統合デザイン学科卒業制作インタビュー #07伊藤秀真
伊藤 秀真(いとう しゅうま)
多摩美術大学統合デザイン学科4期生
深澤直人・長崎綱雄プロジェクト所属
ー卒業制作で制作した作品の紹介をお願いします。
作品は「LIVE」というタイトルで、プリンをモチーフに、生き物らしさの知覚を感じてもらうことが一つのテーマです。
ものに生き物らしさを感じることをアニマシー知覚っていうんですけど、そのアニマシー知覚をプリンで体験してもらう作品になっています。
ーこの作品を作ろうと思った経緯について教えてください。
コロナ禍だったこともあり、元々は癒しについて研究していました。それでカーテンの揺らぎだとか、風で揺れ動く木漏れ日、植物を研究した時に、癒しって「生き物らしさ」から感じるんじゃないかなと思って、いろんなモチーフの動きの研究を始めました。
ですが、動かしたモチーフはどうしても生物というより機械感や不自然さ、動きに面白みがなくて。モチーフには適していないと判断しました。
試行錯誤するにつれて、生物らしさには機構や機械では決してコントロール出来ない動きが重要だと気づきました。それこそが、プリンの揺らぎでした。
プリンの揺らぎそのものに生物らしさを感じたのと、プリンは一般来場者の方でもすぐに作品が理解ができて面白いと感じてもらえるようなアイコニックなモチーフであるということで「プリン」を選びました。
ーテーマが決まってからどのように制作していったのか、制作過程をお聞きしたいです。
モチーフをプリンに決めてからは、プリンがどんな動きをしていたら生き物らしく見えるのか、ということを突き詰めて研究しました。
アニマシー知覚で言うと、ディズニーのフランク・トーマスとオリー・ジョンストン。
キャラクターの感情表現を頂点まで極めたとされる2人が生み出した「キャラクターに命を吹き込む12の法則」なんかを参考にしてプリンに命を吹き込む動きを模索していました。
教授たちのデザイン視点だけでなく、一般にはどんな視点で受け入れられるのかということも幅広く検証していて。
TikTokに作品を投稿して、頂いたコメントから作品をブラッシュアップしたりしていました。
試作段階では、プリン単体の動きもそうなんですけど生物らしさっていうところで「群集」に着目して、プリンが列になって動いている作品などを制作し投稿していました。
一番反響があったのがプリンがスプーンから逃げる作品で、プリンを食べようとして逃げられることが人の頭の中で考えるプリンの概念とハマって受けるのかな、とか何が人に面白いと思ってもらえるのかも作品を投稿し続けることで分かってきて。
「なんだこのアカウント可愛いぞ!」とかコメントいただけたりして、主に若い世代のデザイン関係ではない方からそういった新鮮な意見を貰えたので作品を作るモチベーションと客観的な考え方を再発見できました。
色々な動きのバリエーションがあったんですけど、最終的には「プリンらしい動き」にフォーカスしました。
教授と話して、プリンが飛んだり、泳いだりする動きはプリンらしくないからやらないだろう、という話になって。
プリンをスプーンを叩こうとすると動くっていうのはちょっと起こりそうな感じでいいね、というように人がプリンに持っている概念に近しい動きを考えていきました。
ただ、このプリンを動かす機構を作ることが本当に大変でした。
まず今まで動きのある作品を作ったことがなかったので、機構についての資料を山ほど集めて、どれがプリンに活かせそうかなって考えていきました。
最初はプリンと、プリンを乗せた台の裏にそれぞれ磁石をつけて動かしていたんですけど、プリンが壊れてしまって溶けてきたり、設置面との表面張力で動かなくなったり、磁石だけがプリンの中から突き抜けてしまったりして。
それでプリンの身体と心臓部の磁石を支える骨組みを、3Dでモデリングして実際にプリントしました。更にその骨組みの裏に小さい球体を何個か作って設置面との表面張力が起こらないようにして、やっと動くようになりました。
やっと基本となる機構ができて、それからは動かしたい動きに合わせてモーターや機構をまた新しく考えて動かしていきました。
縦方向の動きを作ろうとしたり、「SLOW IN&SLOW OUT」というゆっくり減速していき、次の絵に移る時は徐々に加速するという動きを作ってみたり、色々な試行錯誤をしたんですけどなかなか難しくって。
最終的に実現できる動きの範囲の中から作品の形態を決めていきました。
色々なモチーフを動かす中でもプリンが一番難しくて、作品を見ただけだとなかなか伝わらないと思うんですけど、本当に苦労しました。
もうプリンを見すぎて、置いてあるプリンを見ただけでも揺れていると錯覚するくらいでしたね。
ー展示空間はどのように考えていきましたか?
展示空間について考えた時に、まずプリンの匂いを感じてもらい、本物だと認識してもらうことを心がけました。
それから最初は音楽をかけてプリンの動きと音楽を同期させようとしていたんです。でも同期させるとこ自体難しかったり、音楽をかけることでアニメーションのような演出になってしまって鑑賞者に感じて欲しいこととは違うと思ったので結局なくしました。
最終的には3つのテーマに分けて展示を行いました。
生き物らしさやアニマシー知覚を研究した時に、生き物らしさを感じるものって3つにジャンル分けできると思ったからです。
1つ目はインタラクション性で、ロボットペットなどに使われる手法で、対象物に訴えかけたら、対象物がそれに対して何かしらの反応をする動きに着目しました。
2つ目は協調性で、魚が群衆になって泳ぐように、ミツバチが小さなコロニーを作るように、生物としての群れを意識しました。単純な横移動する動きなんですけど、ずっと見ていると、時たま全体が調和していき動きが同調するんです。この連なる動きを表現しました。
3つめはランダム性で、生物としての全体と個をテーマにしています。
ゴリラやチンパンジーを見てもどれも同じ顔に見えますが、よーく観察すると、中には案外イケメンなゴリラなんかがいたりするものです。
これは全く同じ機構で向きだけが違う沢山のプリンがそれぞれ違う動き方をします。
同じ機構にも関わらず、磁石や機構の摩擦、プリンの微妙な成分の違いでわずかな変数が加わります。この変数により、元気に動くプリンやだれてくるプリンもあって、この個体差が生き物らしさに繋がるんじゃないかなと思って制作しました。
ー展示を行った感想を教えてください。
普段デザインをしている人からも、一般の人からも反響があったことが嬉しかったですね。
一般の方が動画を撮ってくれたり、子供が「プリンが動いてる!」って言ってすごく喜んでくれて、デザインがわかる人もアート的な価値を理解してくれました。どちらも補える作品が作れて良かったなと思います。
プリンって加工品だけど、こうやって動かすことでそれぞれの個性が表れてきて、そこに生物らしさを感じてプリン一つ一つに、人生や自分を投影して貰えたこと、それこそが今回の答えでありアート的な価値だったと思いました。
ーこの作品を通して、今後やっていきたいことなどあれば教えてください。
実は卒展が終わった感が全然なくって、なんだかのんびりしてたらいけないな、何か手を動かさないとっていうソワソワ感があります。笑
1年かけてこの作品と向き合ってみて、やりたいことはまだあるし、まだまだ伸びそうだなって思っているので今後もやり続けたいです。
今後は、今以上にプリンを愛し今以上にプリンを食して、プリンと共に自らの思う面白さをアート的価値として体現していきたいと思います。
プリンはきっと、生きている。
今後出逢うであろうプリンたちをじっくり観察し、じっくり味わってみてください。
そこにはきっと個性があり、自分にしかわからない愛着や感情が生まれます。
そうした中で、概念としてまた記憶として、プリンは生き物としての命を纏うと思うのです。
TikTokアカウント:pupupupurin41
(インタビュー・編集:徳崎理沙、土屋陽和、中島知香)
今回インタビューした作品は、3月13日から八王子キャンパスで開催される、美術学部卒業制作展・大学院修了制作展Bでご覧いただけます。
他学科の作品も同時に鑑賞できる展示となっております。是非ご来場ください!
美術学部卒業制作展・大学院修了制作展B
会期
3月13日(土)〜3月15日(月)
10:00~18:00(最終日15:00まで)
場所
多摩美術大学八王子キャンパス
東京都八王子市鑓水2-1723
交通
JR・京王相模原線「橋本」駅北口ロータリー6番バス乗り場より神奈川中央交通バス「多摩美術大学行」(運賃180円)で8分、JR「八王子」駅南口ロータリー5番バス乗り場より京王バス「急行 多摩美術大学行」(運賃210円)で20分
詳細:美術学部卒業制作展・大学院修了制作展B