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なぜ片麻痺では網様体脊髄路をみるのか?

片麻痺のリハビリで麻痺ばかりみていませんか?
麻痺を見ることはもちろん大事ですが、網様体脊髄路を理解していればそんなことにはならないはずです。

網様体脊髄路を理解して、臨床で使えるレベルまで知識を落とし込むことが出来れば、かなり変わります。

逆に網様体脊髄路について全く理解していない状態で、片麻痺の方のリハビリを行っているのであれば、それは危険とさえ言うことが出来ます。

今回は網様体脊髄路についての解説や、なぜ見る必要があるのかを説明します。
さらに後半はこういった知識を臨床でどう生かせばいいのか?臨床でのアイデアを紹介しています。

そんな私は、理学療法士を約10年以上やっている脳卒中の認定理学療法士です。現在は回復期に勤めています。


随意運動には○○…

随意運動はご存じの通り、外側皮質脊髄路が関わります。
外側皮質脊髄路は4野一次運動野から出て、内包後脚を通り、中脳大脳脚を通って錐体で交叉して反対側へ行きます

この経路に何かしらの損傷があると、運動麻痺が生じます

と学校では習いますよね。これを錐体路と言って、学校で丸暗記した!なんて人も多いのではないでしょうか?

なんのこっちゃわからずに丸暗記した記憶が僕にもあります。

ただ、運動って1つの要素だけで成り立っているわけではないんですよね。
外側皮質脊髄路だけで、随意運動が成り立つか?というとそんなことはほとんどないんです。

でもこんな風に学校で習うと、外側皮質脊髄路で随意運動が出来る!って勘違いしてしまうと思います。実際に僕もそうでした。

でもそんなことはなくて、随意運動に伴って網様体脊髄路が働くことが多くあります。

例えば、手を挙げて挨拶
たったこれだけの運動でも外側皮質脊髄路だけでは成立しません。

立った状態で手を挙げている。
手を挙げるのは外側皮質脊髄路で出来ますし、反対の手でスマホを持っているのも外側皮質脊髄路での随意運動です。

しかし、手を挙げることで、手の重さ分重心は前に移動します。
何もしなければ、前に倒れてしまいます。
これを調整しているのが網様体脊髄路です。

網様体脊髄路は外側皮質脊髄路が働く前に、体幹をコントロールして少し重心を後ろに移動しています。そうすることで、倒れないで手を挙げることが可能になります。

手を挙げるという運動1つとってみても、外側皮質脊髄路だけでは成立しません。

でも片麻痺のリハビリとなると、急に外側皮質脊髄路ばかりに着目してしまうんですよね。
ブルーンストロームステージが!麻痺の程度が!
そればっかりで、大事な網様体脊髄路についての知識が不足している。

それは片麻痺のほんの一部を見ているにすぎません。
まずはそういった誤解から解いていく必要があります。

麻痺側だけでは…

外側皮質脊髄路は基本的に対側支配です。約90%程度の線維が反対側へ行くと言われています。

そのため、右の脳に損傷があれば、左片麻痺が生じる可能性がある。
逆に左の脳に損傷があれば、右片麻痺が生じる可能性がある。
ということになります。

だから、麻痺が生じている側に着目する。
麻痺側ばかりみて、非麻痺側をあまり見ないってことが結構あります。

みんな麻痺側については、色々と答えられるのですが、非麻痺側について聞くとあまり答えられない。

麻痺の程度はBRSでⅢで、感覚障害は深部感覚がこうで、表在はこうで、みたいに麻痺側のことは色々と話すことが出来るのですが、一方で非麻痺側についてはMMTすら測ってないって人が多いのが現状。

僕は昔、片麻痺にはMMTやっちゃダメ!みたいな指導を受けたことがあります。今思うと正直、意味が分からないと思います。
SIASには非麻痺側のMMTがありますからね。
それじゃあ麻痺側すらきちんと見れていないのでは?って思ってしまいます。

麻痺側と非麻痺側

そもそも麻痺側と非麻痺側と呼ぶ理由をご存じですか?

麻痺側は麻痺している側、その反対は非麻痺側。
でも、骨折とかであれば、折れていない方は健側といったりするじゃないですか

でも片麻痺の方は健側とは言わない。
つまり非麻痺側は健側ではないってことです。

これは神経線維を考えればわかります。
まずそもそも外側皮質脊髄路は反対側を支配していますが、約10%程度は反対側へ行きます。
それに網様体脊髄路は同側支配の線維が多いです。

例えば右麻痺の場合は、右が麻痺側、左が非麻痺側となります。
左の脳が損傷されている。
同側支配の線維があるということは、非麻痺側への影響もあると考えられるということです。

だから健側ではなく、非麻痺側と呼ぶわけですね。(諸説ありますが)
そんな非麻痺側をしっかりと見ないでいいわけがないですよね。

網様体脊髄路を

ではここからは網様体脊髄路について考えていきたいと思います。
網様体脊髄路はなんだかよくわからないって人も多いのではないでしょうか?

基本的に、網様体脊髄路は同側支配で、体幹や四肢の近位筋をコントロールしていると言われています。もちろん例外もたくさんあります。

それだけ理解しているだけでも、だいぶ違うかなと思います。

神経伝達速度の違いがある

そしてこの網様体脊髄路は基本的に外側皮質脊髄路が働くよりもちょっと前に無意識的に活動すると言われています。

そもそも網様体脊髄路と外側皮質脊髄路は神経伝達スピードが違うというデータもあります。

正確な数字は皆さんで調べていただきたいのですが、基本的に網様体脊髄路は外側皮質脊髄路よりも全然早い。

外側皮質脊髄路の神経伝達速度は約20m~30/s
1秒間に20~30m進むというスピード
これもかなり早く感じますが、網様体脊髄路はもっと早い。

網様体脊髄路の神経伝達速度は約90~120m/s 
なんと1秒間に90~120mも進むという驚異の早さ。

約4倍近く早いんですよね。

外側皮質脊髄路が活動するよりも前に網様体脊髄路が活動する。
随意運動に先立って、姿勢制御をすることも可能であると想像することが出来ます。

網様体脊髄路が外側皮質脊髄路よりも前に、体幹や四肢の近位筋へ作用して、重心をコントロールしている。
それによって姿勢を制御している。というわけですね。

この2つを考えるだけでも、なんとなくイメージがつきやすくなります。

網様体脊髄路はどうやって働いている?

網様体脊髄路の大きな役割の1つとして、姿勢制御がある。
その姿勢制御をするにはどうしているのか?

基本的には網様体脊髄路は体幹と四肢近位筋をコントロールしている。
これは概ね無意識化で行われると考えられています。

例えばペットボトルの水を飲むという動作

何気ない動作ですが、このペットボトルの水を飲むという動作にも網様体脊髄路は関与しています。

ペットボトルを口まで運ぶのは随意運動でのコントロールが重要になります。しかしその前に網様体脊髄路が働いて、四肢・体幹の近位筋をコントロールしないとこの人はそのまま後ろにひっくり返ってしまいます。

このペットボトルの水を飲むという動作の前に、重心を少し後ろへ移動して倒れないようにする。これが網様体脊髄路の働きです。

これって意識できませんよね?

皆さんペットボトルの水を飲もう!って時には水を飲もうくらいしか考えていない。それなのに身体は自動的に姿勢を制御してくれているわけです。

例えば手を前に上げるという動作でも同じです。

想像してみてください。
これが人形だったら、前に倒れますよね。
当然手の重さ分、前が重くなるので、前に倒れる。

でも人間は倒れない。

それは網様体脊髄路が働いている。つまり予測的姿勢制御が働いて、来るべき運動の前に重心をコントロールしてくれているからです。

実際に実験でも、手を挙げる0.1秒前に腓腹筋が発火するとか、腹横筋が発火するとかって筋電図が取れていたりします。

これも意識出来ない動きです。

手を前に上げるとき、その前にちょっとだけ重心を後ろへ移動しておこうなんて考えないですよね。
無意識的に、勝手に重心移動は行われているわけです。

予測的姿勢制御はこのように、動作に先行して生じると言われています。

それには網様体脊髄路が関わる。

さらに網様体脊髄路は、それだけではなく色々な部分に関わる。
例えば橋網様体脊髄路と、延髄網様体脊髄路があって、それぞれ役割が違う。

起立や歩行でも活動する。

ここから先は、さらに深い知識に加えて、臨床で実際にどのようにしていけばいいのかを解説します。

より個別性が高くなる部分になります。

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