緩和領域における漢方薬

お久しぶりです。
本日は緩和領域での漢方薬について、その中でも六君子湯に焦点を当てて勉強していきたいと思います。

オピオイド製剤の処方により、便秘、悪心。嘔吐、食思不振、眠気、せん妄、口腔乾燥などの副作用が現れます。
その中でも食思不振に対して六君子湯が用いられます。

六君子湯は科学的エビデンスが得られている漢方薬の1つであり、簡単に作用を説明すると、末梢組織で唯一食思亢進作用をもつホルモンである「グレリン」の分泌を増やすなどして、グレリンシグナルを高めることにより食思増進作用を有します。

簡単に説明するとこのような感じです。
今の説明だとオピオイド製剤の副作用に対して使用することがメインのように感じてしまうと思いますが、もちろんオピオイド製剤の副作用に以外に対しても用います。タイトルにウソ偽りがないようにそれっぽく説明しました。

さて、ここからはもう少し掘り下げていきます。

六君子湯は、江戸時代よりその内容を変えずに胃腸などの消化管に働く漢方薬として用いられてきています。
先ほど食思亢進作用ホルモンの「グレリン」の分泌を増やすなどしてと述べましたが、六君子湯にはグレリン受容体の感受性を高める生薬、グレリンの分解を抑制する生薬なども含まれています。

構成生薬は、蒼朮、大棗、人参、陳皮、半夏、甘草、茯苓、生薬の8種類です。
作用機序をもう少し詳細に説明すると、セロトニン受容体(type 2B, 2C)の阻害によるセロトニンにより抑制されていたグレリン分泌をもとに戻す、グレリン受容体にアロステリックに作用し、グレリン受容体の感受性を上げる、グレリンを不活性化する酵素を抑制する、などの作用があります。これまでの研究により8つの生薬成分のうち5つが協同してグレリンシグナル伝達経路を高めることで、食欲不振、体重減少の阻止、嘔気・嘔吐の改善などを行っている可能性が考えられています。
少し細かいですが、六君子湯は直接的に血中グレリン濃度を上昇させないのです。

また、グレリンを不活性化する酵素を抑制すると先述しましたが、我々が一般的にグレリンと呼ぶホルモンは正確にはアシルグレリンという活性型であり、不活性型はデスアシルグレリンと呼ばれます。

グレリンを不活性化する酵素はカルボキシエステラーゼと呼ばれ、別名はブチリルコリンエステラーゼです。気づきましたか?リバスチグミンが阻害する酵素ですよ。ブチリルコリンエステラーゼ。つまりリバスチグミンには食欲亢進作用がある可能性があり、アルツハイマー型認知症で食欲がない患者に対して処方しているとかしていないとか。

六君子湯は上部消化器症状の改善作用を示すことから、他にも胃食道逆流症(GERD)、PPI抵抗性の非びらん性胃食道逆流症(NERD)、機能性ディスペプシア(FD)に対する改善効果に用いられます。

PPI抵抗性のGERDやNERDの治療でPPI標準量+六君子湯投与はPPI2倍量投与と同等の症状軽減効果があったり、PPI標準量+プラセボより有意に症状を軽減したりとエビデンスがあります。

FDに対しては、国際的コンセンサスをまとめたRomeにも記載されているくらい世界的に認められている漢方薬です。作用機序がほかの漢方に比べ解明されているため患者への処方説明としてはわかりやすい漢方薬となります。

それ以外では、最近抗がん剤の標準制吐療法にオランザピンを上乗せした治療が話題になりましたが、六君子湯も標準制吐療法に上乗せしたほうが標準制吐療法よりも優位に嘔吐抑制率を上昇させたりもしています。

六君子湯は、およそ2週間でその主要メカニズムと考えられるグレリンシグナルが活性化されるので、はじめは2週間を目途として処方を考えるのがよいかもしれません。まあ処方後数日で食べられるようになったりもするみたいなので一概には言えませんが。

相互作用として考えられるのは、他に漢方薬を併用すると、含まれる甘草の量が多量となり、偽アルドステロン症が起こりやすくなる点です。

漢方は添付文書的には食前又は食間となっていますが、臨床では食後投与もよく見かけます。患者のコンプライアンスの良い方で飲んでもらえればよいと個人的には思っています。
ただ、六君子湯に関しては作用の点から胃に内容物が入っていない時に服薬を促すのがよいと思っています。

今日はこんな感じで終わりにします。