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2023年西表島〜後編〜

前編・中編はこちら↓

〜8日目〜

 ついに迎えた最終日。10時頃に起床し、私はコインランドリーに、Iはチャマルポイントへと向かった。洗濯終了後、Iを迎えにチャマルポイントへと向かったが、1匹かなり大きめのチャマルを採っていた。

宿に戻り、荷物をまとめる。チェックアウトし、別の宿へ移動。チェックインが済んだらすぐに山に行く準備を整え、出発の時間までご飯を買いにスーパーへ行ったり、神社にお参りしたり、休息を取ったりして過ごした。

最終日のポイント選定はかなり悩んだ。"安定"を求めるか、"挑戦"を求めるか。悩みに悩んだ結果、昨日坊主を食らった場所へ私たちは"挑戦"をしに行く事を選んだ。地形図を見て、慎重にポイントを選定する。挑戦すると決めたら完全新規の場所で、これまでストックしてきたピンやトラックデータは全部無視した。特大を採っていなかった分焦りはあったが、安定して採ることよりも挫折の先の浪漫を私たちは求めた。

 日が沈んでいくのを合図に、ポイントへと向かった。「とにかくやろう、やるしかない。」と何度も言いながら。ポイントに着いたら、すぐ準備を整え入山。途中までは直登のルートを登っていった。アプローチをかけようと選んだ標高帯に到着し、斜面を登り尾根と谷を越えて降りてを繰り返しながら奥へ奥へと進んでいった。

昨日行ったエリアとは打って変わって、なかなか太い木が現れず、細い木が多かった。「もっと奥に行けばきっとあるはずだ。」と引き返す事は考えずに、ブッシュの多さにイラつきながらもさらに奥へと進んだ。

入山してから約2時間経過、中々いいエリアに入れず、姿を現さない彼らに、昨日の事がフラッシュバックし心が折れかけた。そこから10分後、漸くそれっぽい雰囲気の場所に辿り着いた。そこまで歩くのにかなり時間と体力を使い、お互いに心身共に疲弊しかけていた。そんな時、谷側にある細めの木の裏を見にいくと

最終日1匹目

漸く1匹目に出会う事ができた。いるエリアに入れた事に安堵し、折れかけていた心は完全に治った。それから5分後くらいに、もう1匹を発見。昨日と違い調子が乗ってきた。2匹目を発見してから20分後、目の前の斜面の尾根筋に一本の太い木を発見。一応見に行こうと斜面をよじ登り、遠目から全体を見る。マルバネがいそうな木の雰囲気をしていた。ふと根付近から伸びている密集した枝の根本に視線を向けると

私「大歯!!でかい!!!」

I「えっ!?」

大歯

なんとそこには今まで見てきた中で一番デカい大歯がいた。Iは悔しそうに「裏見てくるよ。」言い、見に行ったがいなかった。「まあまだ次があるでしょ。笑」ととりあえず目標を達成して安堵していた私が撮影に夢中になっている時に

I「俺の分もいた!!!!!」

私「(俺の分?何言ってるんや?)...え??」

なんと、もう1匹大歯がいた。その個体は私の個体が付いていた密集した枝に隠れていたようで、その枝の影になっている幹に付いていた。見せてもらうとIのその個体の方が大きかった。「(絶対もっと大きいの採ってやる。)」と、私の心に火がついた。とにかく、2人とも大型の大歯が採れたので、とりあえずは坊主回避できてよかったと、固く握手を交わした。

右I, 左私の大歯

すっかり脳汁がドバドバになった私は、いつもならもう少し緩やかな所からアプローチをかける斜面をそのまま直登し、四つん這いになりながらよじ登って行った。「これはデカいの採れるぞぉ〜!」と言い調子に乗り始めた直後、目の前の斜面に突き出て生えているスダジイに今まで見た事ないくらいにデカい黒い影が。

私「やべーもう1匹いた!!しかもさっきよりデカい!!!」

I「は?まじで??!」

2匹目の大歯
正面から

つい数分前に見た個体よりも遥かに大きい個体だった。とにかく興奮した状態のまま、写真を撮りまくる。Iはまたも裏側を見に行くが、ヤエマルの姿はなかった。10分程私が写真撮影やらデータ記録やらを行なっている時に、数十メートル先から

I「いた!!!」

どうやらIもまた大歯を見つけたようだった。しかもまた大型の大歯。最終日にして大型のフィーバータイムが到来。今までしょぼい日があったり、坊主の日があったのは、最終日マジックの為に運が温存されていたのだと、漸くそこで気がついた。

そのままさらに奥へとも考えたが、こういう時こそ慎重に行動しないと怪我になりかねないので、そこから奥に行く楽しみは来年の為に取っておき、来た道を引き返す事にした。正直満足はしていたが、今までストックしておいた木も最後だし見に行こうと、そのエリア方面へと向かった。期待をしてそのエリアを2時間ほど粘って探したが、いても小歯しかいなかった。満足していた事もあり、それ以上は探さず下山をする事にした。

下山後、とにかくやり切った事、無事8日間を終えられた事に感謝し、ポイントの入り口に向かい「西表の神様ありがとう。」と深くお辞儀をした。その後やってやったぞと溢れる喜びを分かち合い、帰路に着いた。

最終日のデカ大歯全員集合

 宿に戻ったら、物音を立てないようにお疲れ様会を行なった。

お待ちかね計測結果は???

I;64.1 mm, 63.3 mm

私;65.0 mm, 63.1 mm


なんと、目標にしていた特大ラインの65 mmにジャストで届いていた。あまりにも嬉しすぎる結果に、今までにないくらいの達成感と幸福感で溢れた。

この瞬間が至福の時
左65.0 mm, 右63.1 mm

採集した大歯と下山途中に採ったコンジンテナガエビをつまみにオリオンビールを流し込む、採集屋にとってこの瞬間は堪らない。今までの8日間の思い出話をしながら、就寝するまでの時間を楽しんだ。

〜最終日〜

 翌朝、朝一番のフェリーに乗った。大きい個体の発生がピークの頃の帰宅だったので、多少心残りはあったが目標は全てクリアしたので満足であった。

船が出航し、遠く離れていく西表の姿を見て、昨年と同様「ありがとう西表、またいつか。」と心の中で囁き、帰路へ着いた。

Fin.

〜あとがき〜

 前編で、"同島エコツーリズム推進全体構想で定められた〜、自由にやれるのは今年が確実に最後らしい〜"と書いたが、遂にそれが2025年3月から開始されると発表された。

来年は立入規制無しで採集ができる最後の年だが、マナーを守らないで採集を行えば、マルバネクワガタ自体の採集が規制されてもおかしくはない。今後も後世の人間が採集を行うことができるよう、我々は節度を持って今後もマルバネ採集を楽しめる社会を残していく使命がある。皆の意識がこれに向き、この想いが叶う事を私は願う。

西表島エコツーリズム推進全体構想についてはこちら↓

西表島エコツーリズム推進全体構想(全体構想)の概要 https://www.env.go.jp/content/000091458.pdf

環境省HPより:https://www.env.go.jp

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