一寸法師
昔、あるところにおじいさんとひいおじいさんがおりました。
おじいさんは山へ芝刈りに、ひいおじいさんは河川敷にゴルフにいきました。
おじいさんが河川敷で素振りをしていると、川上から、ドンブラコドンブラコと大きな桃が流れてくるのを一寸法師が追いかけてきました。
「ひいおじいさん、桃を獲るのを手伝ってくださいな」
一寸法師は700年ぶりの大物に一生懸命です。
「おお、桃か」
けれどひいおじいさんは耳が遠くて聞こえない様子
一寸法師は逃してなるものかと流れの速い外側に一回振って加速します。
ひいおじいさんも興奮して追いかけます。
一寸法師は僕の獲物ですとひいじいさんに伝えなければならないと考え、
「それ僕のです、一寸法師のです。ここにいる僕のです」
と大きな大きな声を出しました。
「あ、お椀も流れちょる」
ひいじいさんは目も悪いご様子でお椀に気づくのがやっとのようです。
「お椀の上、一寸法師、僕です僕。桃は僕のです」
一寸法師はもう必死です。するとひいおじいさんは、
「おおせせらぎが話しかけてくる、ふむふむそういうゲームじゃな」
と架空の存在と交信してなにやら納得をすると、矢継ぎ早にボールを置いてはスウィングします。これには流石の一寸法師も防戦一方。
旗包みを恐れ帆を降ろし、箸で巧みにボールをはじくはじく。
どうやらひいおじいさんは、お椀にボールを入れた景品として桃がもらえる仕組みと勘違いしている模様。
一寸法師はたまらず、
「あのじじぃ、ラリってやがる」
と吐き捨てました。すると、
「わしの悪口を言ったのはお前か」
と鬼のような目で一寸法師を刺してきます。
そうです、ひいおじいさんは耳が悪くも、目が悪くも、ましてラリってなんかいませんでした。
ひいおじいさんは
「年寄りの娯楽じゃよ」
と酷く冷酷に言ったかと思うと、桃とお椀つきの一寸法師をひきあげました。
一寸法師は目の前のひいおじいさんがまるで墨汁のように黒い存在に感じられます。
「この辺では、川にちっちゃい人間つきのお椀が流れてきて気持ち悪いと有名じゃ」
一寸法師は当惑しながら
「僕は、何も悪いことはしていません」
と答えるのがやっとです。
「お前自身はな。だが、近年の大量発生により村のお椀が足りんくなっているのもまた事実。これ以上お椀や箸を盗まれては汁物が食えんというものじゃ」
一寸法師は
「そうですか・・・。気候でしょうかね。僕達が細胞分裂しやすい環境になって、里は分けよ増やせよの大騒ぎ。」
と申し訳なさそう。
「そこで増えすぎた一寸たちを捕獲すべく、芝刈りに行ったじいさんに桃を流してもらう⇒調子こいた一寸法師が追いかける⇒わしが練習がてらお椀を狙う⇒当たってお椀が沈む⇒川の精があなたが沈めたのはプロトタイプの一寸法師ですか、それともありがちな一寸法師ですかと聞いてくる。そこでわしがプロトタイプを選び、即根絶やし。懸賞ガッポリ。っという腹じゃ」
一寸法師は震えて
「なるほど、私がここでこうして溺れ死ねば・・・。しゃーしーわっ!!黙って聞いてりゃ勝手なもんじゃねーか。え?だいたいやな、保護して大切に育てれば糸通しから精密機械に至るまで修理工としてスペシャリストにもなれんだぞ、馬鹿野郎。一寸をゴミのように扱い、果てにはプロトタイプ捕らえて根絶やしだ?あわよくば儲ける?ふざけんじゃねーよ」
ひいおじいちゃんは
「そのちっちゃい口を慎め。糸通しはまだしも精密機械の修理なんぞ新製品売上の障害になるだけじゃ。今、値打ちがあるのは、ヘラクレスオオ法師だけじゃ。一寸は佃煮にしても価値が無いわ」
一寸法師は怒りに顔を赤くして
「あ~わかった。もうてっぺんきちゃったもんね。僕は平和的にいきたかったんや。だから若い衆を必死に抑えて共生の道を探ってきた。目立つ行動も極力避けてきた。」
「桃は?」
「大物だったから・・・」
「ふん。」
「とにかく戦だ戦。お前の家に独立国家を宣言してやるわ」
「取るに足らん。一寸が幾ら集まってもたかが知れてておるわい」
と、二人は自軍の陣へ戻りました。
一寸法師は川を下るしかできないのではないかと思われがちですが、実はUFOのように飛びます。一寸界で発明の父と呼ばれる平賀原寸法師による発明で、お椀に特殊なコーティングを施すだけで、エコにも優れ、生活も一新するような快適性をもたらしました。
飛んで自陣に戻った一寸法師は7千の兵力を全国から召集するべく早椀をだしました。しかし、各々の土地では現地レベルの問題も多く、また、平和慣れした一寸共も首を縦に振りません。やっと集まったものは千五百。中にはお椀を持たない者までいました。
一方、ひいじいさんは村人を集め今日の出来事を話しました。皆はとうとうこの時が来たかと息を呑み、ひいおじいさんを酷く哀れみの目でみました。帰りしな、じいさんに「かわいそうにとうとうボケましたか。でもね、見捨てずに最期まで付き添ってあげなよ」と釘を刺す者までいました。
さて、一寸陣営。千五百の兵力に不安を感じ、斥候を放ったところ、じいさん、ひいじいさん以外に援軍は無いとの情報を得てお椀を叩いて喜びました。そして、作戦会議に入りました。
一寸法師「我々が一寸という事を差し引いても千五百は十分な数じゃ。土間と裏から一気という正攻法でどうだろう」
一寸軍師「幾ら多勢に無勢とはいえ策無しに人間に向かうのは危険かと存知まする。なにせ武器は箸のみ。やはり自然の力を借りた方がよろしいかと」
一寸法師「ほう、自然の力とな。すると火か」
一寸軍師「左様。私の記録によると明日の丑。乾ききった藁と舞う風より瞬く間に火が回るものと考えられます」
一寸法師「じゃが、奴らには甕がある。早々に気づかれたら厄介だぞ」
一寸軍師「そこで一計を案じるのです」
一寸法師「言うてみぃ」
一寸軍師「は、和睦を申し出るのでございます」
一寸法師「なんと・・・。わしは戦を決めたのじゃ。もう曲がらぬぞ。さてはお主、ひいじいちゃんの回し者ではあるまいな。」
一寸軍師「まぁまぁそうお怒りなさいますな、芝居でござる。」
一寸法師「芝居とな」
一寸軍師「法師にはその場で酒を酌み交わして頂きます。奴らにとってコレが最期の晩餐となりましょう。しかし法師は自前の水を、奴らにはこちらが持参する酒を飲んでもらう。その時分に私が手を回し、法師が厠にお立ちになると家を出た後、火を放ちます。いかがか?」
一寸法師「おもしろい」
一寸軍師「法師にも多少危険が伴いますが、これは相手を油断させる重要な布石。その役お勤めいただけますでしょうか」
一寸法師「国の運命をかけた一計。その一計に我がのらいでか」
一寸軍師「ふっ、ありがとうござりまする」
丁度そのころ、おじいさんとひいおじいさんは一寸達の攻撃に怯えておりました。もともと70歳と93歳な上に援軍も来ず、敵も見えずらいとなると不安は募るばかりです。玄関には鋤、鍬を準備し、枕の下には包丁を忍ばせました。そして家の生垣の周りにぐるっと水路を設け、一寸が容易に入れぬよう城の守りを強固にするのみが作戦でした。それをみた村人は彼らは自らの世界に迷い込んでしまったと大変気の毒に思ったそうな。
次の日の朝になり、夜が来ました。攻めてこない一寸に多少気を楽にしたおじいちゃんとひいおじいちゃんは囲炉裏を囲んで遊廓の話に花をさかせていました。
一寸法師「今入るの気まずくないか?」
やっとの事で水路を乗り越えた一寸軍は多少の疲れは見せるものの、それ以上に70と90の遊廓トークに怯えていた。
一寸軍師「え?童貞法師ですか?」
一寸法師「いや、分裂だしな。わしらは」
一寸軍師「うろたえないでいただきたい。万事計画通りでございます。されば法師、心をお乱しにならず乗り込んでいただくのが懸命かと」
一寸法師「心得た。ここからはわし1人じゃ。合図をまて」
というと、2本の大徳利を担いで玄関へと進んでいった。
牛乳瓶箱の横に一旦おいて、
「頼もー頼もー」
「どちらさんで」
驚くことに半立ちのひいじいちゃんがでてきます。
「昨日の一件和睦したく参って候」
「和睦とな」
「いかにも」
「・・・帰れ」
「ひいじいちゃんよ。敵将が一晩の思案の末、平和的な提案を持ってきたというに、礼にかけるのではないか。」
「いいおるわい。一寸の諜報は全国随一と聞く。我々の状況を知らぬはずはあるまいて」
「無論、援軍が無いことは知っておる。それを嗅ぎ付けて我が軍は2個師団も増えおった。志が無い連中よ」
「されば一寸法師よ。お主は何故にここに参った。さしずめ何かの計略であろう」
「詳しい話は杯を傾けつつでも・・・」
「酒などと・・・。わしを酔わせてどうするつもりじゃ」
「ひかえよ!!見よ、この一寸法師を。我は単椀でここに乗り込んできておるではないか。その覚悟をわかろうとせず、頑なに怯えるなど、匹夫もわらうわ!!」
「さすが一寸法師、器がでかいのぅ。入りたまえ。」
遠目に成り行きを見守る一寸足軽は、一寸足軽頭に「家に入った」の合図を送りました。
一寸足軽頭「一寸軍師殿、法師はうまく取り込み、家の中へ入りましてございます」
一寸軍師「よし、焼け」
一寸足軽頭「な、なんと?」
一寸軍師「焼けと申しておるのじゃ。どうした、足軽に命令せぬか」
一寸足軽頭「できませぬ。私は一介のゴロツキでした。昼は博打、夜は酒。いざ働こうと町へ出ましものの、箸にも棒にも引っかからない。そんな私を、法師様は器用な箸裁きでつまんでくれました。一寸先は闇。そんな状態から今までずっと目をかけて頂いた法師を、裏切るなどできませぬ。」
一寸軍師「昔話の中で昔話をするな。焼くのじゃ。うちでの小槌もわしの家来がもうじき見つけよう。」
一寸足軽頭「う、うちでの?軍師殿・・・。手に入れた暁には?」
一寸軍師「そちも、その気になったか。あーはっはっはっはそれは愉快。そうじゃの、名椀の輪島塗をそちに与えよう」
一寸足軽頭「有難き幸せ」
軍師の謀反心を知らぬ一寸法師は。ひいじいちゃんとおじいちゃんと水対酒で宴会をしております。
一寸法師「とうわけでひいじいちゃん。我々は和睦。それも無条件和睦を提案しておるのです」
ひいおじいちゃん「割子そばの3段重ねからそれぞれ出てきて、ヒーロー登場みたいなん、一寸界ではやっとんの?」
ドサッ
一寸法師「酔いつぶれましたな・・・。というわけでおじいちゃん。我々は和睦。それも無条件和睦を提案しておるのです。」
おじいちゃん「一寸レッド、一寸ブルー、一寸イエローみたいなん、やっとんの?」
ドサッ
一寸法師「おじいちゃんも・・・。案外楽な・・・、なにぃしびれが・・・」
ドサッ
一寸足軽頭「法師は時が長くかかった場合、自らのお命と引き換えにとおっしゃっておったそうな。出てこられぬ所をみると覚悟を決められたと見える・・・。焼くのじゃ」
一寸足軽共「ほんまでっか?やきまっか?やりまっか?やっ点火?」
一寸足軽頭「やってええ」
一寸足軽共「合言葉どおりじゃ。火を放つぞ」
一寸軍師「まてぃ!!まだ小槌が見つかっておらぬ。中に入り皆生け捕って参れ」
一寸足軽「法師は?」
一寸軍師「おつれしなさい」
一寸足軽「いくぞー!!」
2日後、体調が戻った2人を一寸軍師が検める
一寸軍師「ひいおじいちゃん、おじいちゃん。我々に反抗せねば何もせん。これからも二人で仲良く暮らせい」
ひいおじいちゃん「いいのか・・・。」
一寸軍師「よろしいですぞ。我々の目的はもうかわっておるのでな」
ひいおじいちゃん「わかった。失礼する」
一寸軍師「ヤツを引き立てぃ!!」
一寸法師「軍師!!どうゆうつもりだ。我を捕らえるなど無礼にも程がある」
一寸軍師「法師、あなたはもうどうでもいいのです。ただの飾りだった今までもそうだったが、これからは一寸の価値もなくなりましょう。」
一寸法師「たわけたことを抜かすな」
一寸軍師「お立場がご理解できてござらぬようですな。足軽頭!!やってしまえ」
一寸足軽頭「法師、失礼」
足軽頭は法師の顔を殴り、体を蹴りました。
一寸軍師「あなたにはもう用がない。あとは家宝うちでの小槌ただ一つなんじゃ。どこにある?」
一寸法師「そなた達に話すわけも無かろう」
一寸軍師「足軽頭!!」
また足軽頭は法師を殴り、蹴りました。
一寸軍師「法師よ、そなたが即位してから寸口がやたらと増え、一寸どもは生活の場を求め、森を出ざる終えなくなった。それによる、他生物との軋轢や争いは後を絶たない。今回もそのいい例ではないか。小槌を渡されよ。命は獲らぬ」
一寸法師「それもみな・・・。我ら一寸の為。小槌は渡せぬ」
一寸軍師「一寸足軽頭、もうよい。小槌は我が探しておく。吐くまでいじめてやれ」
一寸足軽頭「は。」
一寸足軽頭は法師を部位に関係なく殴る蹴るを繰り返しました。
と、その時です。一寸法師の股間に蹴りが入ったと思うと、子供一寸がポトッと落ちてくるではありませんか。
一寸軍師「法師、半寸が出てきましたが・・・?まさか・・・脱がせい!!法師の下半身を脱がせい!!」
一寸足軽頭「は。」
一寸法師「やめろ、やめろ、やめろ、わしの下半身だけはみるな!!」
一寸足軽頭や辞めません。とうとう最期の引っ掛かりがとれとぅるんと褌もはがされてしまいました。
一寸軍師「小槌・・・。」
一寸足軽頭「小槌・・・。」
一寸法師はうなずきながら「小槌。」
一寸法師は続けます。
「おぬしらのとは違うであろう。わしがこれを振ればお主共が生まれてくるのじゃ。記憶の始まりはどこからか知らぬが、わしは今生きる七千の一寸のほとんどの親じゃ。」
一寸軍師「なんと・・・。では、あなた次第で寸口は決まるのではないか!!」
一寸法師「左様。わし次第なんじゃ。だが、わしにも父がおる。アレが小槌の形をした者で無ければ種が続かん。」
一寸軍師「なんということ・・・。」
一寸法師「わしも年じゃ。ここ数年あせっておる。種を残す方法としてやむなく小槌を振り続けた。しかし、結果は今お主が言うような惨状。我ら一寸の独りよがりが他の生物を追い込んでおるのも事実。ここでわしもろとも絶えるのが良いかも知れぬのう。」
・・・・。
・・・・。
・・・・。
一寸足軽頭「法師どの。」
一寸法師「なんじゃ。まだ殴るか?もう自害させてくれ」
一寸足軽頭「我々は小槌を宝が出せるものと勘違いしておりました。いや、宝は出せていたのです。我々は欲を出し財を出せるものと勘違いしておりました。なんということじゃ(泣)申し訳ございませ・・・
ん?
ほ、これは。法師、この半寸の股間・・・」
一寸軍師「小槌じゃ・・・。」
一寸法師「おぉ小槌。ついに・・・。
やったわい。
軍師。そちはこの寸口爆発と他生物への影響を考え、小槌を 宝から財を出すものと流布し、勢力を蓄えてわしの変わりに 世を直そうとした。相談が欲しかったが、その志、主を殺し てでも国を守る志、立派なものであった。」
一寸軍師「法師・・・。」
一寸法師「わしは次世代を生むと息絶える。父もそうであった。お主らはわしの分身であり、この半寸はお主らの分身でもある。大切に育ててくれい・・・ガクッ」
一寸軍師、一寸足軽頭、一寸足軽
「法師ーーーーーーーーーーーーーーっっっっっっ!!!!!」
半寸
「ほうしーニタニタ」
さて、昨今都市伝説で小さなおっさんという奇怪な現象が話題になっておりますが、ひょっとすると環境の変化により一寸の小槌から小槌持ちの半寸が生まれなくなっているのかもしれません。
今日もあなたの近くに増えすぎた一寸どもが忍び寄る・・・。
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