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本の未来を考えたら、新しい講座が生まれた

本を起点とした学びを極めた「読書ゼミ」を開講します

先日、この1年の試行錯誤の集大成とも言える、ひとつの講座が募集開始となった。

NewsPicks NewSchoolの講座のひとつである、「アウトプット読書ゼミ」だ(主宰はNewsPicksパブリッシング)。

「本による学び」をどう深められるかーー。ずっと考え続けてきた問いに対する、自分なりの答えを詰め込んだ。

骨太な名著を、その道の第一人者、そしてともに挑む読書仲間と、「対話」をしながら毎週読む。

ここには、これからの本の可能性が詰まっている。

本の未来は「わかりやすく」にはない

NewsPicksパブリッシングの創刊から1年。いつかは自分で出版社を立ち上げようと考えてからは5年ほど。

ずっと「本づくり」の方法論ではなく「本」というフォーマットそのものの可能性と限界を考えてきた気がする。

就活で出版社だけを受けて編集者になったくらいだから、本のことは信じている。だが、ご存じのように本はどんどん売れなくなってきた。

本の価値は良くも悪くも変わっていない。変わったのは外部環境だ。

楽(らく)に楽しめるコンテンツは段違いに増えた。

アテンションそのものがお金になる時代、ウェブという無限の面積に、ありとあらゆるコンテンツが投げ込まれるのは必然だ。

「何かを読みたい」と思う稀少な読者と、「読ませたい」と思う多数のコンテンツ提供者。

そのバランスのいびつさから必然的にコンテンツは短く、わかりやすくなっていく。「お時間は取らせませんので」が、忙しい現代人にはもっとも効く売り文句となった。

こうなると、数時間、ものによっては10時間以上を平気で読者に要求する「本」は分が悪い。ネットフリックスはソファに横になって1シーズン20時間観るのも苦じゃないが、本はそういうわけにもいかない。受け身ではなく能動的に「読み込む」姿勢が必要となる(ソファに横になって読むとすぐ眠くなる…)。

そんな「しんどい」コンテンツである本の取りうる選択肢は2つ。

1/ 楽に読めるようにする 

2/ 「しんどいけれど読んでみよう」と思わせる仕組みをつくる

だ。

僕は、本は1の「楽」な道を目指すべきじゃないと思っている。

「楽に、わかりやすく」では、動画あるいはマンガには絶対勝てないからだ。

では、本にしかないものは何か。それは、わかりやすさの対局にある複雑さだ。

動画では表現しきれない抽象的な概念。

音声で読み上げるには時間がかかりすぎる体系的な論理。

そこにこそ本の、というよりはテキスト全体の活路がある。

しかし、これだけ「お時間は取らせませんので」に慣れた現代人に、分厚い本を単に手渡すだけではあまりに不親切だろう。2で挙げた、何かしらの仕組みがいる。

そう考え、たどり着いたのが、冒頭に挙げた

第一人者による講義 × ともに挑む仲間との対話 × ペースメイキングだ。

僕は、この読書ゼミで、本にまつわる3つの「課題」を解消できると思っている。

課題1: 読んでもわからない

名著と呼ばれる本は、当たり前だが難しい。

自分の胸に手を当てれば、最後のページを読み終わったとき、

「ふう・・・(ようわからんかったな)」

と、寂しさとともに天を仰いだことは一度や二度ではない。

やむをえない部分もある。本はフォーマットとして、どうしたって一方向性になる。どれだけ工夫しても、最大公約数的なメッセージしか載せられない。

本来、読んでわからなかったことを詳しい人に聞ける場が担保されているべきなのだ。

課題2: 読むのがしんどい

繰り返しになるが、本は能動的な姿勢を読者に求める。テキストは、動画や音声に比べ、脳への負荷がもっとも高い行為だ。

しかし、その負荷を下げる方向の努力は、本の良さをもいずれは殺すことになる。だったら「しんどいけれど楽しい」にしか活路はない。

「本を読んで感じたことを話し合うのがこんなに楽しいなんて知らなかったです」

これは、創刊時からトライしてきたオンライン読書会に寄せられた感想だ。意外だった。僕はてっきり著者による講義がおもしろいかと思って企画したのだが、参加者は「会ったこともない(でも同じ本を読んできている)読者同士での感想の交わし合い」をむしろ楽しんでいた。

その楽しさを引継ぎつつも、今回の「アウトプット読書ゼミ」は、単なる感想の交わし合いでは終わらない。事前に講義で話し合う「問い」を設け、その「問い」を意識して読み(これにより読む時点ですでに深く学べている)、事前に自分の考えを整理した上で当日、対話を交わす。

いわば大人のためのアクティブラーニングだ。「本を読まなくてもわかる」が売りのイベントとは正反対。読んで、考えて、とにかく脳に汗をかく。

そのプロセスを経た対話は、とっても深いものになる。一人で10時間考えても得られなかった気付きが他者の一言でもたらされる様子を、僕は何度も見てきた。

こう書くと「自分は他人に伝えるほどの考えがなくて…」とひるむ方もいるかもしれないが、真剣に考えたなら、どんなにありきたりな意見も受け止められる寛容な場であるのでそこは安心してほしい。

課題3: そもそも読むきっかけがない

本を読む習慣がある人の中で、骨太な、いわゆる名著を一生読むつもりがない人は少ない。多くの場合、「重要だけど、緊急ではない」の箱に入れられ、いつまでたってもやることの一番に上がってこないだけだ。その結果、世界に知られる日本語となった「Tsundoku」が生まれる。

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だからこそ、まずカレンダーに入れてしまうことが重要だ。「必ず読んでくる」という参加条件自体に、ペースメイキングの効果がある。

学び=コンテンツの質×読者の主体性

ここまで、本は

1/ 読むのを楽にする

ではなく

2/ しんどいけれど楽しい

を目指すべきだと書いてきた。

もしも、方法次第では楽に学べる方法があるなら1の道を極める努力をすればいい。しかし、それは不可能なのだ。僕は、

学びの深さ=コンテンツの質×読者の主体性

だと思っている。どんな優れたコンテンツがあっても、読者が受け身でいるかぎり学びはない。

カリスマ塾講師が「カリスマ」的な雰囲気を醸し出すのは、「わかりやすい」だけでは不十分だからだ。この授業を聞かないとまずい、何よりまずそう思わせなくてはならない。彼らは教え方だけでなく、生徒を前のめりにさせるのが本当にうまい(今まで「なぜカリスマ塾講師のビジュアルは、グラサンだったりロン毛だったりやたらと怖いのか」が疑問だったが、たった今解消された)。

読者をどう前のめりにできるか。僕たちは僕たちのやり方で、最高の舞台を用意した。

本を読むことでしか得られないものとは何か

「ここまで本を読むのは(しんどいけれど)いいことだ」という前提で話を進めてきた。

本を読むと、何がいいのか? 外部環境が変わる中、出版人にはここも説明責任が求められる。

自分なりの答えを言えば、本でしか、思考の「土台」が鍛えられないからだ。

数分で読める「最先端のニュース」や「頭のいい人のオピニオン」を読んでも、点としての知識は増えるが、それだけでは「土台」にはならない。

「土台」がなければ、いくら知識を積み重ねても自分の頭で考える力はつかない。

たとえばデザイナーベイビーのニュースについて自分なりに考えるには、

・倫理上の論点は何か

・「進化」とは何か。なぜ、生命は「優秀」な個体だけでなくこれほど多様なのか

・テクノロジーと人類はどう付き合っていくのか

など複数の論点について、ここまでのおおまかな議論の経緯とともに知っておく必要がある。

その「土台」を整えるのにもっとも有効なのが、この愛おしくももどかしい、本というフォーマットなのだ。

これからの時代、こういった「答えのない問い」を自分で考える力は、ビジネスにおいても、それ以外の世界においてもより強く求められていく。

特に、市場のプレッシャーに晒されるビジネスリーダーこそ、「答えのない問い」により強固な考えを持っておいてほしい。そう思って自分は、NewsPicksに来た。

最高の講師とファシリテーター、そして「最も重要な議論」

アウトプット読書ゼミの第一回は、ソニーコンピュータサイエンス研究所副所長の暦本純一さんにゲスト講師を引き受けていただいた。

暦本さんに選んでいただいた書籍はマックス・テグマークの『LIFE3.0 人工知能時代に人間であるということ』。名著という言葉からイメージされる「古典」ではないが、未来の古典となると確信できる壮大なスケールを持った一冊だ。

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テーマは「人類は、AIとどう関係を築いていくか」

スティーブン・ホーキングが帯に寄せた「この時代の最も重要な議論」の言葉に、偽りはない。

タイトルはライトだが、中身の議論は、超本格派。かつ中立的で、バランスが取れたものだ。AI脅威論者ともテクノロジーユートピア論者とも健全な距離感を保っている。
日本では大ヒットとはなっていないようだが、とんでもない名著である。

世界初のモバイルA R(拡張現実)システムを開発されたことで知られ、一人の科学者としてどこまでも自由な発想を持つ暦本さんと、この本を読み通す体験は一生忘れられないものになるだろう。

プロジェクト全体のリーダー、ファシリテーションは、シン・ニホンでもプロデューサーを務めていただいた岩佐文夫さんにお願いした。

「読者が読者に広める」をコンセプトにしたシン・ニホンアンバサダーも岩佐さんとご一緒したが、あの場で生まれた学びの「深さ」は想像を超えたものだった。今回の講座でも、その学びが一つの「型」となっている。

読むとは知ることではなく、考えること

以下は、プロジェクトリーダーである岩佐さんから、応募者に向けたメッセージだ。

本を読む力を向上させれば、自分の思考力が上がるーー。これは僕自身が編集者として実感してきたことです。読書の本質は知識の吸収ではないと考えます。読書とは、他者の考えを学び自分の思考をアップグレードさせる行為です。その思考とは意思決定する力でもあります。世界は今、前例踏襲で解決できない課題に満ちています。そんな時代に仮説を出し、未来を切り開いていくには、自分の頭で考え意思決定をしなければなりません。読むとは知ることでなく、考えること。1冊の本を熟考することで、自分の思考は驚くほど更新されます。そんな経験を一緒にしてみませんか。

本というパッケージのことをずっと考え続けてきた。

トライアルもずいぶん重ねてきた。

自分が信じられる「本の未来」はここに託した、と堂々と言える。

ぜひ、たくさんの方にご応募いただきたい。



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