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地域分析の基礎 第4回 地域分析に不可欠な「比較」の基礎

 今回は、地域の実態を深く知るための方法として、比較が重要であることを述べたいと思います。
 さて、「〇〇市の人口は50,000人」というのは、分析と言えるでしょうか。これはただの数値ですから、ちょっと物足りないですよね。もちろん分析は数値がなければ始まらないのですが、数値だけでは分析になりません。「へぇー、そうなんだ」というしかないでしょう。
 では、「〇〇市の高齢化率は40%」というのはどうでしょうか。これも数値だけなので分析ではないのですが、同時に「ちょっと高い数字だな」と感じることでしょう。だから、ちょっとだけ分析になっているとも言えます。これは、数値の「意味」が分かった、ということです。では、なぜ先の人口の例と違って数値の意味が分かり、少しだけでも分析になったのでしょうか。それは、数値が%という割合で示されていることと、日本の平均的な高齢化率が何となく分かっているから、高いと感じることができるのです。つまり、明示されていないものの、読み手が比較できる数値が示されているから無意識に比較し、意味を把握できたことで、分析のような形になったと言えます。

 このように、分析には比較が必要です。私たちは、常にあらゆるものを比較することで分析します。自分の学力が高いのか低いのか、年収が多いのか少ないのか、元気なのか元気でないのか、など、いろいろなことを比較によって把握しています。地域を分析する際にも、それは同じです。
 比較をするには、その相手、つまり「何と比較するのか」を設定する必要があります。ここでは、2つ紹介します。
 1つは、「自ら」と比較することです。これは、さらに「過去」と「理想」の2つに分けられます。つまり、時間軸による比較と言えるでしょう。学力の分析では、前回の試験(=過去)よりも得点が高かったかどうか、あるいは目標(=理想)の得点に到達したかどうかで分かります。地域分析でも、過去10年間で人口が2割減少したとか、高齢者数が想定より1割多い、という形で自らの過去や理想と比較すれば、単なる数値だけでは見えてこない「意味」を知ることができます。
 もう1つは「他者」と比較することです。つまり、空間軸による比較と言えるでしょう。学力の分析でも、ライバルの〇〇君に勝ったのなら、嬉しくなります。地域分析でも、隣の△△市よりも人口が多い、といった比較によって、やはり数値以上の「意味」を知ることができます。
 このように、分析とは数値の意味を知ることであり、それには2つの比較が重要になります。「自ら」と「他者」、「時間軸」と「空間軸」での比較です。そして、これらの比較を組み合わせることで、さらに分析を深めることができます。

 先の「〇〇市の人口は50,000人」という例に当てはめてみたいと思います。比較を組み合わせれば、「〇〇市の人口の過去10年間の増減率と、△△市の人口の過去10年間の増減率を比較する」となります。〇〇市の数値が2割減少であれば「好ましくない」と思うでしょうが、もし△△市が3割減少であったのなら、「まだマシ」と見方が変わってくるでしょう。どう捉えるかは分析した人にもよりますが、比較を組み合わせることで、地域の実態をより多面的に捉え、深い分析ができます
 日本の人口は、少子高齢化をともなう減少時代に入っています。地方消滅の危機も提起されています。そのため、大半の地域で人口は減少、少子高齢化の数値が出てきます。しかし、多面的に見てみると、地域によって濃淡があります。人口減少が他の地域よりも早くから始まり、減少率も高まっているケースもあれば、減少しているけれどと緩やかになってきた地域もあります。そうした濃淡は、比較によって把握することができるのです。

 このように、多面的に地域を分析するにはさまざまな比較を組み込むことが有益です。ただし、欲張ってもいけません。比較しすぎると、かえって見えなくなってしまうことがあります。先の例では、過去10年だけでなく、20年、30年も比較を広げることができます。また、△△市だけでなく□□市も加えたり、さらに✕✕市も…と、やはり広げることができます。このように、比較の組み合わせは無限に広げることができるのですが、広ければ広いほど多面的な分析ができるわけではありません。いろいろな見方ができるため、どこかにフォーカスしないと何も言えなくなってしまうからです。△△市と比較するとまだマシだが、□□市と比べると厳しく、✕✕市とはほぼ同じような状況だとしたら、結局△△市は良いのか悪いのか、ズバッと判断することができません。「良くも悪くもない」では歯切れが悪くなり、「結局、何が言いたいの?」ということになりますから、あまり良い分析とは言えないでしょう。このように、比較を欲張って広げすぎると「策士策に溺れる」ようなことになってしまいます。
 したがって、ある程度の割り切りも必要です。もちろん、割り切ると他の面を見逃してしまう場合もあるので、重要なことは見逃したくありません。そこで、最初から比較対象を必要なものに絞っておき、その結果明確な分析ができたのならばそれで良い、という分析の基本戦略を持っておくことを勧めます。分析が不明確だと感じたら、他の比較を加えて広げましょう。最初から間口を広げておかない方が得策です。もちろん、割り切り過ぎると分析が足りなくなるので、絶妙なさじ加減が必要で、ある程度の経験とノウハウが求められます。最初から上手く分析できるものではありませんが、試行錯誤を重ねながら、最適な比較を組み込んで多面的な分析をしていただきたいと思います。

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