地域分析の基礎 第7回 人口動向を多面的に捉える-「定住人口」から「滞在人口」へ

 地方創生の観点で最も注目されているのが人口であることは、言うまでもありません。そして、その人口とは「定住人口」のことを指しています。定住人口のデータは、主に国勢調査と住民基本台帳人口の2つがあります。
 国勢調査は5年に1回、直近では2020年10月1日に行なわれています。国勢調査が表す地域別の人口とは、調査時点において3か月以上住んでいるか、住むことになっている人、つまり「常住している者」の数として集計されます。一方、住民基本台帳人口はその人の「生活の本拠」となっている地域に基づいて市区町村が作成する名簿から集計されます。大半の人は特定の拠点に一定期間居住していることから、国勢調査人口と住民基本台帳人口はほとんど違いがありません。しかし、例えば大学生が地元を離れて4年間東京で1人暮らしをする場合や、サラリーマンが単身赴任で一時的に他の地域に居住する場合などは、住民票を移動することなく居住地のみ変えるケースが多くあります。その場合は、国勢調査人口では居住地でカウントされる一方、住民基本台帳人口では住民票のある地元でカウントされることになります。こうして、両者の人口には多少ズレが生じます(居住の実態がないと判断されれば、自治体が住民基本台帳を職権で削除したり、住民票があるのと同じ扱いで住民税を課税することはあります)。
 また、国勢調査は5年に1回の調査なので、最新のデータを把握することが困難です。2020年に行われた調査の結果も現時点では人口の速報値しか公表されていないため、最新の確定データは2015年と6年前のデータになってしまいます。一方、住民基本台帳人口は毎月集計されるので、ほぼリアルタイムにデータを捉えることが可能です。このように、人口を測るデータは国勢調査と住民基本台帳で若干の違いがあることに注意してください。

 しかし、ここで最も述べたいのは、こうしたデータが果たして人口を最も的確に捉えるものなのかどうか、ということです。国勢調査も住民基本台帳も、そこに居住しているかどうかが人口の基準になっています。しかし、人々の活動は居住地のみで行われるわけではありません。朝、自宅のある市区町村を離れ、東京や大阪などの企業や学校のある市区町村に通勤・通学している人が多くいます。日中は通勤・通学先で過ごし、学校や仕事が終われば再び自宅のある市区町村に帰宅するという生活を繰り返しています。この場合、1日の半分は自宅におらず、自宅にいても寝る時間がほとんど、ということになるでしょう。また、休日になれば買い物や観光などで遠出する人も多くいるでしょうし、最近こそコロナ禍でリモートに代替されていますが出張する人もいます。つまり、私たちは居住地とは別の市区町村で活動するケースが多く、経済活動の規模も人々の行動範囲に即して把握する必要があります。第3回で「都市雇用圏」に言及したのも、そうした状況を踏まえてのことです。
 そこで、人口の捉え方を「定住人口」だけでなく「交流人口」としても捉えるべき、という考え方をとることができます。これは人々の行動範囲を考慮したもので、1つの捉え方として有益だと思います。しかし、交流人口は残念ながら数で表すことが非常に少ないですし、活動の種類によってバラバラに把握されているだけなのです。
 例えば「昼間人口」というものがありますが、これは人々の通勤・通学が考慮されています。また、「観光入込客数」というものは、人々の観光による来訪者数をカウントしたものです。一方、「流出入係数」は、消費の動向を表しています(人口のデータではありませんが、消費による移動の状況を反映していると言えます)。出張に関しては、こうしたデータはありません(観光の一種として捉えることは可能です。また、駅の乗降者数で「定期外」の人数などが参考になりますが、やはり出張だけを表しているわけではありません)。このように交流人口に関連するデータは人々の活動内容によって区分されていて、全体としての実態を把握することは困難です。そのためか、「交流人口が大事だ」という掛け声とは裏腹に、あまり数字で語られることが少なく、「定住人口〇〇人」というのが究極の目標とされている状況とは対照的とさえ言えます。

 そこで、「滞在人口」に着目したいと思います。RESASでは、この滞在人口を「滞在人口率」として簡単に表示する機能が備わっています。滞在人口率とは、次のようなものです(RESASのマニュアルより引用)。

 滞在人口率では、当該自治体の実際の人口に対して、月間平均で何倍の滞在人口が来ているかを把握することで、地域活性化の指標として活用することができます。
 滞在人口率を平日のみの月間平均で見れば、おおむね、買い物客や通勤者・通学者などをどれだけ域外から集められているかが把握できます。休日のみの月間平均で見れば、おおむね、観光客をどれだけ域外から集められているかが把握できます。ただし、地域によっては平日の方が観光客が多かったり、休日に周辺住民が買い物に来る地域もあるため、地域の実情に応じて使い分けていただくことが必要です。

 つまり、先ほど述べたような人々の活動の結果、その市区町村にどれだけの人が滞在しているのかを総合的に把握することができるのです。株式会社ドコモ・インサイトマーケティングの「モバイル空間統計」というサービスを用いていて、コロナ禍でも外出自粛の効果を測る際にこうしたデータが使われていました。これまでは知ることのできなかった、非常にリアルなデータだと思います。
 しかも、いちいちバラバラのデータを集計する必要がない、というのも大きなメリットです。もちろん、人々の活動内容によって経済に与える影響は大きく変わってきます。居住地であれば日常生活を送るための消費活動が中心になるでしょうし、通勤通学先では昼食の購入や夜の飲食などが中心になるでしょう。あるいは、観光では豪華な食事やお土産などを購入することが目的になります。このように一口に滞在人口と言っても、さまざまな活動を目的として滞在しているので、それが経済に与える影響を捉えるには活動内容に分けて分析した方がよいかもしれません。しかしそれはそれで手間もかかってしまうので、とりあえず滞在人口が容易に分かるだけでも大きなメリットがあると考えたいと思います。

 これからは定住人口だけに囚われるのではなく、滞在人口を重視して地方創生を考える方法もありうるのではないでしょうか。

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