016」
卒展→パフォーマンス→ダンス→ダンスするタイポグラフィ
引用元:SUMMER STUDIO http://summerstudio.co.uk/royal_college_of_art_SHOW_2016/


3. 統合デザイン学科卒展を分析する

分析の結果「卒展ビジュアル = 卒展を表すもの」ということがわかりました。
なので次は、統合デザイン学科の卒展とは何か分析しないといけません。
それが分かれば、ようやくそれを条件にビジュアルを作ることができます。

【分析】
まず「統合デザイン学科の卒展とはなんなのか。」を分解し「卒展とは何か。」「統合デザイン学科とは何か。」を様々な視点から考えた結果、以下のようにまとまりました。
以下からビジュアルの条件を導き出します。

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<統合デザイン学科卒展ビジュアルの制作条件>

・統合デザイン学科の卒展を表していること。(クリエイティブの刺激になること、新しいものの発表の場、多様性、祝祭性、卒業の場、集大成など)

・「動的」「とんでもなくカラフル」であること。

・ビジュアルの雰囲気
 ・豪華絢爛(元気・ストロング・ゴージャス)
 ・賢さ
 ・ニュータイプ
 ・大人な美学

「動的」にした理由は先ほど記したので割愛します。
次に「とんでもなくカラフル」であることで、新鮮なビジュアルが生まれると考えました。また、新鮮なビジュアルは「クリエイティブの刺激になること」や「新しいものの発表の場」が伝えられると考えました。

また、ビジュアルの雰囲気によって、統合デザイン学科の雰囲気が誤解なく伝わればいいなと思いました。
企画から制作まで行う知的な部分があり、デザイン界のトップランナーたちが集まる豪華さ、統合的に学ぶという新しさ、先生たちの影響で生まれる美学など、学科内に漂う雰囲気がありますが、それが間違って伝わってしまうというのはよくないことだと思ったからです。


4. 発想する

ビジュアルの制作条件が出たところで、アイデア出しを実施しました。
数ある方向性が出ましたが、以下のアイデアを選択しました。

採用されたアイデア:
「多様な成長した私たちの姿(多様に変態する統合デザイン学科ロゴ)」

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こちらは初期案になります。ビジュアル条件に当てはめ、統合卒展を表すキーワードとして「多様な成長した私たちを披露する場」と捉え、発想しました。
検討していく中で統合デザイン学科のロゴのバーを学生と見立て、多様な姿に変形させるというアイデアです。

本学科の教授でもある佐野研二郎先生がデザインされた統合バーは「プロセスの統合」と「領域の統合」を表現しています。

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統合デザイン学科で学び、好きなことやできることも広がり、自身の感性や理性に従いそれぞれが個性を築いてきたことを、バーを変形させることで「成長」として表現しました。

実は去年のビジュアルでもバーを学生として見立てています。去年に引き続き、統合ならではのアイコニックなアイデンティティを生かしつつ、去年とは異なるコンセプトで新しく表現しました。

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ボツになったアイデアも紹介します。

統合卒展を「様々な学生が発表する場」と捉えて口をモチーフに展開した案。

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統合卒展を「統合で過ごし、それぞれの自分らしさが開いた場」と捉えて掛け軸をモチーフに展開した案。

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統合卒展を「羽ばたく場」と捉えて羽をモチーフに展開した案。

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スクリーンショット 2021-02-16 13.36.50


5. 形にする

デザインする上で造形要素を膨大に検討することはすごく大事です。
現時点でいいと思えるものは、さらにいいものに辿り着くまでダメとは気づけないからです。

【図像検討】
統合のロゴであるバーを変形させることで「多様な成長した私たちの姿」を表現すると発案し、方向性を固めました。
ただバーを変形するにしても多くの表現の幅があります。
そこで、線の太さや色、変形の仕方などを検証して、よりコンセプトに沿った、デザインとしても魅力的に思えるものを探っていきました。

・太さ、グリッド数の検討

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様々な検討から、より力強くシンプルな「7マスグリッドの図像」が印象に残ると考えました。

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配色はコントラストのある力強さやトーンの幅をルールで決め、式典の華やかさのあるイメージに近い色を組み合わせて検討しました。

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図像は全部で134人分の形を考えました。形はグリッドを用いて制作し、力強く印象に残るような「〇〇っぽさ」を意識しました。
例えば、蛇っぽさや数字の2っぽさなど、この図像を見た人が指をさして連想できるくらいの抽象度を探りました。
また、グリッドでルールを決めて制作しているため、図像全体の統一感も図れ、単体でも複数でも成立させることができました。

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【書体の検討】

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メインビジュアルの世界観にあったフォントを検討しました。

    ・豪華絢爛(元気・ストロング・ゴージャス)
 ・賢さ
 ・ニュータイプ
 ・大人な美学


【タイトルの検討】

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【アニメーションの検討】
当初の案では生き物としての具体度が高く、また抽象度のバランスもバラバラでした。
しかしグリッドを用いたアニメーションにすることでそのバランスも整い、より力強く、成長のアニメーションを多様に表現することができました。

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こうしたグリッドでのアニメーションを制作する上で、いくつかルールを決めました。

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・バーのはじまりの長さを揃える。
・素材パーツを利用する。
・生える、立ち上がっている、殻をやぶる、羽を広げるなど動き全体のイメージを持つ。
・地面ラインを想定する。

地面があることで地に足がついてる生き物感が出ました。こうしたルールを動画班で共有してアニメーションを各図像70パターンほど制作しました。


6. 完成

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外看板(B0横-A)_印刷_

次回の記事では、このように作られていったメインビジュアルがどのように展開されたのか、事例も含めてお話していきたいと思います。

7. 最後に

このような状況下の中での制作は大変困難なものでした。

また、ビジュアル自体も挑戦の連続で検証やリサーチに時間がかかることもありました。それでも多くの方の協力や新しいオンラインでの環境づくりなどのサポートもあり、当初の目的でもあった、より多くの方に来場していただくことができました。
予約制のため、来場者数には制限がありましたが、満員になり、またSNS等でも多くのレスポンスがあり、広報活動として非常にやりがいを感じました。

支えてくれた卒展委員、研究室の方々、関係者の皆様、そしてご来場いただいた皆様、見ていただいた皆様、本当にありがとうございました。

アートディレクション
山本和幸(@Yamkaz)、堀聖悟(@sei_54_

図像アニメーション
竹縄 正規・大桒 福未・布瀬 雄太・野中 大地・岩崎 由紀子・藤岡 真祈・中林 佳夏子・道木 ジェイミー ロレンス・小笠原 勇人・中島 知香


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