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地域分析の基礎 第12回 地域分析の対象となる「地域」の範囲とは?(その2)

 このテーマについては、第3回の連載ですでに説明しました。そこでは「都市雇用圏」という概念を使い、市町村の範囲を超えた広域のエリアを単位として分析することの重要性を述べています。今回はテーマのタイトルは第3回と同じですが、その範囲を前回とは逆に市町村よりも狭い「小地域」を単位として分析することの重要性を述べたいと思います。
 小地域とは、市町村の中で「〇〇2丁目」とか「〇〇地区」などと呼ばれる範囲のことです。住所にも記されるので、日常生活で馴染みのある単位だと思います。日頃の近所づきあいだけでなく、自治会活動や小中学校の集団登下校、老人クラブなど、「顔の見える」密なコミュニケーションの取れる範囲です。
 小地域単位の分析が必要な「究極の理由」も、実はここにあると思います。

 その理由を述べる前に、これまで主に市町村を単位に説明してきた地域分析も、細かくエリアを分けると必ずしも実態は一様ではないことに注意しなければなりません。それが、小地域分析の必要な「直接の理由」です。
 例えば、人口が増えている市町村でも、すべてのエリアで増えているわけではありません。むしろ、多くの場合は鉄道沿線とか大規模な宅地開発が行われたエリアなど、かなり限定されたエリアです。他のエリアは人口減少や高齢化が進んでいても、市町村全体の人口が増加していれば「元気なまち」として世間の注目を集めてしまうため、見過ごされてしまうことになるわけです。
 逆に、市町村全体では人口が減少している場合でも、中心部と郊外でやはり様相が異なっています。最近は都心回帰の現象とともに中心部の方が人気があるケースも見られますが、かつては車で移動でき広くて快適な住宅を構えられる郊外の方に人が移動していきました。
 いずれにしても、市町村全体の動向は必ずしも市町村内で均等に生じているわけではなく、むしろかなり濃淡がある、かえって全体の状況とは逆のエリアも市町村の中にある、というのが実態だと言えます。そこで、小地域単位の分析を行うことで、それを確かめる必要があるのです。
 小地域単位のデータは必ずしも豊富ではありませんが、国勢調査には比較的充実しています。特に人口関連は国勢調査のデータで間に合うでしょう。
 ※なお、地域を正方形で分割して状況を把握する「メッシュ」という方ほどもあります。これは面積と形が等しい形の小地域単位と呼べるでしょう。もちろんメリットもありますが、1つのメッシュが必ずしもまとまったエリアではないことに注意が必要です。用途に応じて使い分ける形になります。

 では、小地域単位の分析で分かったことを活かすにはどうすれば良いでしょうか。1つは、発展の核を設定することです。人口減少の中ですべての地域が均等に発展していくことはもはや難しい時代になりました。そこで、限定されたエリアを発展の核とすることで、市町村として持続していく必要があります。これは「コンパクトシティ」にも通じるでしょう。該当するエリアの条件は、これまで都市の発展を支えてきた歴史があり、交通や都市機能が集積するだけでなく、人口減少が緩やかで、将来も一定の人口が見込まれ、高齢化の進行も緩やかなこと、などが該当すると思います。人口の状況を小地域単位で調べることで、核となるエリアの設定に寄与します。
 もう1つの活かし方は、急激な人口増加に注意することです。人口増加で注目される市町村は、必ずと言っていいほど増加の核となるエリアがあります。それは「元気なまち」の象徴でもあり華やかな雰囲気さえ漂うのですが、必ずしも持続的とは言えません。時間の経過とともに一気に高齢化・老朽化が進むからです。今こそ発展を牽引しているかもしれませんが、将来は発展の足を引っ張る存在に変わるかもしれません。かつて大規模に整備されたニュータウンが、まさに該当します。当初は子どもや若者で賑わい、学校が次々と建設されるわけですが、年数の経過とともに児童・生徒が減り、住民の高齢化とともに今度は医療・介護の整備が必要になります。そして、今度は居住者が減り、空き家が増えていく…という結末になりかねないのです。
 したがって、現在の発展の核は将来の停滞のリスクにも変化しうるものです。適度な新陳代謝がなければ、持続的とは言えません。現在の飛ぶ鳥を落とすような快進撃に惑わされることなく、冷静に長期的な目線で将来を見据えるために、小地域単位の分析が必要です。


 さて、先に小地域とは「顔の見える」密なコミュニケーションの取れる範囲で、それが小地域単位の分析が必要な「究極の理由」であると述べました。その心は、意思決定の主体となりうる、ということにあります。
 小地域には、自治会やPTA、老人クラブなどがあります。市町村のなかでそれぞれのエリアの未来を考える際、こうした組織が意思決定の主体として重要な役割を果たすことになります。もちろん各エリアはこれからも発展してほしいという思いは誰にもあるでしょう。しかし、人口減少は確実に進んでいます(つい先日、2020年国勢調査の確定値が公表されました)。貴重な思いではあっても、いつまでもそれを許してくれる状況ではありません。核となるエリアもあれば、発展を断念せざるを得ないエリアも(本意ではありませんが)出てくると思います。そうしたセンシティブな決断・覚悟を持てる主体は、エリアの方々でしかないのです。もちろん、自治体との信頼関係に基づいて市町村全体の意思を踏まえての対応となるのでしょうが、痛みを伴う変化を受け入れるにはエリア内の合意形成が欠かせません。その時に大切なのは、「〇〇2丁目」や「〇〇地区」という小地域しかないでしょう。

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