PISCS

いのたろうです!

今日は薬物相互作用について一緒にお勉強していきましょう。

本日はTwitterでもちらほら見かけるPISCSという添付文書などの相互作用情報を補足するための評価方法についてです。

僕は薬剤師といえば薬の専門家、薬といえば薬理!!と思っていました。
しかし、PISCSに出会い薬物動態について勉強していくと

薬剤師といえば薬物動態でしょ!!!

になりました。単純ですよね、はい。

医学部でも薬理は学びます。なんなら僕の知る薬理学者は医学部出身の先生も多いです。ただ薬物動態学については圧倒的に薬学出身の方が多いです。薬学部でしか学ばない特徴的な学問と言っていいでしょう!!医学部のカリキュラム調べてないので実際は知りませんけども。。。

もちろん医師でも薬物動態に精通した方はいます。しかし薬剤師の得意分野であることには変わりないです!!

と思いながら薬剤師をしているいのたろうです。よろしくお願いします。


では早速勉強していきましょう。

冒頭でも紹介しましたが、PISCSを簡単に説明すると「添付文書に載っていない薬の相互作用についておおまかに予想するもの」です!

普段添付文書を眺めていればわかると思いますが、星の数ほどある薬なのに添付文書の相互作用の欄にある薬はそんなに多くない。もちろんそこまで気にする必要のない組み合わせを載せる意味はないと思いますが、本来載せるべき相互作用が載っていないこともあるのも事実です。

PISCSは初めての人には難しく感じるかもしれませんが、わかってしまえば簡便で多くの薬の組み合わせについて血中濃度の変化を予測できる素晴らしいものになります。

今回はベルソムラ®(スボレキサント)を例に説明していこうと思います。

まず最初に理解というか覚えてほしいことをざっと紹介します。

CR(Contribution ratio):基質薬の経口クリアランスに寄与する割合。これはCYP3A4に寄与する割合と考えていいです。

IR(Inhibition ratio):阻害剤の時間平均としての見かけの阻害率。これもCYP3A4のみかけの阻害率と考えていいです。

簡単にいうとCRは阻害剤によって濃度が変わる薬剤、IRは阻害剤ということです。ベルソムラはCRに当てはめることになります。

次に覚えてほしい公式です。

僕も公式の成り立ちは知りませんが以下の通りです。

AUCratio=1/(1-CR×IR)

変数が3つありますが、このうち2つを添付文書から見つけることができれば自ずと残り1つを求めることができます。

とりあえず以上です。これだけあればとりあえず大丈夫です。

ではベルソムラの添付文書を見ていきましょう。

ベルソムラ

ベルソムラとクラリスの相互作用は言うまでもなく有名ですが、ジルチアゼム、ベラパミル、フルコナゾールと併用する場合は10mgに減量することが添付文書にも記載されています。

なんで10mgに減量なの?併用でどれくらい上がるの?ということですが、これを求めるのにPISCSを使います!!と言いたいですが、これもまた添付文書に記載があります。

ベルソムラ2

はい、ジルチアゼムについては記載があります。AUCが105%増加した、つまり2倍になったということです。添付文書では成人であれば20mgまで服用できます。なので併用で2倍に上がるなら半分の10mgということなんでしょうね、きっと。

今回はフルコナゾールとベラパミルについても練習として求めていきましょう。

ヒントとなるデータは上記の相互作用のデータです。ケトコナゾールの相互作用のデータを用います。相互作用試験の投与量と実臨床の投与量に違いがあることもあり難しいところではありますが、あくまで簡便に血中濃度の上昇を求めるものなので細かいことは今回は気にしないようにしましょう。

詳細は以下の本を見てください。

ケトコナゾールのIRは1なのでデータがあると計算が非常に楽になります。
ケトコナゾールの相互作用のデータよりAUCが179%増加しているので約2.8倍としましょう。
これらの数値を先ほどの公式に代入していくと

2.8=1/(1-CR)

となります。よってCRは約0.64と求めることができます。

ではフルコナゾールとの相互作用について計算しましょう。
フルコナゾールのIRは0.79です。
公式に代入すると

AUC=1/(1-0.64×0.79)

計算するとAUCは約2倍となります。

この勢いでベラパミルも求めます。ベラパミルのIRは0.71です。
公式に代入すると

AUC=1/(1-0.64×0.71)

計算するとAUCは約1.8倍となります。ベルソムラの規格を考えると10mgに減量は妥当ですね。

念のために求めたCRが本当に正しいのかを確かめるためにジルチアゼムも求めてみます。ジルチアゼムのIRは0.8です。
公式に代入すると

AUC=1/(1-0.64×0.8)

計算するとAUCは約2.05倍になり添付文書に記載された値とほぼ同じになりましたので、CRの値は信ぴょう性がありそうですね!

といった感じでPISCSを用いれば理論上あらゆる薬の相互作用について血中濃度の上昇率を求めることができます。

ただ注意点もいくつかあり、
・上述したCR-IR法は経口投与を前提に構築されたものなので、これをそのまま初回通過効果のない投与経路には適用できない。
・経口投与以外の経路の場合、初回通過時に相互作用がなくなるので、CR-IR法で推定した値より小さい値になると考えられる。
・CRを求める際は、調べたいCYP分子種の関与が明確で相互作用の程度が顕著なものを優先して使う必要がある。

などなどです。

これを使いこなせるようになると疑義照会の際に説得力が出ます。
以下を見てください。

・AとBを併用するとAの血中濃度が上昇するので気を付けてください。

・AとBを併用するとAの血中濃度が3倍上昇するので気を付けてください。


どうですか???

さすがに血中濃度が3倍になる併用を気を付けてくださいだけでは終わらせませんが、具体的な数値があるほうが説得力があるでしょ???

最終的な判断をするのは医師ですが、その医師が最良の選択をできるよう提案するのが薬剤師の役割ではないでしょうか。

計算自体も決して難しいものではないので是非日ごろの業務に取り入れてみてください。詳しくは自分で勉強してください。


オマケ

デエビゴ®(レンボレキサント)も計算してみます。

用法用量は1日1回5mg、最大10mgを超えないこと。

それに加えベルソムラ同様

デエビゴ

CYP3Aを阻害する薬剤と併用する際は減量が推奨されています。

デエビゴ2

デエビゴ3

イトラコナゾールのIRは0.95、フルコナゾールのIRは0.79より
デエビゴのCRは

2.7=1/(1-CR×0.95)
3.17=1/(1-CR×0.79)

より、0.66と0.87となり少し幅のある感じになりましたね。
ここからわかるのはこの理論も必ずしも絶対ではないということでしょうか。
原著論文を読んだり、もっと精通すれば見方は変わるのでしょうが、僕レベルではこの結果からCYP3A以外も絡んでくるんだなくらいしかわかりません。。。
オマケのせいで説得力にかけるものになってしまった気もしますが、ある程度は信頼できるがあくまで参考程度の数値ということでよろしくお願いします!!

おしまい