やまびこ

小学校教師になってはや12年 ここはとても面白い場所だ 私のクラスはもう何年もいじめや仲間外れなどがない 経験と言えばそこまでだが、色々な子がいる中で優しい子達になってくれることは本当に嬉しい

なぜそうなるのか その一因として自分自身の子供時代をよく話すからかもしれない

自分が小学3年生の時だ

当時の私のクラスは、教員になった現在とは違い「ヒエラルキー」いわゆる「学校カースト」なるものがなんとなくあったように思う。もちろん当時にそんな言葉なんてなかったが、なんとなくな感覚だ 明るい子達や運動ができる子達が自然と集まり、暗い子とはあまり話さない 私は中間とでも言うべきか普通の少年であった。

当時クラスには絶対的権力を持つジャイアンがいた ジャイアンは運動もでき、頭も切れる 顔も整っており 何にでも力を持っていた 流行っていたカードゲームを無理やり交換させられたり 馬鹿にされたり ジャイアンの言う事は絶対そんな雰囲気が当時にはあった 教師となった今では絶対に許せないがそんなもんだ

 私もジャイアンとはよく遊んだ 自分がいじめられるのは怖く ジャイアンの言うことに倣っていた そんな私がジャイアンに嫌悪感を抱いた出来事がある

ジャイアンが私の友達をいじめのターゲットにしたのだ ある日みんなでキックベースをして遊んでいた時にその時のいじめのターゲットである「のび太」(仮)が入れてと言ってきた なぜかみんなジャイアンの判断に委ねる するとヒャイアンがすんなりと受け入れたのだ 私はすごく違和感を感じたのをよく覚えている のび太の打席 

ジャイアンがのび太に近づく 「のび太 メガネ危ないから置いておきなよ」「ありがとうジャイアン」 現在いじめのターゲットにしているのび太へジャイアンがそんなことをするなんて・・・妙な胸騒ぎが・・・

のび太が蹴ったその時 ジャイアンはなんとホームベースにメガネを置き替え砂で隠したのだ ランナーがのび太のヒットによって仲間が帰還するとメガネを踏むと言う最悪のいじめだ 

それを見ていた自分はどうしたのか・・・失礼ながら24年前のその続きを今は全く覚えていないのだ。。。ただ、きっとボクは何もできなかったのであろう 何もできなった後悔が、友達への懺悔の思いが私の記憶から消しているのだと思う

ただその時の胸クソ悪い思い出が今でも強く心に残り その日から私はジャイアンを避けるようになり、のび太にもすごく謝り一緒に遊んだことをよく覚えている

そんなことがあったある日、学校が終わりぶらぶらとしている。その日は珍しく誰とも遊ぶ約束をしていなかったのだ それでは小さな田舎町 ぶらぶらしていれば誰かしらに会う その日会ったのは 「山中君(仮)」だ

山中君は先程の学校カースとで言うと、当時の感覚では一番下(当時の小学生の感覚なのでお許し願いたい)普段は教室では大人しく、ほとんど話したことがない 明らかに運動が得意で明るい同級生と話したりする子が苦手そうなこ子であった 私もほとんど喋ったこともない

ジャイアンの件で、どこかカーストのようなものに嫌気がさしていた私は、

「山中、一緒に遊ぼうぜ!」と声をかけた 山中は断ることもなかなかしづらそうであったが、驚きと喜びのような面もあったように感じた 僕たちは山を登り冒険ごっこをしながらクワガタを捕まえたりしていた しかし山中との距離はそんなに埋まっていない まだ僕のことを警戒しているようだ ジャイアンと仲の良かった僕を怖がっているのかもしれない 山もだいぶ上ったところに良い景色の場所があり そこで僕は大きな声で叫んだ 何かで覚えた「やまびこ」をしたのだ 大声で叫びと山に反射して何回かに聞こえると言うなんとなく山でやりたくなるアレだ

その時、遊んでいたといってもほとんど会話をしてくれなかった山中が急に

「ジャイアンの馬鹿やろー」と大声で叫んだのだ 僕は言葉を失った

山中が急に大声を出したこともそうだが、その内容にもビックリしたのだ カーストの最下層である山中が頂点のジャイアンに反旗を翻したのだ

そして山中は初めて僕に笑顔を見せてくれたのだ

なんだか僕はすごいスッキリした ジャイアンにもそんなジャイアンに「やめろ」と言えなかった自分にも嫌悪感を感じていた自分の殻を山中が壊してくれたような気がしたのだ その後 急に心が近づいたのか 僕と山中は 爆笑しながら何度も何度もやまびこをした 好きな女の子を叫んだり 担任の先生のことを馬鹿にしたり 何をいってもお互いに大爆笑

山中は大人しか大人しかったが心の中に思う事は色々あったのだ

カーストなんて関係ない 一人ひとりに良さがあり 個性があり 思いは違う

今、教師として子供達に伝えていることの基礎がなんとなく山中と遊んだ日に出来上がったのだ

そこから僕はクラスの誰とでも仲良くなれた もうカースト意識なんてない 色々な人と遊んだり喋ったりする方が楽しくなった そんな僕を不思議がる目線もあったが関係ない

山中ものび太もジャイアンも僕の大切な友達だ


余談

 ジャイアンは残念ながら中学校になって逆にいじめのターゲットになってしまた。これが大切であり、子供達にもよく話すことであり、子供達はそれを聞いて本当にビックリしている

そしてそんなジャイアンを助けたのも私だ

いじめは自分自身に何も生まない

そんな話をしながら毎年サイコーのクラスを子供たちと作っていくのだ

みんな優しさを理解した日本一の教え子だ

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