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日本の理系は「目玉」屋で終わるのか?:ブレード・ランナー

今年前半のネット記事で注目したのは、ダイアモンド・オンラインの「ファーウェイのスマホ事業「崖っぷち」、英アーム制裁追随の深刻度 」。
https://www.msn.com/…/ファーウェイのスマホ事業-崖っぷち-英アーム制裁追…/ar-AABOuLD…

アームとは、半導体の心臓部であるCPU(中央演算処理装置)を設計し、その“設計図”を半導体メーカーに提供することに特化した、IP(知的財産)を武器とする企業だ。アームの設計図の強みは、低消費電力だ。この特徴が支持され、今ではスマホ向け半導体のシェアは約9割に達している。グーグルなどOSの締め出しに、中国国内の市場確保で持久戦を考えていたファーウェイは、加えて半導体という電子機器の心臓部を独自開発せねばならず。できても全体の機能が保障され、低コストになるとは限らないのだ。既に中国もアームを引き留めて、半導体の内製化システムを国産化しようとしてきた矢先であった。


さて、「ブレード・ランナー」である。半導体やOSのような人間複製のプログラムの核心部を設計するタイレル社が世界を支配し、自然環境は劣悪化、大半の一般人はその被害を受けつつ、低賃金労働で働き、後は代替えロボット=レプリカントがしりぬぐい。そのレプリカントの反乱が、物語の核心となる。映画自体の分析は下記のようにかなり進んでいる。

https://ciatr.jp/topics/244015?utm_source=facebook&utm_medium=social&utm_content=shareButton&fbclid=IwAR0RNZtf2OY3jWKysJdMIZI1dooaObUZZioF8CQW14o6lRHv16vnpJ_yaxQ


1982年制作のこの映画は、内容が先進的過ぎて、興行では失敗した。大学時代、新宿コマの近所の大きな小屋で観たが、ガラガラだった。しかし、この映画は長く評価されつづけ、最近続編までできた。30年後を的確に予言し、サーバーパンクのファッションや美術も、アニメ等に影響を与え続けている。原作は、フィリップ・K・ディックのSF小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』。『トータル・リコール』や『マイノリティ・リポート』も同作者が原作。監督は、英国人のリドリー・スコット。


上記記事はこう締めくくる。スマホ市場でファーウェイのシェアが低下しても、その分、アップルやサムスンなどの他メーカーがシェアを伸ばしてくれれば、そこに搭載された半導体のロイヤルティ収入で補える。ファーウェイへの部品供給がストップすれば、大量の在庫を抱え、工場の稼働率が低下するリスクを抱える日本の部品メーカーとは、根本的に状況は異なるのだ、と。


映画ではロボット=レプリカントの眼玉を精巧に作る老いた目玉屋技術者が前半登場する。半導体やOSを握るタイレルとの対比のために。まさに現状そのものではないか。80年代日本の経済力が頂点だった時、今の米中と同じことがあった。


1987年4月、レーガン政権は日本の半導体が第三国市場,およびアメリカ国内でダンピングされており,また日本はアメリカ製半導体を日本市場から排除しているという理由で,制裁を行なった。これによりアメリカ向けパソコン,カラーテレビ,電動工具に対し 100%の報復関税が掛けられることになったが,問題の背景には,80年代に急成長した日本の半導体が,70年代には圧倒的な力を有していたアメリカ製品を駆逐したという事実がある。このことは「産業のコメ」とも呼ばれる半導体産業が衰退することにより,自国の安全保障が脅かされるのではないかというアメリカの危機意識から来ていた。


当時経産省の役人はアメリカ何するものぞだったが、外務と防衛の連中が、これは安保問題だからと説き伏せた、と国際関係の研究者から聞いている。中国は、日本と同様、目玉屋に甘んじるだろうか?中国という国のプライドと懐の深さから見て、事態は長期化する可能性が高い。


地政学は理文を問わず教養として知っておきたい。日本史や日本文学で、地政学を考えることのできる教材は、秀吉の朝鮮戦役・鄭成功の台湾での活躍を出発点にしたその言説史である。軍事色政治色が強いこの分野は、研究してはいけないとか、研究することが怖いとか考えてる人たちは呑気なものである。おそらく目玉屋でも、ダメな目玉屋しか育てられまい。

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