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大転換期のウェブメディア ②収益化はもはや困難な時代に

前回はGoogle Chromeでの3rd Party Cookie(3PC)規制とそれに伴う事象の概観を述べたが、今回は一歩具体的な話に踏み込む。ウェブメディアにとってまさしく死活問題となる収益化について考えを述べてみたい。

収益化は極めて困難になる恐れも

まずは、そもそものウェブメディアの収益手法について簡単に見ておこう。一般的にはユーザーに対して無料で情報を提供する代わりに広告を掲載して、その収益で経営を成り立たせるという仕組みなのは改めて言うまでもない。テレビやラジオも同様の仕組みであり、これ自体は特に他との違いはないが、ウェブ広告には強みとしてユーザーの追跡、特定が他のメディアに比べて容易であるという点がある。それはウェブではCookieが使われており、その有効活用によって他との差別化が図られているからだ。この際にサイトをまたいで追跡できるようにする仕組みが3PCである。同じブラウザであれば3PCが保持されて、異なるサイトであってもユーザーの追跡が可能となる。

では、3PCを利用した配信は精度が非常に高いかと言うと、そうとも言えない部分がある。ユーザーから承認された形で個人情報と結びついた場合は別として、Cookie自体は何らかの確定的な情報を元に生成されているものではない。例えば、今はレアケースだろうが、家族で同じPC、同じブラウザが使われていたとき、Cookieベースでは同じユーザーを追跡していることになるが、実際に画面の前に座っている人間は別である。

よって、3PCを利用してユーザーの属性を100%正確に特定するのは不可能で、実際にそのユーザー(というか、ブラウザ)の利用履歴などから推測しているに過ぎない。その推測には各事業者の独自の技術が使われており、それが差別化要因となる。ビッグデータやAIなどを使って推測しており、それによりそこそこの精度にしているというのが現実である。というわけで、ウェブ広告が他のマス広告よりも精度高く配信ができるというのはあくまでも「相対的」にという意味においてである。

そして、2024年秋に訪れるであろうGoogle Chromeの3PC規制は、一時的、あるいはもっと長期間にわたり、3PCを利用することで可能となった広告配信を不可能にする。すなわち、理屈のうえでは3PCを利用した配信を完全に、あるいはその近いレベルで代替する技術が出現するまでは、現在と同等の広告効果を得ることができなくなる。その結果、ウェブメディアの収益性は4割程度にまで落ち込むという試算もある。この4割の根拠は、前回も紹介したAppleが先行した規制の結果の数値であり、筆者の得た情報によれば、他の国でもその程度の数値になると想定されているようで、現時点ではかなり精度の高い数値であると考えている。一般的に、ウェブでの通信販売や金融事業をしていないウェブメディア運営事業者の利益率は高くない。その状況下、収入が4割まで低下、つまり6割減の衝撃に耐えることができないウェブメディアが一定数現れることは想像に難くなく、本格的なサバイバルに直面するケースが発生すると考えている。

さらに言うと、これは別の回で論じるが、収益減に耐えられないメディアが現れ始めると連鎖反応的にそのようなメディアが次々で出始めると見ている。その結果、8割のメディアが消滅すると予測している。このマガジンのサブタイトルである。

3PC規制以外の広告単価押し下げ要因

さて、3PC規制によるターゲティング精度の低下が広告の価値を減少させ、その結果、広告単価が下落するというのはメディア側の見方であるが、あわせて、広告主側の動きにも注意が必要であると筆者は考えている。なぜなら、ウェブメディアからは相対的に広告の価値が低下するという視点になるが、広告主側からは割安で広告を出稿できるという視点になるからだ。であれば、低価格の状態を維持することが広告主側では合理性を持つ。コロナ禍以降、この1年くらいの広告単価の上値の重さはウクライナなどの国際情勢や直近で言えば能登半島地震などが大きな要因であるにせよ、2024年秋以降を見据えた動き、つまり広告単価を低い状態で維持するという思惑も含んでいるように筆者には思えるのだ。複数の広告主が意図的に連携して価格を調整するのは違法だが、一般的な意思形成の結果であれば成立しうる。

一方で、ターゲティングが困難となる中、しっかりとターゲティングができる場合にはこれまで以上の高い広告費を広告主が出すことは想定される。そういったケースがあった場合、広告単価が3PC規制で下がった部分と高騰した部分で2極化が発生する。しかし、下がった単価を自ら上げていこうという広告主は、常識的に考えればいない。高い広告費を出すだけの価値を持つ広告枠を提供できるかはウェブメディアの努力であり、広告主の善意ではない。どちらの立ち位置を取ることになるのかを決めるのはウェブメディア側の決意であり、その価値をさらに高めていくための努力を強いられることになるであろう。本来的には3PC規制によって起こるべきショックが見え始めているこの段階で手を打つべきであるが、あらゆる可能性を考慮して資金的、人材的にいくつもの選択肢を用意できるウェブメディアを除いては、実際に規制が開始されてからの後追い的な対応にならざる得ないというのが現実的な線であろう。そしてウェブメディアの多くがそうなるというのが私の見方である。

ところで、広告単価の下落を防ぐ手段のひとつとして、いわゆるコンプレックス系の広告や詐欺、または詐欺まがいの広告を制限しないということが考えられる。詐欺広告は最近では有名人の映像を勝手に使ってあたかも本人が関係しているかのように見せつけるものが跋扈しており、それに対して被害者たる堀江貴文氏や前澤友作氏が規制に向けての動きを見せていることが報道されている。詐欺広告はほぼ全てが違法であると思われ、これは積極的に排除すべきものである。一方で、コンプレックス系の広告についてはすべてが違法ではないが、表現方法などに問題があると筆者は考えており、メディアの品質を担保するという意味ではあまり良いものとは言えない。もちろん、品位など二の次だと考えているのであれば、高単価が得られるものとして歓迎される可能性は高い。残念ながら、法規制の更なる整備、規制の適用がないのであれば、これらの広告を配信することで生き残るウェブメディアは出てくるであろう。

なお、一説によると、昨今のウェブメディアの広告枠設置数の多さが広告単価の低いレベルでの推移に拍車をかけているという。これはウェブメディア側の、単価が低いのであれば出す数を増やして収益を確保しようという動機によるものであるが、広告枠数が増えても需要そのものが増えない状態であれば、需給の関係から広告単価が下がるのは経済学の基礎を知っていれば容易に想像がつく話である。この点については、別のところでの議論としたい。

何か方策はあるのか

広告収益モデルを採用するウェブメディアにとって、行く先も見えない時代に入りつつあるが、その処方箋はないわけではないと考える。これについては、次回以降で検討してみたい。

(了)

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