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2023年オオクワガタ採集

 新緑が芽吹き森が生き生きとし始めてから暫く経った頃、まだ行ったことのない県へオオクワガタを採集しに行った。

 17時ごろに自宅を出てブナ帯へ。とにかく移動時間が長い。過去最長の運転時間だった。朝方に行きたいエリア付近の道の駅へ到着し、就寝。疲れ過ぎて9時頃まで寝てしまった。

 起きたらすぐポイントエリアへ向かって移動。山の高さ、深さ、広さ、全てに圧倒された。山に入り、暫く歩くが気が細い。この辺の木は一回切られてるのか?と思いながらさらに奥へ進む。細いエリアを抜けたら木が太いエリアに出た。

やっぱりブナ林は綺麗だなと、森林浴を楽しみながら進む、だが

熊がいる痕跡だらけ。糞はかなり新しい。ここ1〜2日以内のものっぽかった。流石に1人で山の中にいるので、何かあっても誰も助けてくれないだろう。これ以上進むのを止め、下山する事にした。いくら体を鍛えていても、クマには勝てん。笑

 お昼はカップラーメン。外で食べるカップラーメンはめちゃくちゃ美味い。

お昼を食べ終えたら熊を避ける為に移動。移動した先の植生がガラリと変わった。ブナが少なく、代わりにウダイカンバ林と植林された杉林が多い。これはいい空間を探すのに苦労しそうだ。

入りたい尾根を決め、入山。結構歩くがブナが出てこない。ミズナラはちらほらとあるが、ウロがありそうな木が見当たらない。ようやくブナの立ち枯れを見つけるが、ツキヨタケが腐朽しており、あまりいい状態ではなかった。直射日光が当たり過ぎており、パサパサのガチゴチ。必要以上には割らず、そのままに。結局その後、いい材は出てこずタイムアップとなってしまった。

 下山後温泉へ移動。個人的遠征の楽しみは、虫を採る事よりも温泉へ訪れる事だ。温泉に入って疲れを癒した後、友人達と電話をしどんな感じだったとか、こうしたらいいんじゃないかなど、色々と話しながら振り返りをした。電話の後、友人のアドバイスや師匠に教えていただいた最速理論を思い出し、今日の自分は何がだめだったか、こうすればよかったと1人でも振り返りをし、明日入るエリアを決め就寝。

 翌朝、昨日決めたエリアへ移動後腹ごしらえをしてから入山。昨日よりもかなり奥へ進んで行くと、太いブナとミズナラが沢山あるエリアに辿り着いた。昨日よりもかなりいい環境だ。斜面を登っている時、ふと左目の端にかなり太い異質なブナの立ち枯れが映った。「向こう側を見てからあの立ち枯れを見よう。」と決め、反対方向を見に行くが、すぐ植林が出てきたので引き返し、先ほど見つけた立ち枯れの方へ行った。

立ち枯れの所へ行くなり、呆然と立ち尽くしてしまった。「これは確実にいるだろ。。」その立ち枯れは折れており、目に映ったのはほんの一部に過ぎなかった。倒木のキノコの向きは立っている時の向き。今年の冬に倒れたのだろう。期待で胸が躍る。一番良さそうなのは後に取っておき、まずは状態の良くなかった先端部分からチェックして行った。おそらくこの先端部分は雪が降る前に倒れたのだろう。かなり水分を含み、ビチャビチャであった。オニクワガタとコクワガタの幼虫は出てくるが、オオクワガタは出てこない。「この部分はダメか。」そう思い、比較的乾いている上の部分をチェックする。割り疲れて、一休みをしようと腰を下ろした。ふと目を向けた先に

「嘘でしょ!?」

嬉しかったが、ショックであった。生きている時に出逢いたかった。雪に埋もれていたせいで、水没死したのであろう。成虫になれても無事に外の世界へ出てこれないなんて、自然界は厳しい。気持ちにエンジンが掛かり、またチェックをし始める。今度は大歯の蛹の死骸が。また死骸かよ、、と思うもチェックを続ける。すると

めっちゃデカい幼虫①
めっちゃデカい幼虫②

とてつもなく大きい幼虫が2匹。どちらもオオゴキブリに喰われる寸前であった。とりあえず生きたオオクワガタに出逢えてよかった。これは成虫がいる可能性が高い。そう思い、立ち枯れへ移動する。斧を入れるが、弾かれる。柔らかい所を探し、刃を入れる。ようやく柔らかい所を見つけたので、チェックをすると

極太の食跡が何本も走っている。これはエグい。食跡を追い、チェックを続ける。ここに繋がっているな、と確認した後、皮一枚を捲る。すると

72.5 mm

動く2本の大顎。今度は生きている。

「やばい大歯!!」

遂に大歯の成虫を採る事ができた。ただの大歯ではない、とてつもなく大きい。後の計測で72.5 mmであった。人生初の材割での大歯が70 mm超え、豪運すぎる。

豪運も束の間、そこから暫く死骸が連続で出る。しかも全て大歯の蛹。羽化していれば67クラスにはなっていたであろう個体ばかり。自然界は厳しすぎる。

このような蛹の死骸が3匹も出てきた

立ち枯れのチェックにも飽きてきたので、最後に残しておいた倒木のチェックをする。水分が抜けてかなりカチコチになった硬い皮を剥がそうとするが、結構な面積がくっ付いてきたため剥がすのは容易ではなかった。やっとの思いでその硬い皮を捲ると

60.5 mm
69.8 mm
メス成虫

4匹の成虫が姿を現した。神材すぎる。その後も蛹の死骸とメス成虫。

メス成虫
蛹の死骸

もうそろそろ終わりにしようと最後に一発斧を入れたが、出会い頭で個体に傷をつけてしまった。本当に申し訳ない事をした。その個体は後の計測で70.3 mmであった。

 全部チェックせずに残した部分もあるにも関わらず、生きたオス成虫4匹、オス成虫の死骸1匹、死骸の大歯の蛹5匹、メス成虫3匹、幼虫多数の神材であった。

割らずにそのままにしておいた倒木の部分も、今年の冬が来たらきっと全滅するであろう。本当は見殺しにするくらいなら全部救出してやりたい所だが、それをやると「採りすぎだ」とか「環境破壊だ」などの批判を、無知な先入観だけで語ってくる人から受ける事だろうと思い、見殺しにすることを選択した。心が痛いが仕方がない。

 そろそろ日が落ちてくる頃だったので、周りの環境を確かめ、樹液木っぽい木を探してから下山し、車に戻った。車に戻った後、計測をした。

最大値が取れなくても72 mmを超えている

その日の夜は奮発して、焼肉を食べに行った。本当はビールを飲みたい所だったが、車中泊できる所まで運転して移動しないとだったので、飲みたい気持ちを我慢した。その日食べた焼肉はいつもよりも美味しく感じた。

 翌朝、本当は3日間材割をする予定だったが、昨日かなりのオオクワガタに出会えたので、そのまま帰路に着く事にした。

帰路の途中、ある光景を見て胸が張り裂けそうな気持ちになった。

植林された山

山のほとんどを伐採し、杉・檜の植林に成り果てた山。本来はブナを中心とした美しい広葉樹林が広がっていたのだろう。こういった山が、かなりの長い距離続いているのだ。

 人間が採集圧のみでかけられる環境への負荷は、自然にとってはかすり傷にも満たない程度のものであろう。それよりも、このような環境を丸ごと変えてしまう無意味な植林、伐採、ゴルフ場建設などが、自然へ致命傷を与える事に繋がるのは明確である。現在、美しい自然を壊してまでそのような開発をしようとする愚かな計画が全国で問題となっている。

 植林されたが管理されなくなった森は、数百年、下手したら数千年と相当な長い年月が掛かるだろうが、元通りの姿に戻すべきであると私は思う。そうすれば、棲家を奪われた生き物達はその場所へ戻り、わざわざ人間のいる人里まで食べ物を探しに危険を犯さずとも済むはずだ。人間は今まで奪ってきたものを、自然へ返すべきであり、そして私達の子孫の為にも、本来の美しい自然を再生させ、残していくべきだと私は思う。

Fin.

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