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空と地面

青空が美しい。
飛行機が雲を引きながら飛んでいく。
ささやくような轟音がその後を追いかける。

あの飛行機からは、今、地べたに這いつくばって働いている僕らの姿は見えないのだろう。
もし、窓からのぞく乗客がいたら、彼が見るのは風景としての地上だけだ。彼は呼吸する。これから待っている旅の予感、または、過ごしてきた思い出が甘い空気となって客室を満たしている。例えそれが、作られた気圧だったとしても。

落ちればいいのに。

そうすれば、あの飛行機に乗らない正しさが証明される。
自分の浅ましさを自覚すればするほど、やはり彼らが輝いて見える。
僕らにできることは、せめてあの飛行機が落ちれば、という愚かな妄想を展開することしかない。それは、他力本願の究極の形だ。
自らの幸福を、到来することでしか期待できない情けなさ。
例え、落ちたとしても彼らはその飛行機のチケットを自ら手に入れたのに。

チケット。
果たしてそれは、どれくらいが運で、どれくらいが力なのか。

ともかく、俺はシャベルを動かして穴を掘る。
土は乾いていて、掘ったそばから崩れて、穴は全然深くならない。
もう、倍くらい掘れてていいくらい仕事をした。
穴にはほとんど影が落ちていない。

俺は再び手をとめ、周りを見る。
同じように上半身裸で、穴を掘る男たち。
右を見ても、左をみても、この気の進まぬ仕事を淡々と続けている。

俺は腹が立ったので、右隣のやつをシャベルで殴り倒した。
周りの奴らが何事かと俺を見る。
あーあ、やっちまった。
状況を理解される前に、一番近くにいるやつに襲いかかった。
咄嗟にガードされた。
がちん、とシャベルがぶつかる音。
構わずシャベルで突きまくる。

突然、大きな音がして地面が俺にぶつかってきた。
違う。
後ろからシャベルで殴り倒されたのだ。
脇腹にシャベルが刺さる。
地面が暗くなったのは、取り囲まれたからだろう。
激痛に次ぐ激痛。意識が遠のく。

飛行機の音が薄れていった。

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