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統合デザイン学科卒業生インタビュー#01 遠藤紘也さん

遠藤紘也(えんどう ひろや)
ゲーム会社勤務 UIデザイナー
統合デザイン学科1期生 菅俊一・中村勇吾プロジェクト(*1)
(※1 現在は菅俊一プロジェクトと中村勇吾プロジェクトに分かれています。)

現実空間や鑑賞者の身体などを考慮した上で、メディア表現とそれらがどう関わることができるのか、またそれによってどのような新しい表象が起こりうるのか、ということをテーマとして制作・研究を行なっている。


ー統合デザイン学科ではどのようなことを学んでいましたか?

1、2年次の基礎演習が一通り終わった後は、メディア表現を主に扱う菅俊一・中村勇吾プロジェクトに所属しながら、プログラミングによる制作を行うソフトウェア演習(*2)や、実写映像の編集からCGまで扱う映像演習などを履修していました。

※2  デザイン演習
"3・4年次の専門課程では、全ての領域をつながった一つのデザインと捉え、各教員が社会に即したテーマをゼミ形式で行う「プロジェクト」を通じて統合的なデザインを実践します。さらに組み合わせを選択できるデザイン演習により、個々に必要とするスキルをより深く学んでいきます。"
引用:統合デザイン学科|受験生サイト 多摩美術大学

プロジェクトでは色々な課題があったのですが、個人的には人間の知覚や認知科学などの分野を参照しながら、メディア技術を用いて新しい体験を制作することに挑戦していました。
特に鑑賞者のアクションに対して何らかの反応を起こすインタラクティブなものを作ることが多かったです。

インタラクションを考えるときに最も意識していたことの一つに、説明なしで鑑賞者に自然とこちらの意図する行為をしてもらえるように設計するということがあるのですが、これは統合デザイン学科で学んだアフォーダンスなどの考え方にも強く影響を受けていると思います。


ー卒業後、現在はどのようなことをされていますか?
 今後はどのようなことをやっていきたいですか?

2018年に統合デザイン学科を卒業後、東京芸術大学大学院の映像研究科メディア映像専攻に進学し、インタラクションデザインやメディア表現について学びました。

修了制作では“妙なアクチュアリティ”をテーマに、トグルスイッチを介して影の小人と触れ合う『小人の仕事』という作品を作りました。

インタラクションが生む妙なアクチュアリティ
『小人の仕事』
鑑賞者がスイッチを倒すと光がつき、現れた影の小人にスイッチを押し戻されてしまうインタラクティブアート。
小人がスイッチを戻す理由は定かではないが、鑑賞者はその律儀さを確かめるように(あるいは小人を困らせてやろうといったような気持ちで)ついついこの独特なコミュニケーションを繰り返してしまう。

2020年に修了し、現在はゲームを始めとしたエンターテインメントを作る会社でUIデザイナーとして働き始めたところです。

今後やっていきたいことですが、文章や本といった今まであまり扱っていなかったメディアでの表現に興味が湧いてきているため、そのあたりにも挑戦してみたいと思っています。


ーどのように進路を決めましたか?

大学での制作を通して興味を持ったインタラクションデザインやコミュニケーションデザインの分野を探求すべく、メディア表現に特化した大学院に進学しました。

大学院でも基本的には同じようなテーマで制作を続けていたのですが、就職するとしたら自分が一番興味のあるインタラクションデザインを、画面の中だけでなく物理的な要素も含めて総合的に考えることができる場所が良いと考えていました。

実用的で役に立つプロダクトやサービスについて考えることも好きなのですが、インタラクションデザインを基軸に新しい体験を作りたい、という一番根っこの気持ちが強くなっていくにつれ、ゲーム業界が適しているのではないかと考えるようになりました。
元々テレビゲームで遊ぶのは大好きでしたし、ゲームはインタラクションデザインの結晶といっても過言ではないほど、自分の興味と直結しているように思えたからです。

他にも自分の希望として、特定の文化や社会的背景になるべく依存しないニュートラルな表現や体験を作りたい、ということや、実験的で新しい試みを積極的に行なっている会社であることなどがあり、それらの条件に当てはまりそうなところを探し、無事に入社することができました。


ー特に印象に残っている課題や作品はありますか?

1年次のインターフェースデザインの授業は、どれか特定の課題という訳ではなく授業全体を通して印象に残っています。
身の回りの世界を観察して違和感や面白さを発見する観察の力や、物事の考え方を養うような課題が多く、世界を見る解像度がぐっと上がったような感じがしました。

プロジェクトに所属してからは、“操作する映像”という課題が特に印象的でした。
この課題は、何かしらのセンサーを用いて情報をコンピュータに取り込み、その情報を使って何らかの映像を制御することによって新しい体験を作る、というようなものでした。

自分はジャイロセンサーを仕込んだ専用のボードに体験者が乗り、体重移動でボードを傾けると映像の中の部屋も同じように傾いてしまう、という作品を作りました。

身体感覚が如実に反映される映像
『The tiltable floor』

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専用のボードに乗り、体重移動でボードを傾けると映像の中の部屋も同じように傾く。
足元に伝わる平衡感覚が目の前の映像に反映されることで、自分の身体で部屋を傾けているかのような体験を生む。

この作品自体の出来は今思えばまだまだなのですが、この課題のおかげでマウスやキーボードといったコンピュータに初めから付属しているデバイス以外からの入力を使って、ある程度自由にインタラクティブなものが作れるようになりました。

触って何かしら反応するものが自分は好きなのだと自覚したきっかけでもあり、この課題以来センサーと映像を組み合わせる手法は頻繁に使っています。


ー卒業制作の作品と、その作品に至った経緯を教えてください。

卒業制作はディスプレイとカメラを用いた『次元の混在』という作品を制作しました。

鑑賞者を取り込む、他人事ではない映像
『次元の混在』
映像の中の人物が鏡をこちらに向けると、ディスプレイの前の現実空間と映像の中のモノがどちらも鏡に写り込む。
バーチャルな映像の中と現実空間が、映像内の鏡を通じてリアルタイムに合成されている様子を鑑賞するうち、四角い枠の中に収まっていると思っていた映像はもはや他人事ではなくなってしまう。

私がこの卒業制作で行いたかったことは、鑑賞者を巻き込む映像によって、ディスプレイと自分(鑑賞者)の間に新しい妙な感覚を湧き上がらせることです。

それまでの制作でディスプレイ上の映像を扱う際や、家でテレビを観ているときなど多くの場面で、ディスプレイとそれを観る自分の間に、ある独特な距離を感じていました。
ディスプレイの中でどんなにすごいことが起きても、所詮それは自分とは関係のない隔たれた世界の話であるという感覚です。

そもそも映像というのは鑑賞者の都合などおかまいなしに勝手に時間が進んでいくものでもありますが、この根本的に他人事であるという認識の映像の中に、自分の像が映り込んでいたらどう感じるのだろうかと思い制作しました。


ー卒業制作、卒業制作展を通して、どんなことを感じましたか?

正直、あまり上手くいったとは言えない結果でした。

作品の構想はそんなに悪くなかったと思っていますが、技術不足や時間の使い方が下手だったせいで目標としていた手応えまで持っていくことができませんでしたし、自分が委員長を務めた展示全体としても、何か大きな工夫をすることができず、展示として成立させるだけで精一杯でした。

それでも、展示期間中はずっと自分の作品の近くに張り付いて、来場者の反応をずっと観察していました。
他の人の作品に対する来場者の反応なども含めて、展示という場は全て記録しておいたほうが良いくらい本当に学びが多い場所ですので、目に焼きつけるくらいのつもりで観察することをオススメします(あくまでこっそりやってください)。

卒業制作はもちろん後悔しないに越したことはないのですが、今になって思うと実は失敗してもそこまで大変なことにはなりません。

学年揃っての卒業制作展という場はそこが最後かもしれませんが、これからも何らかの形で制作を続けていく人にとっては単なる通過点の一つでしかないですし、どうしても気に入らなければもう一度作り直して一人で展示するなど、いくらでもリベンジが可能です。

思い通りの制作ができた人はもちろん、あまり上手くいかなったという人も、大勢の来場者に作品を見てもらえる貴重な機会を楽しんで(そしてよく観察して)ほしいと思います。


ー統合デザイン学科での学生生活はどうでしたか?

振り返ってみると、とても自分に合っている場所だったと思いますし、何より楽しかったです。

入学前は自分がどんなことに興味があるのか全く分かっていなかったのですが、入学してからは授業や先生、同級生との会話を通じて比較的早い段階で興味の方向性が見えてきましたし、現在も続いている大きな制作テーマを見つけることもできました。
とりあえず一通りやってみる、というのを統合で経験できたのは大きかったです。

プロジェクトに所属してからは特に「自分はこんなことが好きだったのか!」という嬉しい発見の連続で、本当に楽しかったです。
ですが、だからこそ一つ意識していたこととして、大学の外との繋がりや作品発表の場をなるべく多く持っておくようにはしていました。

どこの学科でもそうだと思うのですが、学科内で作品を作り講評を受けているだけだと、そこでの価値観や評価だけが正しいといったような感覚になってしまう可能性があると思います。
自分の場合、学科内で良い評価をされた作品を外部で展示したところ、来場者の方の反応はいまいちだったことがあり、その逆の場合もありました。
学科内での評価が全てではないですし、かと言って外部での評価も全面的に信じていいものでもないと思います。

なるべく多くの指標や意見に自分の作品を晒しながら、何を良しとするかを最終的には自分で考えることがきっと一番大事で、大学や先生はそのプロセスを強力に手助けしてくれる心強い味方なのだと思います。

WEB:hiroya-endo.net
Twitter:@hiroya___endo

(インタビュー・編集:徳崎理沙、土屋陽和)


次回の統合デザイン学科卒業生インタビューは…!

世の中を楽しく、ハッピーにしたい。
小野ひかり (おの ひかり)
広告代理店勤務 デザイナー
統合デザイン学科1期生 佐野研二郎・小杉幸一・榮亮太プロジェクト出身

統合デザイン学科ができたばかりの頃に1期生として入学した、小野さん。
参考になる作品もない中、統合デザイン学科でどのように課題に向き合い、どんな作品を作ってきたのか。2週間で制作したという卒業制作とは…!
卒業生インタビュー第2弾は明日公開です!乞うご期待!

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