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地方公務員が考えるべきこと 第12回 幸福度ランキングの高い地域でも手放しで喜べない、2つの理由

 都道府県や市町村に対して、幸福度ランキングや魅力度ランキング、ブランドランキングなど、さまざまなランク付けが大きなブームになっている。上位になった自治体はその結果に喜び、地域の魅力としてそれを掲げる。一方、下位になった自治体はその結果を無視するか、怒り、抗議や訴訟の検討など強い姿勢で発表者に対峙している。こうしたことは以前からもあったが、最近特に報道が多くなったように感じる。いずれの反応も、こうしたランキングの注目度をさらに高めているように思う。
 このようなランキングにはもちろん、不正確な面もあるだろう。特に下位となった自治体にとっては不正確な方法で結果を一方的に示され、メディアに大きく取り上げられたとすれば、面白いはずがない。しかし、上位になった自治体の方がむしろ喜んでいるだけで良いのか、それが果たしてその自治体にとって良いことなのか、とも思わざるを得ない。

 その理由は簡単で、まず、人口の取り扱いにある。一口に地域と言っても、人口や産業構造など大きな違いがあり、例えば人口1000人の村と人口100万人の政令指定都市をランキングで比較するのははっきり言って無謀である。もちろんそこまで極端な比較はほとんど行われていないが、都道府県でも人100万人に満たないところと1000万人を超えるところがあるので、その差は非常に大きい。そこで、比較をする時にデータを「人口あたり」で計算するとことによって、その差を解消する方法をとっている。こうすることで、例えば病院のベッド数で人口500万人の県が100万人の県の5倍あったとしても、ランキングでは同じにすることができる。幸福度を測るためのデータを選んだ後は、ほとんど「人口当たり」で計算することによって、地域の人口差を解消させることができ、実際そうなっている。
 こうした方法は一見すると公平なように思える。確かに人口の差を無視してデータを比べるよりも公平ではあろう。しかし、これは割り算である。だから、割り算の結果高い数字が出るのは、分子が大きいか分母が小さいか、いずれかである。問題なのは後者、つまり人口が少ないほど高い数字が出やすくなるということである。

 もちろん人口が少なければ、さまざななデータ(つまり分子)が少なくなるのはやむを得ない。しかし、データの中には商業施設の面積とか保育園の定員など、人口が急激に減少していてもすぐには減らすことのできないものもある。したがって、分母(人口)の減少に分子(データ)の減少が追いつかず、人口当たりで計算した数値が高くなるということが起こりうるのである。
 このことは幸福度の大きな問題点と言えるのではないか。なぜならば、私たちは究極的には幸福を求めて生活しているのだから、幸福度の高い地域で生活したいと考えるはずである。したがって、人口が減少している地域は、ごく単純に言えば他の地域よりも幸福度が高くない地域と捉えることもできる。しかし、そうした地域が人口当たりで計算した結果、高い幸福度となってランキングが上がることになる。これは重要な矛盾と言えるのではないだろうか。
 もちろん、すべてのランキングが人口当たりで計算されているわけではない。割合を使ったものもあるので、上記の懸念がすべてのランキングに当てはまるわけではない。しかし、それでも人口当たりによる計算は多くのランキングで行われているから、公平性のためやむを得ないとはいえどうしても上記のような矛盾を孕んでしまう。この点があまり議論されていないようだが、注意しなければならない。

 次に気を付けるべきは、ランキングをどう活かすか、ということである。私自身、ランキングは好きである。「心に残るヒットソングベスト〇〇」といったものも、楽しんで見ている。自分の好きな曲が上位であれば単純に嬉しいし、下位であれば残念に思う。おそらく、地域別の幸福度ランキングも、まず興味を持って見ることは良いだろう。結果を喜び、残念がるのも他のランキングと同じだと思う。

 地方公務員にとって重要なのは、ここから先である。ランキングの結果が高かったか、低かったかではなく、そのランキング調査がどのようなことを幸福と捉えているのか、それがどのようなデータで評価されているのか、ということを冷静に見つめることである。そして、それぞれの自治体が追求している住民の幸福の内容と合致するものとそうでないものに分け、特に前者に重点を置いて課題を浮き彫りにすることである。
 地方公務員の仕事の究極の目的も、地域住民の幸福であるだろう。そして、地域住民にもたらしたいと考える幸福の内容も地域によって異なる。だから、確かにランキングは気になるが、大切なのは地域が求めるものの結果だけで良いのではないか。そして、それらの結果に一喜一憂するのではなく課題を浮き彫りにして、次に繋げることではないだろうか。
 ランキングが加熱している中で、どうしても結果ばかりが報道されてしまうのだが、地方公務員は中身を冷静に分析し、使えるところだけを見極めて上手に使うことが必要であろう。

 

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