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米国雇用統計の読み方

発表元

米国労働統計局(U.S. Bureau of Labor Statistics)
 URL : https://www.bls.gov/


発表日時

毎月月初の金曜日、日本時間21時30分


見るべきポイント

米国労働統計局Web Site トップページから最新の雇用統計にアクセスできます。

https://www.bls.gov/

見るべきポイントは3つです。

  • 最初のページに書いてある概要

  • Household Data, TableA(家計データ)

  • Establishment Data, TableB(事業所データ)


概要

発表資料の冒頭に、①非農業部門雇用者数の変化、②失業率、が記載してあります。ニュースで最初に伝えられるのもこの2つの数字。まずはこれの推移を確認するだけで雇用情勢のトレンドがだいたい分かります。

以下の例では、非農業部門雇用者(nonfarm payroll employment)が15万人増え、失業率(the unemployment rate)が3.9%になった、と述べています。

Total nonfarm payroll employment increased by 150,000 in October, and the unemployment rate changed little at 3.9 percent, the U.S. Bureau of Labor Statistics reported today. Job gains occurred in health care, government, and social assistance. Employment declined in manufacturing due to strike activity.

THE EMPLOYMENT SITUATION — OCTOBER 2023

失業率と非農業部門雇用者数は、過去2年分の推移をグラフで確認できます。

From THE EMPLOYMENT SITUATION — OCTOBER 2023

家計データ

4ページ目くらいに、ページ全体を埋め尽くす大きな表があります。

From THE EMPLOYMENT SITUATION — OCTOBER 2023

この表には家計(労働者)の側を調査した結果が記されています。

まず、全人口(軍人、施設収容者を除く)、就業者人口などとともに失業率が記載されています。
そして失業率や失業者のさらに詳細な属性が続きます。

たとえば失業率は人種別、年齢別、男女別、最終学歴別のデータもあり、白人(White)、黒人(Black or African American)、ヒスパニック(Hispanic or Latino ethnicity)別の失業率はだいたいいつも白人が最も低い点はUSAの闇を感じます。

失業者は失業期間別(5週未満とか27週以上とか)に何人いるのか、職探しをあきらめた人は何人いるのか、パートタイマーのうち仕方なくパートタイマーしている人が何人なのか、など詳しく見ていくと経済状況を推測するヒントが見えるかもしれません。

特に景況感を見るうえでは、全体の失業率に加えて、仕方なくパートタイマーしている人(Part time for economic reasons)の絶対数や推移が参考になると思います。


事業所データ

家計データの次のページには、事業所データの表があります。こちらもやはりページ全体を埋め尽くす大きな表です。こちらは企業の側を調査した結果が記されています。

From THE EMPLOYMENT SITUATION — OCTOBER 2023

過去4か月分の、業種別就業者数変化、平均週労働時間、平均時給、週間平均給与などが記載されています。

インフレが激しい昨今は、平均時給、週間平均給与の値や推移が重要指標と言えるでしょう。FEDが利上げするか、現状維持するか、あるいは利下げに転じるかの判断に影響します。


考察する際の注意点

家計データと事業所データが整合しないこともあり得る

家計データは労働者側を、事業所データは企業側をそれぞれ別に調査したものなので、整合するとは限りません。
たとえば、失業したけど職が見つからず仕方なくパートタイムを2つ掛け持ちしている労働者にあなたは働いていますかと尋ねたら「失業している」と答えると思います。が、この労働者は2個所から給料をもらっているので事業所データでは雇用者が2人増えているように見えてしまいます。こういう状況の労働者が多数いた場合、家計データを見ると景気が悪そうで、事業所データは景気が良さそうに見えるでしょう。


失業率が過小に算定される可能性がある

失業率=失業者数÷労働力人口、で計算できますが、雇用統計の失業率では、4週間以上職探しをしていない人を労働力人口に含めずに計算します。このため、リーマンショック後のように経済状況が厳しく職探しをあきらめてしまう人が増加した場合、失業率の分母が小さくなって失業率が改善してしまうことが起こり得ます。失業率が減少しても景気が回復しているとは限らない、ということは憶えておいた方がよいです。


Keywords

Part time for economic reasons

仕方なくパートタイムをしている人。
直訳すると「経済的理由によるパートタイム」ですが、他に仕事が見つからなくて仕方なくパートタイムをしているとか、会社が生産調整をしていて雇用契約は継続中だが仕事をしていないとか、不本意な理由でフルタイムに働けていない人を指します。


Marginally attached to the labor force

直近4週間は職探しをしていない人。
直訳すると「労働力にわずかに付帯する」。
前述のとおり、雇用統計基準(U3)では労働力人口としてカウントされません。


Discouraged workers

職探しをあきらめた人。
こちらも Marginally attached to the labor force と同じく労働力としてカウントされません。


Unemployment Rate

失業率。
雇用統計基準のU3では、失業者数/労働力人口×100(%) で計算されます。
失業率はU4、U5、U6という別の算定方法もあり、それぞれ

  • U4 : ( 失業者数+DW )/( 労働力人口+DW )×100(%)

  • U5 : ( 失業者数+MALF )/( 労働力人口+MALF )×100(%)
    U6 : ( 失業者数+MALF+経済的理由によるパートタイマー )/( 労働力人口+MALF )×100(%)

と定義されています。ただし、
  DW : Discouraged Workers
  MALF : Marginally attached to the labor force


参考記事


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