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統合デザイン学科4年生インタビュー#05 川尻優

川尻 優(かわじり ゆう)
多摩美術大学統合デザイン学科4期生
佐野研二郎・小杉幸一・榮良太プロジェクト所属


ー自己紹介と統合デザイン学科に入学した経緯について教えてください。

長崎県出身の川尻優です。佐野研二郎・小杉幸一・榮良太プロジェクトに所属していて、主にアートディレクションを学んでいます。
小さい頃から美術に興味があって、高校受験期には美術系の高校へ進学することも考えていたけど、親の反対を受けて美術系ではない高校に入りました。
でも、やっぱり美術系に進みたいという気持ちが弱まることはなくて、その後は福岡の美術予備校に通ったりしていました。

最初は油絵をやろうと思っていたけど、油絵って社会とどう関わるんだろう?と考え始めて。その時にアンディ・ウォーホルの展示で、アートなんだけど社会に関することを描いているのを見て、社会と美術の関わり合いって面白い、と感じました。それから美術よりはデザインの方に進もうかな、と思うようになりました。

元々は漠然と美大に行きたいと思っていた部分もあって、それだったら色々やってみたくて統合デザイン学科を第一で志望して入学しました。


ー自身の制作スタイルについて教えてください。

 単純に綺麗なものを作ってもグラフィックを専門的に学んでいる人たちには勝てないな、と思ったことがきっかけでアイデアで勝負していこうと思いました。

課題を例に出すと、「東急ストアのエコバッグをデザインする」という課題では、レジ袋を重ねて熱圧着して、レジ袋でエコバッグを作りました。この時はエコバッグで絶対にみんながやっていないことをまず考えはじめました。布以外の素材を考えた時に、レジ袋ってなんで悪いんだろうって考え始めて。エコバッグをレジ袋で作ったら誰も思い付かないだろうなって思って制作しました。

こんな感じで、汚いとか価値がないと思われているものに、「いやそんなわけない」と投げかけるイメージで制作しています。

レジ袋で長く使えるエコバッグ
『RE REJI BAG』

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ー好きなこと、制作する上で大切にしていることは何ですか?

私は全体の世界観を作ったり、まとめることといった、いわゆるアートディレクション的なことに興味があって。

アートディレクションを好きになったきっかけは大学2年時の「傘の柄をデザインする」という課題でした。プロダクト自体を作ることも楽しかったけど、作った傘の写真を撮って、ポスターを作ってという、その世界観を考えることの方がより楽しく感じたんです。

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大学2年生まで、プロダクトに関しては実際に手を動かして学ぶ機会が多かったんですけど、グラフィックやポスターのことって誰も教えてくれなかった感じがあって。その方面に力を入れたいなって思って、大学3年生からはそういったことが学べる佐野研二郎・小杉幸一・榮良太プロジェクトに入りました。

プロジェクトに所属してプレゼンテーションを沢山行うようになってから、一言でコンセプトを伝えることを学びました。コンセプトから考えて、その手段としてものを作ることを大事にするようになったと思います。

私の所属しているプロジェクトは教授が皆代理店出身だからか、1コピー1ビジュアルのように、とにかくシンプルで強いものを作ることの大事さを教えられて、その考えが染みついている感じがします。


ーこれまでに制作した作品について紹介してください。

伝統文化で終わらせない、着物の形のレインコート
『天泣』

卒展インタビュー横位置_アートボード 1

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「新しい日本の土産をデザインする」という課題で、最初に日本文化って何があるかなと考えた時に、和菓子とか侍とかある中で、着物って伝統文化だけどあまりお土産にはしにくいものだなと思いました。着付け体験とかはできるけど日常では着る機会がないから、それを変えられないかなと。

そこで着物と真逆にあるもので、洋風なモノや実用的なモノで考えた時に、「レインコート」って良いなと思って。雨が降った時に使うもので、旅行者も必要だなということで、着物の形をしたレインコートを考えました。

模様を複数のパターンに展開したくて、最初は狂言の意匠とか模様を検討していたけれど、先生に「それだとコンセプトとズレているかもね」と言われて考え直しました。結構悩んでいた時に「あ、文様あるな」と気づいて、色々な種類がある文様の中から雲や雨などの自然現象に関するものを選んでレインコートの模様にすることにしました。

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実はこの作品を作るまでは服のデザインは全くやったことがなくて、着物を作ることになったから、最初はどうしようって悩んで(笑)
それで、着物の型がついている本を図書館で借りてきて試しに紙で型を作ってみたり、市販のレインコートを分解して構造を調べたりしました。自分でリサーチしてここはこうなっているんだとか、着物にはないフードを襟の部分からつけるにはどうしようかと試行錯誤しながら制作していきました。

「日本の雨」を表現したいと思い、しっとりと、でも強さのあるビジュアルを意識しました。イメージに合うようなファッション写真などをかき集めて、どう撮影しているのか、どう編集しているのか見よう見まねで作っていきました。



元から割れている形を活かした食器のブランド
『KAKERA』

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「different」という課題で制作した、元から割れている形を活かした食器のブランドです。欠けているものにこそ個性が生まれ、そこに美しさが宿るのではないかと考え、制作しました。

これは「different」という課題テーマに対して「多様性」を求められているのかなと考えていた時に、ふと「割れたお皿」っていろいろな形になるから面白そうだし、課題テーマにも合いそうだ、と思いついたんです。
それから市販のお皿を買ってきて、実際に自分で割って、割れ目の側面の部分に色をつけて制作していきました。

パッケージのグラフィックは中に入っているお皿の形なんですが、一つ一つ違う形であることを強調したくてこのグラフィックを制作しました。

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カラーリングは、実際に食卓に置かれたときにできるだけ馴染む様に、明度・彩度低めの色を選びました。

講評時に先生からは「元から綺麗なお皿を割って形を作るより、食器の製造工程で壊れてしまったものを回収してブランドにする方が良いのでは」という意見を受けて。自分でもそのアイデアの方が良いとは思ったんですけど、流石に難しかったのでそこが反省点ですね。

統合デザイン学科では、色々な分野の課題に取り組む度に常に新しいことを取り入れるので、やったことないけど挑戦してみようっていう気持ちが自然と身についていて、技術に対するハードルが下がっているように感じます。


ー卒制のテーマとそれに至った経緯についてお聞きしたいです。

卒制は、以前課題で作ったレジ袋のエコバックを発展させて、レジ袋を使ってスーツやシャツといった長く使えるものを作ったり、レジ袋とは対極にあるラグジュアリーなものを作っています。「レジ袋」への印象や価値観を変えるということがテーマです。

私が大学3年時に手に入れた「ビニールを圧着させる」という技術は私しかやっていないし、何か活かせそうと思ったこともあって、このテーマで制作することにしました。


ー卒業後はどんなことをやっていきたいですか?

元々は広告系に進みたいと思っていたんですが、就職活動をしている時、自分の本当にやりたいことと違うなと思って、今は昔から好きだったファッションの領域に方向転換しようとしています。ちょうど最近環境や社会のことを勉強し始めたから、ファッション、社会、学んできたデザインを繋げて何かできないかなと思っています。

昔から不登校の子に手紙を書いたり、一緒に登校したりという経験があったり、家庭環境の影響もあって、元々社会や人に興味があったんです。

就職活動で悩んでいた時に、美術の道以外だったらカウンセラーになりたいな、と高校の時に考えていたことを思い出して、本当に興味のあることを調べ出したら環境も政治も社会も深刻な問題が起きていることを知って。少しずつそういう分野に興味が湧いてきました。

メンタルヘルス、政治、環境、ファッションデザインが何か繋がったら面白いし、これからやりたいと思っていることです。

(インタビュー・編集:徳崎理沙、土屋陽和、中島知香)

次回の統合デザイン学科4年生インタビューは…!

「たのしいをつくる」
戸川純佳(とがわ すみか)

多摩美術大学統合デザイン学科4期生
米山貴久・米田充彦プロジェクト所属

「たのしいをつくる」を自身の制作スタイルとしている戸川さん。
3年生になってから自主制作では「楽しいもの」をつくり、プロジェクト課題では「楽しさを邪魔しないもの」をつくるといったように、自主制作と課題でものづくりの目的を分けて制作するようになったそうです。そのきっかけやそれぞれの作品とは....!?
4年生インタビュー第6弾は明日公開です!乞うご期待!

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