旅のなか

すこしの間、旅に出る、空想の中で。

世界地図を見ていたら授業が終わっていた。ヨーロッパに行きたい。アジアを一周したい…と行程を組んでいたら、時間が過ぎていた。

チャイムの音に思わず顔を上げると、先生は困ったような怒ったような顔をしていた。

それから少しして、放課後廊下ですれ違った時に、ふと呼び止められて言われた。
昔、電車で旅をしたことがあるのよ、何カ国も、何カ国も。

その話を聞きながら、夕焼けの職員室でお菓子を食べた。夕焼けの味しかしなくて、しかもそこは職員室ではなく、ローマの地だった。

旅は、実は、好きなひとが好きなものであって、元々わたしが好きなものではなかった。でも今はかなしくなったら、ずっと旅のこと考えてる。

空港の空気が大好き。飛行機の狭さが大好き。いつか一人旅に出る。

男でも女でもショートでもロングでも歳下でも歳上でも朝型でも夜型でも関係ないから、感性の澄んだひとが好き。それから上品なひとが好き。落ち着いているひとが好き。途方もなく胸が苦しくなるような文章の書き手が好き。旅が好きなひとが好き。

沢木耕太郎の深夜特急のような、世界を漂白するのも良い。中山可穂のように国境を超えた大恋愛を旅で飾り付けるのも良い。原田マハはパリ。角田光代の旅エッセイ。


旅が好きなひとは良い。大人数での旅行は苦手だけど、ふたりならどこへでも行けそう。と、真昼の公園で話していた。

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