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『団地と移民 課題最先端「空間」の闘い』エスニック・セグリゲーションに寄り添う「ヤキトリの串」人材が重要(環境研究)

 エスニック・セグリゲーションには横浜中華街、池袋北口のような地域もあるが、団地が「移民のゲートウェイ」として機能しているところもある。日本で最初に作られた団地である常盤平団地に起きていることは、「トイレの中で頭を突っ込んだだけで死んだ者」「部屋の中で白骨化した者」「ごみが散乱した部屋で。ごみと一緒にミイラになってしまった死体」「浴槽に浸かったまま死んでいる人」などの高齢化と孤独死の問題だ。

 しかし、外国人が住み着くことで団地の様相は変わってきた。埼玉県蕨市の芝園団地は、「チャイナ団地」と呼ばれるほど中国人が多く住みついているが、日本人の高齢者との間にコミュニケーションはない。大学卒業後三井物産に就職した岡崎広樹氏は、海外勤務の駐在者時代に文化摩擦による分断に興味を持ち、共存の可能性を深堀したくなった。そこで、彼は芝園団地に移住し、日本人住民と外国人住民の間で「防災講習会」から「国際交流イベント」などを企画するようになった。

 パリのブランメル団地には、多くのマグレブ出身のイスラム移民が暮らすが、2015年のパリ同時多発テロの犯行グループの数名、週刊誌本社襲撃事件の実行犯はパリ郊外の団地で生まれ育った。この傾向はパリだけでなく、他のヨーロッパ諸国でも団地がホームグロウンの実行犯が多く、団地がテロリストの巣窟と言われている。パリ郊外のほとんどの団地ではアソシアシオンと呼ばれる非営利団体が住民活動を行っているが、そこでボランティアで働くソフィーネ氏は、団地内の貧困者対策や炊き出しを行っている。彼女は、団地住民に対する世間の見方を変え、住民の意識を変えたいと言う。

 このような例から、芝園団地の岡崎広樹氏、パリのブランメル団地のソフィーネ氏のように、エスニック・セグリゲーションに寄り添い、内部の分断やホスト社会とのコンフリクトなどの解消に尽力する「ヤキトリの串」のような存在が重要になる。
 本書には、このような「ヤキトリの串」の機能を果たす人の存在が日本の将来の形を作っていくのだと実感できるような事例が取材されていて、非常に参考になった。

 また、愛知県の保見団地の藤田パウロ氏によると、日本中どこの団地でも、エスニック・コンフリクトの最初のきっかけのほとんどは、「ごみの分別問題」だという。池袋北口の池袋チャイナタウンと地元商店街の対立もごみ問題からきているので、まず、多言語化しなければならないのは、ゴミの分別ポスターなのだろう。

Creative Organized Technology をグローバルなものに育てていきたいと思っています。