留学体験記(7) inブラジル

学部学年:留学時5年生
留学先:ブラジル・サンタカタリーナ州など。
留学期間:2019年7月19日~8月4日
留学目的:協定校臨床実習
氏名:中西恵
*やたら冗長な作文になってしまったので、ブラジル巡回診療についてのみ知りたい方は概要を読んでください。

【前書き】
2019年夏。私は救急科当直実習が明けるなり急ぎ帰宅して荷造りを始めた。その夜がブラジルへのフライトであった。成田からNew York、São Paulo、Porto Alegreへという40時間の往路。NYまでならいざ知らず、目的地はブラジルの片田舎。「腕時計をしていると腕を切り落とされるらしいよ」などと脅してきた友人の言葉を思い出しつつPorto Alegreに到着すると、とっぷりと日も暮れている。ホテルまで無事たどり着けるのか、さらには生きて日本に帰れるのかまで考え出してしまいじわじわと不安が胸を浸していくのを感じた。しかし、そんな不安は空港に迎えにきてくださった森口先生と会うまでだった。行ってよかったし非常に充実した時間を過ごした。医師の在り方や今後の自身の在り方を考え直す契機となった。


【概要】
今回私が参加させていただいたのは、森口エミリオ秀幸先生(ブラジル連邦共和国リオグランデ・ド・スル州連邦大学内科学教授)が私費で行っている日系移住者を対象としたブラジル南部巡回診療である。ポルトガル語が不自由なために十分な医療を受けることができない日系移住者のため、森口先生は年に1度、2週間病院勤務を休み、約2000kmの距離を検診バスで移動して8ヶ所の地域を巡回し200人弱の方々を診察する。レントゲンなどの機械は持ち運ぶのが難しいため、心電図や血液検査や尿検査、バイタルなどの基本的なデータ以外は視診聴診触診といったクラシカルな手法のみで患者を診なければならない。私たち学生は身体測定や血圧・心電図、予診、データ入力等の業務を行い、先生の診療をサポートした。

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【スケジュールと雑感】
巡回診療の朝はやや早い。日によってスケジュールは異なるがバスで移動して診療先の地に向かい、到着したら測定・診察環境を設置して診療の補助を行い、ご馳走を頂き、診療が終わったら撤収作業を行ってホテルに向かうというのが大体の流れだ。朝の早い日は基本的に長距離移動のある日で、そんな日は検診バスに半日以上揺られて学生同士の談議に花を咲かせた。どれだけ移動しても車窓から眺める風景は変わらずもそもそと草を食んでいる牛や馬が見えるばかりで、日本の23倍近い国土を持つ国はさすがの広さだなと独りごちたのを覚えている。
町村に到着すると身体測定等を行うための器具を設置し、先生の業務をサポートする。夕方ごろになると移住者の方々が作ってくださったり持ち寄ってくださったりした心づくしのご馳走を頂いた。苗から育てて手ごねで作ったというお蕎麦やこんにゃくなどの日本食からブラジルらしい巨大なステーキやシュラスコまで、各地で食事時が診療と重なると山のようなご馳走を用意していただいた。おいしいやらありがたいやら勧めてくださるやらで、間違いなく人生で一番ご飯を食べた2週間だった。一緒に行った学生の中には留学参加前後で数㎏太ったと嘆いているものもいた。私は恐ろしいので体重は測らなかった。食事が終わり、先生の診療が終わると撤収作業を行った後にバスでホテルに移動し就寝となる。基本的に毎晩8時間程度は眠れていたように思う。朝の早い日も移動のバスで十分な睡眠をとることができたので、体力的なつらさはほぼなかった。
渡航前は行程の全日が集団行動となり休息が十分に取れないかもしれないということや食事や気温などの環境に適応できるかと懸念したものだった。しかし先生も秘書の方も非常に細やかに気を使ってくださり、守ってくださり、ほとんどすべては杞憂だった。同行した学生も優秀かつ気のいい人ばかりでとても助けられた。困ったことと言えば食べ過ぎて太ったことくらいである。

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【学んだこと?】
ブラジル特有の食生活のためか生活習慣病の罹患者が多く、医療アクセスの制限された地域における一次・二次予防の重要性を痛感した。しかしそれ以上に大きな学びとなったのは医師としての森口先生のスタンスである。他者を尊重するとはどういうことか、その答えの1つを見たように思う。「巡回診療は年に一度だけれど、どんなときもサポートしたいと思っているので気になることがあったら必ず連絡をください。」そう伝え続け、ここまで一人一人と真摯に向き合い寄り添おうとする医師を私は初めて見た。
今回訪問したどの地域でも森口先生の巡回診療を心待ちにされていて、私たち学生のことも手厚く歓迎してくださった。3世代にわたって先生のおじい様、お父様、そして先生が築いてきた関係を感じて心を打たれた。ブラジル巡回診療は無償どころか経費持ち出しのボランタリーな診療であり、日本で今まで私が見てきた医療や医師と安易に比較できるものではない。しかし今後医師や地域医療について考えるとき、今回の経験は大きな糧となることは間違いない。

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【アピールポイント】
 地球の反対側で地域医療の在り方を体で感じられます。そして森口先生が本当に人格者です。英語ができなくても大丈夫、会話は基本日本語です。ただポルトガル語はできた方が空港等で困りません。移住者の子孫の同年代の日系人とも友達になれます!

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