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大転換期のウェブメディア ④ウェブメディア大量閉鎖の衝撃その1

前々回の補足

この連載の第2回目で、ウェブ広告による収益化が困難になりつつあるという話を書いたが、年度の切り替わり以降の動向を見ていて、その傾向はほぼ間違いない傾向であるとの想いを強めている。

ところで、その連載第2回目の記事内で広告枠の大量設置が広告単価を下げている要因という説があるということを書いたが、筆者がよく記事を読ませていただいている境治氏がその点について言及されていた。

この記事の中で「MFA(Made For Advertising)サイト」について触れている。これは読んで字のごとく、広告収益だけを目的とするサイトである。詳細は記事を読んでいただきたいが、これらが広告枠の爆増とそれによる広告単価の低下を招いている元凶であると指摘している。なるほど、一般的なウェブメディアにばかり目を向けていたが、このような存在価値のないサイトが普通に存在するのか。このようなサイトと同じ土俵に立たざるを得ないのは非常に良くない状況であり、いよいよ収益に困ったウェブメディアの出現が現実味を帯びてきたといわざるを得ない。

もはやほとんどのメディアには猶予はない

さて、ここからが今回の本題である。
ウェブメディアを運営する全ての企業の財務状況を知っているわけではないが、ここに来てメディアの統廃合、あるいは事業譲渡が出始めているというのが、中の人たる筆者の抱いている印象である。ちょうど年度の切り替わりという事情もあるのかもしれないが、ウェブメディアの収益化の困難化が本格化してきたという感は否めない。

これまでウェブ広告の収益の上げ下げは次のようなものであった。すなわち、年度末の3月、クリスマス商戦の12月、そして広告主企業の決算にあわせて各四半期末に山ができて、2月と8月に谷ができるというものである。これはウェブ広告に限らず、広告業界全般の流れである。毎年、その流れを見ながらメディア側は山でいかに収益を増やし、逆に谷でいかに収益減少を食い止めるかという営みを行ってきた。

しかし、コロナ禍以降、この流れどおりにことが進まなくなっているように感じている。2020年度(4月から始まる会計年度。以下同)では広告需要が大きく減少し、前年比で見ても軒並みマイナスの状況が続いた。翌2021年度は世界的にコロナ禍の終焉が一時的に見えてきたこともあって世界的に収益が改善してきたように見えたものの、それも束の間、2022年の2月からウクライナ戦争が開始されたことで、その夏頃から広告単価がそれまでよりも低いラインで推移するという状況が続いている。これはよほど好条件で配信できる広告枠を持たないウェブメディアでは共通の状況であると思われ、近年のウェブメディアの構成を考えると、ほとんどがそれに該当すると想定される。そこに来て3PC規制の開始により収益性が低下することが予想され、その対策も定かになっていない状況で手探りの対応に予算と人員を割けるウェブメディアは多くないであろう。

つまり、収益性が低下した先で更なる低下に見舞われると見込まれている状況で、先々の事業継続が困難と判断して事業の譲渡や停止を決定する経営陣がいるのもうなずける話で、結果、譲渡などの判断が増えてきているいう見方もあながち間違っているとは言えないだろう。行くも地獄なら残るも地獄というわけである。

ウェブメディアは運命共同体

このような状況であるが、一部を除き、収益面のみならず、現在のウェブメディアの多くは単体で自らの行く末を決定できる余地はあまりないと考えている。つまり、構造的に運命共同体にならざるを得ない。その構造とはどのようなものであろうか。まずは近年のウェブメディアの構成を概観してみよう。

1.自前でコンテンツを用意
完全に自前でコンテンツを用意できるウェブメディアがパターン1である。新聞や雑誌などリアルな出版物を出している企業が運営するウェブメディアは、ほぼ全てを自前で賄うことが可能だと言える。その他、リアルな記事を持たずとも単独で自前のコンテンツを用意できるウェブメディアも存在はするが、少数であると言ってよい。どっちにせよ、全体から見るとこの群は多いとは言えない。

2.自前コンテンツと調達コンテンツの混在
例えば、Yahooニュースは独自記事を執筆しながら、コンテンツパートナーから提供された記事を掲載しており、この代表的な存在と言える。この形態を取るニュースサイトはいくつか存在しており、それなりの規模のものと言っていいだろう。これがパターン2である。

3.調達コンテンツ中心
パターン3はキュレーションサイト、まとめサイトなど、調達コンテンツ中心の構成を持つ。自前記事を執筆しないニュースサイトもここに分類される。立ち上げが比較的容易ということもあり、運用型広告の隆盛とあわせて数多くが運営されていると言える。

4.アフィリエイト
アフィリエイト収入を運営資金とするメディアをパターン4としておく。自前で記事を作るという意味ではパターン1に似ているが、収益の方法が異なるため、パターン4としておく。

パターン1のような新聞社系のウェブメディアでは課金体系を持つことが多く、それ自体で収益化を実現している。また、日本経済新聞のように他のニュースサイトへの提供はしていないケースが課金の成功例だ。また、朝日新聞や読売新聞、毎日新聞などの大手紙をはじめ、地方新聞などが対価をもらうことでメディア群に記事を提供しているケースなどがある。

ただ、実態として有料課金で成立するケースは上記の日本経済新聞など限られている。不破雷蔵氏は、実際に有料サービスを利用しているユーザーは限定的であり、全体の1割にも満たないとの新聞通信調査会の2022年11月調査の結果を紹介している。調査から1年以上経過しているものの、結果に大きな差は生じていないだろう。現状で有料課金がなかなか主流になりきれないのは、こういった事情も大きく関係している。

一方で、パターン3のようにコンテンツを他の企業に頼っている企業では、いかに多くのコンテンツ提供社と連携するかが生命線となる。連携の結果、連携先からのユーザーの流入によって自らのメディアでのPV発生と収益化がもたらされる。あるいは契約条件によっては、連携先のウェブメディアでの自社コンテンツ掲載によって発生した収益をレベニューシェアという形で還元してもらうということが行われる。どちらにしても自らのコンテンツを他メディアで流通させるという行為が重要となる。

これはコンテンツの貸し借りという体系を拡大しながら収益を増やしていくというエコシステムである。いままではこれが機能していたが、昨今の広告単価が下落している状況ではそこから得られる収益は下がるはずで、その下落以上の誘導を得られない限り、非常に苦しい台所事情になりつつあることは想定されよう。

見た目は違えど中身は同じ

数多くのウェブメディアが掲載先を求めて多くのウェブメディアと連携しているということは、結果的にその内容が似てきてもおかしくない。概ね読まれそう記事は決まってくるため、体感的にさらにその傾向は強まるであろう。

というわけで、現在ではパターン2に属するウェブメディアも含めて、そのほとんどで掲載されるコンテンツが似通ってくるという状況になっている。実際に、各種ニュースサイトを眺めてみると大手新聞社、雑誌社からの記事は相当な度合いで重複している。先にも述べたように、パターン3に属す中小規模のウェブメディアの戦略として、どれだけ掲載先を確保できるかが重要である。販路を絞るよりかはより多くのメディアに提供し、そこからのユーザーの流入により広告収入を得るかが生命線である。また、その記事を受け入れることで自らの広告収入も得られるため、コンテンツの提供を受ける側も増えていき、それらがさらに流通していく。結果、どこのウェブメディアでも同じようなコンテンツが掲載されるという事態になっている。なお、記事タイトルを編集することがあるため全く同じには見えないが、実際のところ、開いてみれば全く同じ記事であるということはよくあることである。

加えて、パターン3のウェブメディアが他から提供されたコンテンツを2次的に他のウェブメディアに提供していることもあるため、さらにその傾向には拍車がかかっているという状態にある。これは銀行における信用創造に似た部分がある。すなわち、ある銀行が預金者から預かった10万円が他の銀行への貸し付けなどに利用されていった結果、現金10万円が銀行のエコシステムの中で何倍にも膨らんでいく。同様に、ある記事が提供されることでそれが連鎖的に提供されていき、エコシステム全体では膨大なPVが発生するという次第である。

長くなってしまったので、続きは次回に。

(了)

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