見出し画像

2023年西表島〜中編〜

前編はこちら↓

〜4日目〜

 チャマルは相変わらずやる気が起きず、またお昼頃に起床。I先輩と落ち合い、情報交換をしつつ、今日はどこのエリアに行くかを決めた。その日はI先輩のチームから友人(以降S)が私のチームに加わり、入る場所を暫く悩んだ結果、2日目に入ったエリアに行くことにした。

 少し早めに入山し、ポイントまで一気に登った。エリアに着いてから少し休憩をし、時が来るのを待っていたが、後続の同業者が追いついてきたため捜索を開始した。探し始めてから3分ほどで2匹を発見。友人達も見つけてくるが、大歯は中々現れない。

少し探した後、新規エリアを目指すためその場を後にした。今回は2日目に入った場所よりも更に奥を目指した。尾根伝い、谷筋に登り降りしながら進んでいく。かなりいいエリアを見つけるが、付いているのは小歯と中歯のみ。「このエリアでもいないのか」と落胆しつつも、大歯に出会う確率を上げるために更に進んでいった。

尾根を進んでいる途中、ツルアダンの海に行手を阻まれた。面倒臭いからこのまま進もうと、ツルアダンの海の上によじ登りそのまま進んでいったが、木の幹から枝に発散していく部分が目の前に現れたので直ぐ引き返した。

危険なエリアを離れ、傍の急斜面を慎重に降りて、谷筋に辿り着いた。谷筋をそのまま降りて行き、上がれそうな斜面を探したが、中々出てこないし、スダジイもあまり見当たらない。

暫く歩いた先に、大きなスダジイの大木が目に入った。上部の谷側に突き出た所を見ると小歯が1匹。ようやく発生しているエリアに辿り着いた。その木の裏側を見ると、更に小歯が3匹。その木はフレークが崩壊しており、空中に浮いているフレーク部分に何やら丸いものが。よく見ると小歯が脱出した後の繭玉だった。完全に発生木であったが、大歯の影は無かった。

そろそろ時間も遅くなってきたので、本線へ戻ることにした。行きに歩いたルートとは別のルートを歩いて戻った。道中、複数の個体を見つけることができたが、ここもまた大歯がいない。途中、空中に浮いていたバサバサの枯死木にメスが付いていた。Sはまだメスを採ったことがないとの事なので、そのメスはSに譲る事に。かなり喜んでくれたので、私も嬉しかった。

正規ルートに辿り着き、一通りこのエリアを見たら下山しようと決め、皆散り散りになり捜索を開始した。私は小歯を見つけ、疲れていた事もありその個体を観察していると、ちょっと先を歩いていたIが

I「あっあっあっ...!」

S「あー大歯っすね。」

Iの見つけた大歯

この日1匹目の大歯をIが見つけた。負けてたまるか!と道を逸れて奥に入って探しに行くが、結局見つからず。結局その日の大歯はIのその1匹であった。

 駐車場に戻ると、Sと面識のある方と、もう1人若い子が座って談笑していた。目の前には63 mm台の個体が3匹(4匹だったかも?)。混ざらせていただき、色々お話を聞くと、なんとその個体等を採ってきた若い子は中学生であった。しかも単独で入山していたと知り、驚愕した。ここ4日間で、チラホラと耳にしていたヤバい中学生とまさか出会えると思っていなかったので、その日一番嬉しい出会いであった。話も終わりそれぞれ帰路に着き、残りの日に備えてしっかりと体を休めた。

〜5日目〜

 この日もチャマルのやる気が起きなかったので、お昼頃起床。5日目は3日目に私が大歯を採ったエリアの、また更に奥へ行くことにした。

 ポイントには16時頃に到着。奥へ行くには川を渡らないと行けないので、明るいうちに浅い場所を探して渡るために早めに入山した。川まで道沿いに進んで行き、川岸に辿り着いて渡れそうな場所を探すが、どこも長靴が水没しそうな場所ばかりであった。やっと渡れる場所を見つけ、そこから対岸へと渡った。

真ん中の方は水深が深い

対岸へ渡ってすぐに、良さそうな木がチラホラと目に入った。ここなら居そうだなとピンを打ちながら、更に上の平らな地形の場所を目指す。平らなところに着いたが、予想とは正反対の森が広がっていた。航空写真ではそこまで細い印象はなかったが、木が全体的に細い森であった。これはもう一段上の平らな場所に行くしかないか、とその方向へまた進む。

入山してから3時間後、ようやく辺りが暗くなってきた。昼と夜で山の姿は180度変わる。昼間は私達に"いらっしゃい"と微笑みかけていても、夜には"帰さないよ"と言わんばかりに。

目標にしていた場所へ辿り着いたが、太い木はちらほらあるにも関わらず良さそうな雰囲気の木が見当たらない。更に上の方を目指して進んだが、今度は細い木ばかりのエリアになってしまった。今までは「あと200 m進めば樹層も変わるはずだ。」と信じて進んでいたが、ここで漸く完全にポイント選定のミスだと判断をし、来た道を引き返すことにした。

引き返す途中にあった煙突の木を見に行くと、小歯複数匹とかなり小さなメスが付いていた。今まで見たことのないサイズのメスだったので、メスのみ持ち帰った。このメスは後の計測で35.3 mmであった。

35.3 mmのメス

メスを見つけた後、煙突を覗きに木に登ると、小歯が1匹。流石に大歯はいなかった。木を降りた直後、右の肩辺りに違和感を感じる。そちらに目をやるとなんとヤマンギが腕に付いていた。今までにないくらい叫び、毛が付着しないように取り除いたが、毛が残っていたみたいで後日しっかりと痒くなった。

そのエリアはかなり乾燥気味のエリアであった。発生木らしき木を一本一本丁寧に見て行ったが、小歯すら付いていない。暫く歩いた先に行きに歩いた尾根に辿り着いた。その尾根の木は一応フレークのあるものはあるがどれも細いものばかりで、ここにいたとしても小歯ばかりだろうと思っていた。しかしそのエリアの木には中歯とヒメ大歯、そして複数の小歯が付いていた。こんなエリアでもそこそこのサイズの個体がいるもんだなと、新たな発見にワクワクしながら戻って行った。

ヒメ大歯

奥のエリアから川辺まで、3時間ほどかけて戻った。途中、数十個体は出会えたが、お目当ての大歯には出会えなかった。いつものエリアを見ようと川を渡ろうとした時、水位が昼間に比べて格段に上がっていたのであった。おかしいな、と思いながらGPSのトラックデータを見るが、きた道で間違いない。バグったのかな?と思い、上流へ、下流へと移動してみるが見たことのない風景であった。ここで漸く現実に目を向けた。なんと、満潮の影響で川の水位が上がっていたのであった。

長靴の中が濡れるのを覚悟で渡るか否かを20分程葛藤し、覚悟を決め渡ることにした。水が長靴の中に浸水し最悪な気分になっ...あれ?思った程気持ち悪くない、寧ろ疲労が蓄積した脚がいい感じにアイシングされ気持ちよかった。暫くそのままアイシングをしたり、その状況を楽しんだりし、無事対岸へと渡った。長靴の中の水を捨て、ある程度水気を取り、脱いだ靴下を履いた。もうこのまま帰ろうかと考えたが、まだ大歯に出会えていなかったため、既存ポイントを最後見てから帰ることにした。既存ポイントでも複数匹見たが、大歯が現れることはなかった。

〜6日目〜

 翌朝、5日間過ごした宿を離れる時が来たので、朝早くに起床し、身支度を整え宿を後にした。流石にそろそろチャマルを採らねばと、寝起きの格好のまま有名ポイントへと向かった(流石にやる気がなさすぎる)。先に入っていたI先輩達がペアを採っていた。採った個体を見せてもらうが、想像よりも小さく驚いた。「さて、俺も探すか。」と重い腰を上げ登山道沿いをゆっくりと歩きながら探した。入って10分程で、私の目の前を歩いていた同業者の方がチャマルを見つけた。どのような感じでいたかを見せてもらい、参考にした。途中すれ違った人に成果を聞くが、皆全然採れていないらしい。この状況下で1匹抜けたら充分だろ、と思いながら探すが中々見つからない。飽きつつも、自分のプライドが許さないので、見つけるまでは帰らない、そう心に決め探し続けた。途中、以前山梨で材割をした際にご一緒したAさんに偶然再会をした。Aさんは朝から探しているが、まだ1匹も見つけられていないとの事だった。

Aさんと別れ、私は道を外して奥の方を見に行った。I先輩の話では、チャマルは陽の光が差す目立った場所にいる事が多いらしく、私は一瞬差す陽の光に照らされる場所をマークし、そういった場所を重点的にチェックしていった。入山してから1時間後、ふと目に入った陽の光が差す先に木の根があった。ここならいそうかな?とその木を一周見回ったが、何も付いていない。時間と位置を確認するついでに携帯を開き、ふと目を木の根の方に逸らした時

私「いた!!!!!(大声)」

人生初チャマル

さっきまで何も付いてなかった木の根に、奴はいたのであった。やっと見つけたこともあり、かなり大声で叫んでしまった。Iはまたしても私が先に見つけたので、悔しがっていた。1匹採れて満足した私は山を降りて、途中登山道の脇に溜まっていた同業者の方々と話をし、Iが探し終えるのを待っていた。

漸くIが下山してきたので、別の宿へチェックインをしに行った。チェックインの手続きをし、宿の主人の昔話を聞いた後、部屋へ案内された。偶然にも、昨年泊まっていた部屋はチャマルポイントで再会したAさんが泊まっていた。Aさんと色々と情報交換をした後、I先輩以外のメンバーが今日帰ってしまったということで、I先輩を含めその日は3人で初日のポイントを見ることにしたので、ポイントへと向かったが、天気がどんどん怪しくなっていった。

I先輩と落ち合い、天気が怪しいからどうするかと話し合ったが入山する事にした。入山してから20分後、雨が降り出してきた。これくらいの雨なら大したことないだろうと、さらに登ったが、数分後雨はかなりの土砂降りになった。これはちょっとまずいなと、雨宿りをしながら様子を見たが、一向に止みそうにないし、ポイント付近の川が増水してきたので、採集を諦めて下山し、飲みに行くことにした。

宿に戻ると、Aさんも雨のため帰ってきていた。折角だからとAさんもご一緒に如何ですか?と飲み会にお誘いし、4人で飲むことになった。その晩は界隈のあれやこれ、思い出話など様々な話題で盛り上がった。

〜7日目〜

 7日目、IとI先輩は早起きしチャマルを探しに行った。私はというと、お昼過ぎまでぐっすりと眠っていた。Iがチャマルを採って帰ってきた。とりあえず2人とも目標にしていた虫が採れたので安堵した。I先輩はその日帰る日だったので、あとは頼んだぞとI先輩から激励をいただき、フェリーが来るまでの時間を過ごした。

I先輩から、昨日諦めたポイントは昨日の雨で一気に発生しそうという助言をいただいたので、そのポイントに入ることにした。辺りが暗くなってから入山、その日の林内は風が強く涼しかった。その涼しさから今日こそは絶対沢山発生するぞと期待が高まった。

19時を少し過ぎた頃、友人が1匹目を発見。これはかなり期待できるぞと、奥へ進む事数時間、なんと

19時過ぎの1匹を最後に、マルバネに出会う事はなかった。恐らく、風の影響で急激に林内が冷え過ぎたのが原因かもしれない。日付が変わっても探し続けたが、結局その後追加を見つける事はできなかった。人生初の坊主を経験し、今までの自信が一気に崩れた。下山中、コノハチョウに出会うことができたが、坊主だった為そこまで喜べなかった。

※コノハチョウは沖縄県指定天然記念物なので、観察のみ。

コノハチョウ

 最終日前夜、まさかの結果に私達はかなり焦りを感じた。発生状況が悪かったこと、既存ポイント通いよりも新規開拓をメインに動いていた事もあるが、それでも目標にしていた大歯は通算で2人合わせて2匹のみで、どれも60 mmに届いてない個体であった。私は今回の遠征で65 mmの大歯、届かなくともせめて63 mmを採る事を目標にしていた。運命の最終日、高難易度の目標を達成することはできるのか。

To be continued.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?