概要

顧客体験をイノベーションする方法

株式会社マネーフォワード デザイナーの猪爪です。
デザイン力強化のため、6/28(金)〜6/29(土)の2日間に渡り、デザインアカデミー主催のサービスデザイン ワークショップ「顧客体験のイノベーション」に参加しました。

講師はIDEO・Samsung・Barclays Bankなど様々な企業や組織を成功へと導いてきたクライブ・グリナー氏、Innovation Farm代表ティム・コービン氏、亀井潤さんです。
顧客体験を革新的に改善する方法を座学とワークショップを通して学びました。

テーマ発表

15名の参加者を4チームに分け、金融・政府サービス・ヘルスケア・ストリートのいずれかのテーマに対して解決策を考えました。私のチームは金融を担当しました。

デザインリサーチで問題を発見する

金融に関する問題を探るため、私のチームは虎ノ門周辺の銀行3件とコンビニATM2件を観察しました。

6/28(金)14:20頃の銀行内は月末の振込や入金をする人たちで溢れ、ATMには長蛇の列ができていました。小脇にサイドバックを抱える飲食店の店員、時計をチラッと見て時間を気にしながら列に並ぶ会社員、携帯ゲーム機で遊ぶ男性などが並んでいます。
コンビニ内のATMには日本円を引き出すのに悪戦苦闘する外国人観光客がいました。

利用者の行動や表情を観察し、考えていることや感情をできる限り理解しようと努めました。観察後は各自が気づいたことをポストイットに書き出し、チーム内で共有しました。

クライブの説明
リサーチと聞くとデータ分析や仮説検証をするイメージがあるかもしれませんが、デザインリサーチでは顧客の意見を聞き、行動を観察することで顧客自身も意識していないニーズや欲求を見つけ出します。
主観と共感を活用し、顧客が何を求めているのか本質的には何が問題なのかを発見することで、新たなアイデアを生み出すことを目的とします。

問題を抱えている人物像を特定する

観察の中で、特に印象に残っていた飲食店の店員をペルソナに決め、性格・口癖・欲望などペルソナを設定する上で必要な情報を考えていきました。
情報の不足分は想像力・経験・インターネット情報などで補いつつ、現実的で納得感のあるペルソナになるように調整を繰り返します。
設定が完了すると、実在する人物のようにペルソナをイメージできるようになりました。

ペルソナ
名前:チン ケンイチ
説明:中華料理店の雇われ店長、数年前に先輩社員から店を引き継いだ
モチベーション:売上の入金と両替をしないと!早く帰って夜の仕込みしないと!疲れた、休憩したい。。。
性格:せっかち、アルバイトにきびしめ、ゲーム好き
口癖:はやくしろよっ!!
フラストレーション:ATMの長蛇の列にイライラ!早くしてー!
欲望:銀行に行きたくない!並びたくない!休憩したい!
魔法の杖があったら:銀行よ!店に来てくれ!
補足:中華料理店のオーナーは複数店舗を経営している

クライブの説明
統計学的なデータに基づいた分析だけでは、本質的なものが抜け落ちてしまいます。例えば、年齢・資産・離婚歴などのデータだけではイギリス皇太子とオジー・オズボーンは同一人物になってしまいます。
ペルソナを考える際には、感覚的なインサイトと統計データを組み合わせることで精度を高めます。現実をしっかりと観察して適切なペルソナを見つけましょう。

顧客体験の全体像を可視化する

現状、ペルソナが体験している入金や両替に関するすべての体験を「顧客体験マップ」で整理しました。
整理する上で、中華料理店を運営する上で必要な業務も考慮します。
体験が整理できると、良い体験・悪い体験の全体像を可視化することができました。

顧客体験マップ

クライブの説明
顧客体験マップを制作することで、顧客体験の全体像を可視化することができます。顧客の視点に立ち、体験と感情をマッピングすることで過剰・不足している行動、その時々にどんな感情なのかを理解することができます。
まずは作ってみて、進めながら精度を高めましょう。

解決策を生み出す

問題を解決するためのアイデアをデザインスプリントで有名なCrazy8をベースにした方法で考えました。
A4の紙を8つに折り、できた8つの面の1面に1分間で1アイデアをスケッチします。最初の8分間はCrazy8、残りの4分間は1分毎に「もしAppleだったら、どんな解決策を考える?」というようなテーマが与えられ、アイデアをスケッチします。
合計12分間で1人12アイデア、チームで48アイデアが生まれました。

アイデアの一例
・中華料理店の支払いをキャッシュレスにする
・入金や両替を代行するマネーヘルパー業務を始める
・ドローンがお金を取りに来てくれる
・銀行にマッサージチェアを置いてリラックスできるようにする
・広告で収益を取り、料理を無料提供する
など

チーム内で各自のアイデアを説明し、良いと思ったアイデアに1人3票を投票しました。

クライブの説明
問題を解決するためにアイデアジェネレーションをします。
アイデアジェネレーションは、普段自分たちで作り出している固定概念を壊し、新しいアイデアを創出することに役立ちます。
上手く描く必要はないので、アイデアは絵や図で描きましょう。
多くの人はクリエイティブな仕事をクリエイティブな人に任せようとしますが、沢山の人が参加した方が良いアイデアが生まれる可能性が高いです。
クリエイティブはコラボレーションから生まれます。
また、1人1人がアイデアを出すことも重要ですが、誰かのアイデアから発想を広げていくことも重要です。
品質を気にせず、気楽に沢山のアイデアを出すことに集中しましょう!

中間発表

ペルソナ・顧客体験マップ・解決策のアイデアを全参加者に発表し、1日目は終了となりました。

理想的な顧客体験を考える

2日目は今回のワークショップの中で一番難しかった「理想的な顧客体験マップ」の制作から始まりました。

まずアイデアの中から、1.顧客への価値、2.実現可能性、3.持続可能性、この3つのバランスを考慮し、入金や両替を代行するマネーヘルパー業務のアイデアを採用しました。

「理想的な顧客体験」を実現するため、店長・オーナー・アルバイトの職務上の権限・役割・制約条件などを洗い出し、実現方法を検討していきました。議論を進める中で、決裁権を持つオーナーにも働きかける必要があることに気づき、新たにオーナーもペルソナに追加しました。

次に、理想的な顧客体験マップの中から、重要なポイントを6つに絞り、6コマのストーリーボードを制作しました。
理想的な体験を精緻化し、「誰が、何を、いつ、どこで、どんな目的で、どのような行動をするか」を整理した上で、重要度の優先順位付けと詳細な文言案を考えていきました。

6コマのストーリーボード
1. 店長が銀行業務に時間を取られていることを解決したいと考えるオーナー
2. オーナーがポストに投函されたチラシを発見する
3. オーナーがWebサイトより問い合わせる
4. オーナーが営業担当と中華料理店で打ち合わせをする
5. サービスの利用を開始する
6. 店長が本業に専念できるため、オーナーも店長も嬉しい

クライブの説明
ストーリーボードとは、理想的な顧客経験の提供価値をストーリーで表現したものです。ストーリーボード内の文言には顧客が求めている具体的な価値を書きます。シンプルなストーリーの中に、様々な情報が含まれることでストーリーボードに現実味が帯びます。
ストーリーの力はとても強力で、特にCEOやエグゼクティブはストーリーによる説明を好みます。

レゴでプロトタイピング

ストーリーボードで描いた体験をより具体的にするため、私たちのチームではレゴを活用したプロトタイピングをしました。

はたから見ると幼稚に感じるかもしれませんが、チームメンバーからは感動の声が挙がるほど、アイデアを具体的にする効果の高い方法でした。

レゴを利用してテストをすると、サービスを運営する上で足りなかったユーザーとの接点や裏側の仕組みが即座に理解できます。そのため、ビジネスを成立させるために必要な様々なアイデアが生まれました。
並行して、飲食店が銀行業務に掛かる時間の算出・国内の飲食店舗数などを調べ、サービスの価格・市場規模なども検討しました。

プロトタイプができたところで、他のチームにペルソナを演じてもらい、フィードバックをいただきながら改善を繰り返しました。

クライブの説明
プロトタイプをつくる理由は、色々な人に見てもらい検討中の顧客体験が本当に価値があるかを検証するためです。プロトタイプがあると社長や役員など、誰でも簡単に体験することができます。
プロトタイプの種類はデジタルプロタイピング、フィジカルプロトタイピング、ボディーストーミング、レゴを利用したプロトタイプなど様々な手法があります。

解決策を提案する

最後に全チームでプレゼンテーションをしました。

私たちが考えたアイデア
・ク◯ネ◯ Cash (国内大手配送会社の新規事業)
・既存の配送網を利用し、集荷担当が売上の集荷と両替の配送を同時に行う
・集荷した売上を集荷センターに集めた後、まとめて各銀行に配送する
・店舗側のメリットは業務の効率化
・料金はサブスクリプション (店長が銀行業務に掛かる時間よりお得)
・防犯対策1、毎日の集荷ルートを変更する
・防犯対策2、通常の配送と見分けがつかないようにする
・防犯対策3、集荷担当が集荷できる金額に上限を設ける
・防犯対策4、盗まれにくい金庫の開発

体験の流れ
1. 店長が銀行業務に時間を取られていることを解決したいと考えるオーナー
2. 配送業者がポストに投函したチラシをオーナーが発見する
3. オーナーがWebサイトより問い合わせる
4. オーナーが営業担当と店舗で打ち合わせ、契約する
5. 集荷担当が店舗に到着し、売上を集荷し、両替バッグを渡す
6. 集荷担当はそのまま別の契約店舗をまわる
7. 集荷担当は一定の店舗をまわった後、集荷センターに売上を配送する
8. 集荷センターより各銀行に売上を配送する
9. 店長が本業に専念できるため、オーナーも店長も嬉しい

プレゼンテーション後には、クライブとティムよりフィードバックをいただきました。

投票

プレゼンテーション終了後、全員が3種類のポストイットを持って気に入ったアイデアに投票をしました。

ポストイットの種類
❤️:好きなアイデア
★:革新的なアイデア
¥:お金になりそうなアイデア

私たちのチームは一番多くの¥¥¥をいただきました!!!

ワークショップ終了

全員が学んだことを共有し、ワークショップは終了となりました。

参加者が学んだこと
・ペルソナを詳細に設定したことで、チームの判断軸がブレずに意思決定ができた
・定量データだけでペルソナを作らない方が良いことを皇太子とオジー・オズボーンの事例から学べた
・行動観察の重要性を理解できた、これからは短い時間でも良いので実際の現場に行きたい
・すべてのアウトプットを1箇所にまとめて掲示していたため、思考してきたことが可視化された環境の中で考え続けることができて良かった
・クレイジー8など、様々な手法を体験できたのが良かった
・スピード感のある中でトライし続ける体験が良かった
・レゴを利用してストーリーが伝わることを知って驚いた
・ストーリーで説明することで上司との共通認識を得やすいように感じた、今まで上司をうまく説得できなかったので試していきたい!

最後に

問題の発見から解決策の提案まで、一連のプロセスを座学とワークショップを通して学ぶことができました。
2日間かけ、サービスデザインのプロセスを体験することで、改めてデザインの価値や難しさを実感しました。
学んだことを実務でも活用し始めていますので、その記事も今後書いていきたいと思います。

いただいたサポートでお茶でも飲みに行きませんか?☕