Inori

心に残ったもののきろくと、ひとりごと。 普段は曲をつくっています。

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最近の記事

春と鬱 at 喫茶店

桜、咲いたと思ったらすぐ散った。 受け皿みたいなものを想像して。ひと、というかいのちは、一生で受け取る愛の量が決まっている。そしてその容量がオーバーしたひとから順に、しんでゆく。癌とかそういう、適当な理由を考えるのがかみさま。 春の憂鬱が立ち込める、全てのメニューが相対的に安い喫茶店でそういう話をしていたら彼は、そんなの全員に当てはまらないじゃないかと言って「あてはまらない例」をあげ始めた。理系だから、しょうがないか。しょうがないってなにがだろうか、と思いながら、さっきま

    • 空の色、赭

      ずっと、空を飛べないことがコンプレックスだった。 つい最近まで神様を信じていたし、それ以外の全てすら信じていた。 まぶたの裏にずっと秘密を持ち続けていたいから、世界から光を集めた。 光の繭の中で生活をした。長いこと外に出ていないから、図書室や本屋や、そんなところでさえ億劫に感じた。 きっと心が擦り減っているから、日記を書くのをまたやめたんだと思う。何に擦り減っているのかはわからないけれど、きっといま、過去に戻りたい。 大きな音はつらい。でももっとつらいことは、人の疲れた顔

      • 旅のなか

        すこしの間、旅に出る、空想の中で。 世界地図を見ていたら授業が終わっていた。ヨーロッパに行きたい。アジアを一周したい…と行程を組んでいたら、時間が過ぎていた。 チャイムの音に思わず顔を上げると、先生は困ったような怒ったような顔をしていた。 それから少しして、放課後廊下ですれ違った時に、ふと呼び止められて言われた。 昔、電車で旅をしたことがあるのよ、何カ国も、何カ国も。 その話を聞きながら、夕焼けの職員室でお菓子を食べた。夕焼けの味しかしなくて、しかもそこは職員室ではな

        • 真夜中の音楽たち

          9/12 1:20 ドビュッシーは濃淡のない涙のような音を使う。 真夜中。息を殺して聴くけれど、余りにも滑らかでいてくれるから泣いてしまう。たぶんわたしが泣いてしまうのは、哀しいとか感動とかそういう類のものからくるのではなくて、単に楽譜に表記されたドの音を見た奏者がCの鍵盤を押すような、純粋に確約された行為なのだと思う。彼の音楽は涙でできているそれはただ単に世界を失わないようにするためのものだから ところで、この人の弾く夢がいちばん好きだと感じる。 ポロネーズ第11番ト

        春と鬱 at 喫茶店

          絵画と物語

          「ジヴェルニーの食卓 / 原田マハ」読了 或る画家の隣で、白紙に筆を置いた瞬間から、作品が生み出されるまでの工程を見せてもらったことがある。 まるでそこに見えない下書きが描かれているかのように、何の迷いもなく、何の躊躇いもなく、筆を動かす彼は、まるで本当に魔法使いのようだった。 絶対に歪にならないよう、全てが計算された豪奢な絵。 そのときまであまり美術に興味のなかった私は、それを見た瞬間、幼いながらも「絵を描く」という行為に、非常に強く、引き寄せられた。 そこから今ま

          絵画と物語

          静かな「真夜中」を書き起こす

          「真夜中は、なぜこんなにもきれいなんだろうと思う。」 そんな言葉から始まる、川上未映子さんの「すべて真夜中の恋人たち」。 最初の文章から、まるで真夜中のように穏やかだった。 この作家さんは、名前だけ聞いていたものの、読んだのは初めてだった。 口溶けの良い、ビターなチョコレートのような文章。 言葉を完璧に”自分のものにしている”と感じた。 普通、物語では表現されにくい、会話の空気感が、焦ったいほど丁寧に描かれていて、それに圧倒される。 まるで、生々しい一人称のカメラワー

          静かな「真夜中」を書き起こす

          深い喪失感の片隅

          2022/03/10  映画「千と千尋の神隠し」 胸が苦しくなるほどの喪失感。 この映画を見るたびに、言い表せない喪失感に苛まれる。 最後の、千尋とハクが飲食街を駆け抜けていくシーンの空の色の青さが、苦しい。バッドエンドではないというのに、晴れやかに終わらないのが、この映画の魅力だと思っている。 幼稚園の頃からずっと、もう何十回もこの映画を見た。多分人生で1番見た映画は、この映画だと思う。 この独特の世界観、空気感が、私の今の創作の価値観の地盤となっていると言っても過言

          深い喪失感の片隅

          こどもたちへの、静かな弔い

          よく見ると家の中にはたくさん窓があって、 うちは古いからか、窓際にひとひとり分座れるような板がついてる。 朝は東向きの窓で、夕方は西向きの窓で本を読んでいるんだけれど、どんな明るいライトよりも太陽光がいちばん紙に合う。 でもクラスメイトはみんな、眩しくて教科書が読めない、と、教室のカーテンを閉じる、あれがよく分からない(けど人それぞれなんだと思って、柔らかく納得している)。 そんな窓際に座りながら、私はよく本を読んで、書き物をする。暖房の暖かさが苦しい時は、窓を開けると、

          こどもたちへの、静かな弔い

          懐かしい夢の話

          2022/02/22 映画「ハウルの動く城」 最後の記憶は、小学生の頃。 母が好きな映画なので、何度も何度も近所のレンタルビデオ店に借りに行った。 段々勉強が忙しくなって、つい最近までジブリを見返す余裕なんて皆無だった。 数年ぶりに見た、懐かしい匂いに、今まで泣いた記憶なんてなかったのに、思わず泣いちゃった。 今と昔と、記憶に残るハウルの像は少し違って見えた。その違いを噛み締めるだけで、とっても楽しい。 小さい頃から、ハウルは王子様だった。 美しくて優しい、とても魅力的

          懐かしい夢の話