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地域分析の基礎 第2回 データを集める-国・都道府県・市町村が提供するデータの特徴と選び方

 前回は地域分析を行う前に必要な3つの心得について紹介しました。今回からいよいよ地域分析の本体に入っていきたいと思います

 まず、当たり前のことかもしれませんが「分析できること」と「できないこと」があります。つまり、分析に必要なデータがあるかどうかを確認する必要があるのです。データがあれば分析は可能ですが、データがなければ分析することはできません

 ※データがなくて分析できない場合は、分析可能な範囲で推測を加えるか、独自に調査するなどの方法が考えられます。ここではこれ以上立ち入らないことにします。

提供主体によるデータの特徴-メリットとデメリット

 では、どのようなデータの種類があり、どこで入手することができるのでしょうか。データの種類について詳しいことはここで紹介しきれませんが、人口や産業、教育、環境、気象…さまざまなデータがあります。国や地方自治体が進めている政策は基本的にデータに裏づけられていることが多いので、地域分析に必要なデータは、ほとんどの分野で入手可能と言えるでしょう。

 ただし、皆さんも個人情報の管理には注意していると思いますが、データもまた個人単位ではなく集計・整理して公表されます。そのため、データが存在していても欲しい形で集計・整理されていない場合もあります。例えば、若年層の状況を知りたいのに年齢別に分けたデータがない、〇〇地区の状況が知りたいのに市全体のデータしかない、というようなことがあります。このように、細かいデータが手に入らず大まかなデータしか分からないこともあります。

 そこで、大切なのは「どのようなデータがあるのか」ということと「どこまで細かいデータがあるのか」ということになります。前者については今後順を追って紹介していくことにして、今回は後者について、提供主体によるデータの分類から説明したいと思います。

 大まかに分けると、①国が提供するデータ ②都道府県が提供するデータ ③市町村が提供するデータ の3つに分けられます。提供されているデータの分野は、ほぼ共通しています。これは、ほとんどの調査が国の事務となっていて、実際の調査は市町村や都道府県に委託されているからです。したがって、データの集計・整理を国の視点で行うのか、個々の都道府県あるいは市町村の視点で行うのかによって、提供主体が変わってきます。


 では、それぞれが発行しているデータの特徴とメリットなどを紹介しましょう。

 まず、国が提供するデータです。当然のことですが、国全体のデータが収録されているとともに、データの種類によっては都道府県単位や市町村単位での集計も提供されています(もちろん、全都道府県・全市町村のデータです)。したがって、分析したい地域のデータを入手するだけでなく、他の地域と比較したい場合も探しやすいというメリットがあります。
 一方、デメリットもあります。それは、収録されているデータの種類が多く(多すぎて)ので、自分が分析したいデータがどこにあるのか探しにくいことです。これは根気よく探すか、慣れるしかないでしょう。また、1つの表のなかにもいろいろなデータが収録されているので、自分の必要なデータをだけを抽出し、それを表計算ソフトに落とし込んで図表を作る手間も結構かかります。

 次に、都道府県や市町村が提供するデータです。これは、提供している都道府県や市町村のデータだけが掲載されています。特定の地域を分析したい場合に、その地域に関連する多様なデータがコンパクトに整理・紹介されているので、データを探しやすいというメリットがあります。
 また、幅広い分野のデータを効率よく入手できるので、データをさっと見るだけでもその地域の大まかな姿が見えてくるのもメリットです。データの種類も限られていてますから、表計算ソフトへに落とし込む手間もそれほどかかりません。
 さらに、データの中には国の集計に掲載されていない細かいものまで提供している場合があります。国の集計では細かいデータはどうしても省略されてしまいますが、個々の都道府県や市町村が提供するものは細かいものもあります。国のデータだけでは物足りないと感じる場合は、都道府県や市町村のデータに収録されていることもあるかもしれませんので、確かめてみると良いでしょう。
 一方、デメリットもあります。それは他の地域との比較に手間がかかることです。例えば特定の市町村のデータを入手した後に、他の市町村がどうなっているかを確認したい場合を想定してみましょう。確認したい市町村の同じデータが必ずしも提供されているとは限りません。そうなると、国が提供しているデータの中から探す必要があります。
 しかし、国のデータにも多くの種類があるので、始めに入手した市町村のデータが国のどのデータに当てはまるのか分からない、ということもあるでしょう。そのため、結局、市町村が提供するデータから出発すると他の市町村と比較したい時に行き詰ってしまう、ということも起こりうるのです。

 ※ただし、都道府県が集約したデータの中には、その都道府県内の市町村のデータが表示されている場合があります。その場合は都道府県内の他の市町村との比較は可能です。

 おすすめのデータ入手パターンとは?

 以上の点から私は次のような二つのパターンで分析に活用することを勧めたいと思います。
 ①その地域の大まかな状況を知りたい時は、都道府県や市町村が集約したコンパクトなデータ集を使い、ざっとその地域の特徴を確かめる。
 ②詳しく分析したいデータを絞り込んだ後は、国の集計を見てデータを入手する。そして、比較したい都道府県や市町村のデータも同様に入手する。

 このような手順で分析を深めていくと、より効率的で正確な分析ができると思います。

 なお、こうしたデータはほとんどインターネットを使って入手することが可能です。以前は冊子で発行されていたので図書館や行政資料のコーナーなどでコピーを取るしかなかったのですが(しかも貸出できないことが多い)、現在は簡単に入手できるようになりました。そしてExcelのファイル形式で収録されているので、図表の作成も以前に比べれば格段に楽になりました。ありがたいものです。

 そして、実はデータを集めるためにさらに取っておきの方法がまだあります。それはRESAS(リーサス)を使うことです。詳しい使い方は今後紹介していきますが、クリック操作だけで分析したい地域のさまざまなデータをグラフや地図で示してくれる、大変うれしいサービスです。地方創生を支援するために国が提供を始めたもので、表示できる内容も豊富です。データもアップデートされ、機能も少しずつ増えていて、地域さえ選べばさまざまなグラフをまとめて作成してくれる機能まで付いています。「手間をかけて図表を作らないと身に付かない」と嘆くのではなく、活用できるところは大いに活用した方が良いと思います。
 もう1つお勧めの方法を紹介しましょう。それは、「統計でみる市区町村のすがた」からデータを入手することです。総務省が毎年発行しているものですが、全国すべての市町村の代表的なデータが収録されています。項目ごとに全国の市区町村のデータがずらっと並んでいる感じです。先ほど紹介した国が提供しているデータと都道府県・市町村が提供しているデータの良いところを併せ持ったものと言えるでしょう。市町村は約1800と多いのでデータの種類は限られますが、その市町村の状況をさっと見ておきたい場合や、他の市町村と比較したい場合の両方に使えるところが良いです。また、冊子だけでなくホームページからもダウンロードすることができるので、ぜひ使ってみてください。

 これと類似の冊子として、東洋経済新報社が発行している「地域経済総覧」「都市データパック」といったものもあります。前者は、「統計でみる市区町村の姿」と似たような構成になっていますが、セレクトしているデータの種類がやや異なります。また、後者に関しては。市ごとにデータが一覧できる形になっているのが特徴です。また、データごとの順位が表示されていたり、住みよさランキングなど独自の企画なども読みごたえがあります。

 今回はデータの種類そのものを深堀りすることはできませんでしたが、これから主なものは少しずつ紹介していきたいと思います。今回は、データをどこがどのように集約し、提供しているかということによって、国・都道府県・市町村の3つに分けてそれぞれのメリットとデメリットを説明しました。提供主体によってもさまざまな種類があることが理解いただけたと思います。

 データの種類も含めると、その圧倒的な量にたじろいでしまうかもしれません。データの波に溺れてしまわないように気をつけてください。前回述べたように、分析の前に目的を明確にしておくのも、データに圧倒されないようにするためです。データに惑わされ、翻弄されるのではなく、データを操ることが分析の理想だと思います。あらためてその点を強調して、今回の文章を閉じたいと思います。

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