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地域分析の基礎 第6回 人口動向の分析で使ってみたい「年齢階級別純移動数の時系列分析」とは?

 今回は地域分析で最も重要と言える人口動向の分析について、あまり使われていないけれども面白いことが分かる分析方法を紹介したいと思います。地方自治体の政策の根幹となる、総合計画やひと・まち・しごと創生(地方創生)総合戦略では、まず最初に人口の分析が示されます。つまり、地域にとって人口は最も重要な要素であると同時に、政策の前提ともなるものです。多くの場合、これまでの人口の推移と今後の見通しは必ず紹介されています。加えて、転入・転出による社会増減や出生・死亡による自然増減の状況なども示されます。そのような分析の上で、今後の人口が特に対策を打たなければ大きく減少してしまうから、何らかの対策を自治体が打ち出すことで過度な減少を防ぐといったシナリオで総合政策や総合戦略が作られていくのです。
 これらの人口分析は私も大変重視しているので、地方公務員としては必ず把握しておくべきです。本連載ではこうした点に触れるのではなく、人口の分析ではあまり触れられていない注目すべきものを紹介したいと思います。

 それは「年齢階級別純移動数の時系列分析」というものです。分析結果はRESAS(地域経済分析システム)を使って簡単に表示することができます。聞き慣れない分析ですが、考え方は次のとおりです。国勢調査は5年ごとに行われます。私達は5年間で年齢が5歳上がることになるので、例えば自分が5年前の国勢調査では43歳だったとしましょう。その時には40~44歳の年齢階級の人数に含まれます。そして今回の国勢調査では、5歳上がって48歳になっているので、45~49歳の年齢階級の人数に含まれることになります。仮にこの5年間で地域に住んでいた人々が一切移動・死亡しなかったとすれば、両者の数は同じになるはずです。しかし、通常そのようなことはありません。増えていれば5年間の間に他の地域から同じ年齢層の人が入ってきていることになりますし、減っていれば他の地域に出ていっている、あるいは死亡していることになります。このように5年前の国勢調査時点におけるある年齢階級の人数と、現在の調査時点における5歳上の年齢階級の人数を自治体ごとに比較することによって、その年齢階級の人達がどのくらい入っているのか、あるいは出ているのかを調べることができます。それが、年齢階級別純移動数の時系列分析というものです。下の図は、RESASを使って、私の地元である福井県の結果を引用したものです。

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 典型的な地方圏の場合、15歳~19歳の年齢階級が5年後の20~24歳の年齢階級になると、大きく減少します。これは、大学への進学によって大都市圏に流出することによるものです。そして、20~24歳の年齢階級が5年後の25~29歳の年齢になると、少し増えます。これは、進学のために流出した人々が就職の際に地元に戻ってくる、いわゆるUターンが一定数あることを示しています。ただし、進学の際に生じた流出(マイナス)ほどの大きさではないため、進学と就職を通じてトータルでは流出超過(マイナス)となり、地方圏の人口減少が加速しているのです。
 あるいは、25~29歳の年齢層が5年後に30~34歳の年齢層になった際にも、プラスあるいはマイナスになります。これは、子育てにともなう流入や流出が起きていることを表しています。子育て環境が優れている地域ではプラスになり、そうでない地域はマイナスになる傾向があります。子育て層はもう少し幅広い年齢階級にも及んでいるので、40~44歳くらいまでは子育てにともなう移動が起きると考えてよいでしょう。
 それ以降の年代層は、それほど大きな動きはありません。ただし、定年退職に伴い大都市圏から地方に戻ってくる人数もわずかにあるようです。
 このように、年齢階級別純移動数の時系列分析は進学や就職、子育て、定年退職によって人々がどのくらい移動しているのかが明確になります。そして、そのプラスやマイナスは、自治体の魅力が他の地域に比べてどのくらい高いのか、あるいは低いのかを表していると考えられます。大きなプラスであれば他の地域から流入しているので魅力が高いことになりますし、マイナスであれば魅力が低いことになります。地域間競争が激化している時代の中で、このプラス・マイナスは明確に地域の競争力を表すと言えるでしょう。

 RESASで表示される年齢階級別純移動数の時系列分析は、2つの大きなメリットがあります。1つは死亡による減少がカウントされないことです。単純に人数を比較するだけでは、死亡による減少分も入ってしまいます。特に高齢者の場合はそれが大きくなるので、移動の状況とは言えなくなってしまいます。しかし、RESASの場合はその人数を統計から除外しているため、ほぼ純粋に移動の状況を表したものと言えるでしょう。これは大きなメリットだと思います。
 もう1つのメリットは、最新の国勢調査結果だけでなく、過去の結果も計算して流入・流出の推移が一目で分かることです(つまり、時系列分析ということです)。例えば、進学による流出が現在大きい地域でも、過去に比べるとかなり減っている場合があります。これは、流出が依然として解消されていないとはいえ、好ましい傾向と言えるでしょう。もちろん、地方圏では若年層自体が減少しているので、流出の数が減ったからといって、流出する若者の割合が減ったわけではないかもしれません。RESASではそのような割合まで確認することはできませんが、これまでの若者や子育て層などの流入・流出が長期的にどう変化しているのかが分かるので、地方自治体の政策が何らかの効果を発揮している場合にはその効果として捉えることもできると思います。
 年齢階級別純移動数の時系列分析は総合計画や総合戦略ではあまり見る機会はありませんが、非常に有益な分析ができるツールなので、ぜひ活用してみてください。

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