緑色の液体が飲みたい

君は緑色の液体が飲みたくなったことはあるか(無性に)。私はある。というかつい昨日、そのどうしようもなく抑え難い熱狂に、心を突き動かされたばかりである。

とはいえ私は何も怪しい液体のことを申し上げている訳では無い。緑色の、しゅわしゅわした液体。

要するに、メロンソーダである。

きっかけは単純で、道行く人がメロンソーダらしきものを手に持って歩いていた、ただそれだけの事だった。夕刻、ちょうど沈みかけた太陽が、てらてらと私を照らしていた。

飲みたい。
あの緑の液体が飲みたすぎるぞ。

だがここで間違っても早まってはいけない。いくらメロンソーダが飲みたいという気持ちが衝動的に強まったからと言って、道行く人を襲って手に入れることは出来まい。「メロンソーダを飲みたかったのでつい…」などと供述しており、と報道されてしまってはことである。というかその頃にはもうきっとメロンソーダのほうもどうにかなってしまっているだろう。というよりそもそもメロンソーダは人を襲ってまで飲むような代物ではない。一瞬にしてここまで思いを馳せた私は、どうかしているのかもしれなかった。

速る鼓動をなんとか抑え、近くの自販機に目を凝らしながら歩を進める。無い。無い。どこを探してもお目当ての緑色の液体が見つからない。何故、メロンソーダが無いのだろう。そんなに不人気なのか。さては、この国の陰謀か。
「メロンソーダだってなんだって所詮は合成着色料と甘味料、水と二酸化炭素が混ざっただけの液体であり、あまり飲みすぎると虫歯や生活習慣病などの悪影響が想定される。というよりむしろ目を閉じ鼻をつまんで飲めば大体炭酸飲料なんて同じ味がする、だからなんだって良いだろう。気持ちだ気持ち」とかなんとかと、偉い人が言っちゃったりしているのだろうか。

そんなことはどうでもいい。
私が今、緑色の炭酸飲料を渇望している。ただそれだけの事が全てだ。

自販機では飽き足らず、コンビニにまで足を運んだ(というか、そんなに飲みたいなら、スーパーに行けよ、ということである。そんなことは分かっている。ただ当時の私には、ここでスーパーを頼ったら負けだ、という漠然とした思いがあった。冷静に考えればそんな勝負はもともと誰ともしていないし、自動販売機やコンビニで飲料を買うより明らかに安い。だから寧ろ私の方が勝手に得体の知れない何かに挑みかかり、勝手に敗北していたのだった。連日の気温差とストレスで、幾分と頭がおかしくなっている自覚はあったが、ここまでとは思っていなかった)

しかし最寄りのコンビニには、残念ながらメロンソーダは無かった。己の心と相談し、代替案として生まれた苦肉の策がこちら。

ピンクになっている……。
しかし、これはこれで美味しかった。栄養価たっぷり、という味がする。口当たりはヨーグルトテイストだが、後味はさっぱりとしている。よろしければ是非。別に企業案件でもなんでもないけど。

その後も様々な清涼飲料水を飲み漁ったが、緑色の液体(メロンソーダ!)には結局ありつけることはないまま一日が終わった。そして私の中の緑色の液体を渇望する気持ちにも、一旦蹴りをつけることができた。良かった。あのまま取り憑かれ続けていたら、本当にメロンソーダというメロンソーダを店中の店から強奪しまくる変質的且つ大破綻待ったなしの人生に転がったかもしれない。それはあまりにも無謀で、そして危なすぎた。連日の気温差のせいで頭がおかしくなりかけたが、頭を冷やすことが出来たのもまた、すっと吹いた秋の冷たい風のおかげだった。
ほっ、と独りごちて空を眺めると、東から夜の気配が、着々と夕焼けを貪っていた。

新しいキーボードを買います。 そしてまた、言葉を紡ぎたいと思います。