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1分読書

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記事一覧

【1分読書】『母の顔。落ちて』

『母の顔。落ちて』  犬が足元で鳴く。僕はそれどころではなかった。犬はどこから来たのかも…

樋渡学
2年前
6

【1分読書】『阿保』

『阿呆』  笑いがこみ上げる。 「おじいさん、テレビ、笑えるな」  こうしてぼけたフリでも…

樋渡学
2年前
7

【1分読書】『うさぎが跳ぶ』

『うさぎが跳ぶ』  猟銃構えた先には一匹のうさぎが居る。こちらに気付くこと無くぴょんぴょ…

樋渡学
2年前
4

【1分読書】『うつろい』

『うつろい』  風呂に入る。猫が風呂場を覗きに来た。 「今日も怒られたわ」  おじいさんが…

樋渡学
2年前
5

【1分読書】『晩御飯は空を歩く』

『晩御飯は空を歩く』  鳶は赤茶色をして空を歩く。愚痴などを言いながらのろのろと歩き、そ…

樋渡学
2年前

【1分読書】『小人』

『小人』  あそこに小人が居るなどと、かつての島住民が言った。私はそれを聞き流し、自分の…

樋渡学
2年前
3

【1分読書】『イタチの胸』

『イタチの胸』  下り坂を行くと、その先に一匹のイタチがいた。そのイタチは私がイメージするものより一回り大き黒々とし、こちらをじっとりと凝視している。坂道に足を進められ、徐々にスピードがついてくる。段々と自分の力ではどうしようもならなくなり、気付けば駆けていた。  そのまま真っすぐおいで。  イタチの口がそう動いた。錯覚では無く、たしかにそういった口の動きをしたのだ。もう、足の自由が効かなくなり、転んでしまいそうなくらいに早く走っている。  こっちにおいで。  次は音としてこ

【1分読書】『話の忘れ物』

『話の忘れ物』  貴方。私はこの髪が乾くまでに貴方と分かり合わなければならない。髪は少し…

樋渡学
2年前
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【1分読書】『言葉の引力』

『言葉の引力』  私が世界の言葉たちを知ったときにはもう遅かった。有難う、どこかへ、など…

樋渡学
2年前
5

【1分読書】『ハルのアイス』

『ハルのアイス』  今日もまた、数多くの生徒たちがこの学校を旅立とうとしている。私が教師…

樋渡学
2年前
5

【1分読書】『万年後』

『万年後』  若木はもうすっかり大人になって、周りの木と遜色ない程綺麗に桜の花を咲かす。…

樋渡学
2年前
3

【1分読書】『OLの女。公園の風景』

『OLの女。公園の風景』 雨上がり、午前中の公園。湿気を含んだ風が通る。その風は冷たかった…

樋渡学
2年前
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【1分読書】『犬は何も知らず』

『犬は何も知らず』  サムは僕達の名ばかりの友人だ。犬と呼ばれる少年である。それは僕達が…

樋渡学
2年前
4

【1分読書】『街の昼間は、うみのよる』

『街の昼間は、うみのよる』  向こう側、海を見やるとそこには光がない。海から見るこの街は明るいのだろう。この街が夜になると海は明るい。そういう事がここ数ヶ月続いている。海はさほど遠くないのだが、そこと私がいる街では時間が交差する。噛み合うことの無い場所。海岸にポツリと立っている家がある。私はそこに居る少年に手紙を書く。 ―少年へ  私は今海を見ています。あなたが住む家の方です。私が昼間に見る海は眠っているようで、私が眠る頃そちらは目をさます。私達は出会うことは無いのでしょうか