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vol.5ナレーター小坂由里子 『目覚めよと呼ぶ声が聴こえる』

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彼女からは、それまで歩んできたイバラの道は伺えない。

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ナレーター「こさきん」こと小坂由里子。だいたいおおまかに30歳。
OAのレギュラーと単発のVPで毎月10本以上。ナレーションだけで自立できているといえる。
穏やかな中に、きりっとしたたたずまい。そして言葉が美しく自信があふれている。

そんな彼女からは、それまで歩んできたイバラの道は伺えない。

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ゆるやかなスタート

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「ナレーターになりたい」
そう思い始めたのは20代後半からだった。

カルチャーセンターのナレーション講座を皮切りに、いくつかのアナウンススクールを転々とする。その過程でMC司会、CATVのレポーター/キャスターの仕事をこなして行くが、どれもぴんとこない。ナレーションをしたかったからだ。

ようやくナレーションスクールに巡り会うが、そこの同級生たちは「いつか花咲く」と皆で長い夢の中にい続けるばかりだった。
そんなぬるま湯を抜け出し、スクールバーズへ。

ナレーター小坂由里子だが彼女がそれまでにつちかってきた読みは、講師たちから厳しい指摘に会う。

ナレーター小坂由里子,猪鹿蝶,講師,スクールバーズ,ナレーション専門スクール,報道,アナウンサー,そんな彼女は授業後、周りから慰められるくらいの存在だった。

『その時はやめようと思わなかった?』
「ボコボコでしたね(笑)でも辞めようとは少しも。アナウンススクールの時は、滑舌ひとつとってもひどかったんです。まともにしゃべれなかったんです。それを自分なりに克服してきたので。前を向こうって」

前を向いて進もうと心に決めていた。でもスクールバーズの卒業を控えても、自分で営業していくことは恐かった。

営業用のサンプルを作ろうとスタジオバーズの門をたたく。しかしカウンセリングでは、分かっているつもりだったビジョンのあいまいさが、浮き彫りになって行った。結局、自分を見つめ直すだけのサンプル収録になってしまった。意気込んでいただけに実はショックだった。

「ショックではあったんですが、それまでも自分を見つめてきたので、スタジオでのカウンセリングはスーと入ってきました。信頼は変わらなかったですね」

そこから彼女の本当の力が発揮されることになる。
「自分と向き合いウソのない在り方」を追い求めた結果、振り切ったサンプルを作りあげた。

理由をつけては動かない自分を追い込むため退路を断った。すべての仕事をいったんゼロにして営業に向かったのだ。

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営業開始

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だが…退路を断ったはずの営業活動も、恐怖を克服するための時間がかかった。しかしそこに飛び込むしかなかった。扉は勝手には開かないのだ。そのほとんどを準備に費やした後、恐る恐る制作会社の門をたたいてみた。

そこで彼女を待ち受けていたものは。

冷たい門前払い。隣にいるのに避けられる。打ち砕かれそうになる心。知人の先輩ナレーターに営業途中に出会った。「こさきんちゃんは、こんなことしなくていいのよ~」哀れみの言葉の口元は歪んでいた。複雑な思いが塊となって頭をよぎる。

数社回ってみたものの…反応はなし。そんな前向きな彼女を見て、アトゥの狩野マネージャーがオーディションを振ってくれた。でも決まらない。意気込んでいただけに、不安がよぎる。「やっぱりナレーターは向いてないのかな…」

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目覚めよと呼ぶ声が聴こえる

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話はナレーターを目指すもっと以前。

カウンセラーを前にただただ泣く。それを繰り返していた。
言いたいことすら分からない。言葉にできない。自分と向き合えなかった。だから泣くしかなかった。

明るく元気なOLだった彼女を襲った鬱病。
その病とともに華やかだったはずの、20代中盤の4年を過ごした。

光の届かない深海を漂いながらゆっくりと沈んでいく。眠れない。気がつけば1日中、壁に向かって膝を抱えていた。果てしない病との戦いは、苦しみながら自分の心と向き合うことだった。

数えきれない自問自答の日々。心の奥にある扉がようやく開いた。
そこにあったのは「話す仕事をしたい」だった。それまでは自分の言葉で『話すことを拒否』していたのにである。心が本当にやりたいことを確信してから、ゆるやかに病は快方に向かっていった。

いくつかのスクールを巡るなかで、「滑舌」は最大の障害となった。

「長い鬱で顔が歪んでいたんです。ホントです(笑)だから上手く喋れなかったんです。でも徹底練習することで克服できたんです。滑舌で悩んでいる人がいたら『滑舌は”やればやっただけ”良くなるから!』とエールを送りたいですね」

いまでは自信になった、その早口をサンプルに入れた。

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甘酸っぱい果実

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営業を始めて三ヶ月後。ようやく一本の仕事が取れた。それを機に、応援してくれる知人の紹介でまた一つ広がった。八ヶ月後、また一つ。そして1年3ヶ月後。隣にいるのに避けられた所から、仕事が来た。ゼロになって飛び込んで1年以上たったいま。思いを持ち続けたナレーションの仕事が豊かに広がっていた。

『不安な気持ちの時、これは誰にでもあると思うんですが、どうして辞めなかったんですか?』
同じ質問を再度投げ掛けた。

「何度考えても、本当にやりたいことはナレーションしか思い浮かばなくって。自分と向き合って出した答えにブレなかったんです。だから辞めたとしても、やることがなかったんです(笑)」

『病気のことは書いてもいいんですか?つらい記憶だったと思うんですが…』
「鬱を克服して、ここまで来たことが自信になったんです。そして私の経験を伝えることで、誰かの役に立つのであれば」

彼女の言葉は強く優しい。
だから美しいのだ。

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