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ふざけんな

猫がにゃー。
犬がワン。
ふざけんな。

何が動物だ。
ふざけんな。
何がふざけんなだ。
ふざけんな。

ピンロンリンロン。
なんだ今どき、この安っぽいチャイムは。
「っらしゃいませー」
ふざけんな。何がコンビニの店員だ。

「おい、貴様、態度が悪いぞ。」
何が店長だ、ふざけんな。
「あっ、すみません、気をつけます。」
何謝ってんだ。ふざけんな。
それと、「あっ」て何だ。

「オハヨ」
「おはよう、ヨーコちゃん。」
何が美人だ、ふざけんな。
「また店長に言われた?気にしちゃだめだよ」
うるせえ、ふざけんな。
「うん、ありがと」
なにデレデレしてんだ、ふざけんな。

毎日、おれはこの「ふざけんな」を数えて暮らしている。
今日は、89だった。
ふざけんな。
90になった。
これが100になった時、革命が起きる。
何が革命だ、ふざけんな。(91)
何が厨二だ、ふざけんな。(92)

今ならまだ、ヨーコちゃんがシフトだな。
店いってみよう。
何がワクワクだ、ふざけんな(93)

「あ、コージくん」
「ウス」
何がウスだ。
お前、そういうやんちゃさ無いだろ。かっこつけんな。
「ねえ、もうちょっとでシフト終わるから、待っててくれる?」
「え、そうなの?うん、いいよ」
知ってただろ、ふざけんな。(94)
俺はワクワクしている。
これからの展開に。
このどうしようもない世の中の、どうしようもない境遇で、ちっぽけな人間はちっぽけな夢を追う。
ふざけんな。おれはこんなことのために生きてきたのか?(95)

雑誌コーナーには、今日も最新の変わり映えしない情報が並んでいる。
「賃上げの嘘!本当の待遇と出世」
「世界の『上位1%』を選ぶ時にかんがえること」
「医療の働き方改革」
「知ってる?もう聴いた?」
ふざけんな。(96)

カップラーメン、カップやきそば。
体に悪いが超ウマい。
何がだ。ふざけんな。(97)

「お待たせー」
クソッタレ、めちゃめちゃ可愛いじゃねえか。
ふざけんな。(98)

「ねえ、ヨーコちゃん」
「なあに?」
「おれ、だめなんだ」
「え?」
「多分、このあとおれは、ヨーコちゃんをぶん殴って、レイプするんだ」
「は?」
「だから、逃げてくれ」
「ねえ、コージくん、何言ってるの?」
「いいから逃げて」
その後、ヨーコちゃんの口から驚きの言葉が
「ねえ、ふざけてんの?」

どっち?
これは1カウントなのか?
厳密に言えば、「ふざけんな」は命令、「ふざけてんの?」は疑問系だが、この場合、用法として置き換え可能という意味では同義だ。
そして、発している主体が異なるという点についてだが、もとより、個人というものの境界線は人間が思っているほど明確ではない。
ある時は、二者が一者のように振る舞うし、ある時は一者が複数の主体に分裂する。

「いたって真面目だ。本当におれはやるぞ」
わかっている。
おれにそんな勇気はない。
「いいわね」

ん?
「面白そうじゃない。やってごらんなさいよ。ぶん殴ってレイプ」
「いや、そういうふうにいわれると。だいたい、この場合果たしてレイプが成立するのかどうか・・・」
「ふざけんな!ふざけんなよテメエ!ぶっ殺すぞ!
覚悟決めてから言えやヘタレが!
喰らえ!」

ヨーコちゃんが、落ちてたスコップでおれの側頭部にキツい一発をキメる。

ゴイン。

おれも負けじと、ヨーコちゃんの足にタックルをキメる。
血が目に入って何も見えん。
「テメえ、やるじゃねえか。」
ヨーコちゃんはおれにチョークをキメる。
今は、ヨーコちゃんの柔らかい体を味わっている場合ではない。死ぬ。

「いってええ!」
アゴを滑らせ、ヨーコちゃんの腕に噛みつく。
ヨーコちゃんの指がおれの目を突き刺す。
これで勝負は決した。

気がつくとおれは髪の毛を掴まれ、アスファルトに顔を叩きつけられていた。
「ふうっ、ふうっ」
「はあ、はあ」

息を切らせた二人が、深夜のコンビニの駐車場で寝転がる。
「ヨーコちゃん、強いね」
「コージくんも、なかなかやるじゃない」

しばらくの間、二人の荒い息遣いが、虫の声に混ざる。
バイクが遠くで走っていった。

「あ、流れ星」
「ねえ、ヨーコちゃん」
「なに?」
「結婚しよう」

こうしておれたちは、ちっぽけな日常にちっぽけな革命を起こしたのだった。

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