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『創始者たち イーロン・マスク、ピーター・ティールと世界一のリスクテイカーたちの薄氷の伝説』物語共有の法則(業界の歴史)

 著者が5年かけてPaPalの創業からイーペイに買収までが描かれた大作だ。人物の評伝ではなく、PayPalの評伝と言ってもいいだろう。PayPal出身者のプロダクトやサービスは、Youtube、テスラ、スペースX、Linkedinなどだ。

 PayPalは、競合していたイーロン・マスクが率いたX.com社とピーター・ティールが率いたコンフィニティ社が合併し設立された会社だ。日本ではあまり認知度が高くないが、本書によるとeBayの決裁に利用されることで浸透していったようだ。日本ではeBayが普及していないので、このイメージが実感として湧きにくい。

 この本からもわかるが、どんな会社も創業には「物語」がある。その物語を共有したものは、何かを創業するというプラスの連鎖を生み出す。私はこれを「物語共有の法則」(イノベーションの第3法則)と呼んでいる。
 トーラーの物語を共有しているユダヤ人は、無から有を生み出す物語を共有している。そのため、続々とイノベーションが生まれる。その図式と同じだ。
 こうしてその物語が1冊の本になると、それを読んだ人が物語を共有し、無から有を生み出す。イーロン・マスクのZip2のビジネスはライブドアのビジネスに似ている。現在の堀江貴文氏とイーロン・マスクに共通点が多い。これも物語を共有した成果なのかも知れない。

 もっとも参考になったのは、PayPalという名前を生み出すプロセスだ。カリスマ的創業者が命名したのではなく、候補が複数上げられ、民主的に決定されていくプロセスがベンチャーらしくないのも面白い。X.comもコンフィ二ティもeBayでPayPalが使われていることを知らなかったのも驚きだ。今まで存在しなかったユニークな商品やサービスが浸透していくプロセスでは、そんなものなのかも知れない。PayPalでは、管理するイメージの強いプロダクトマネージャーと呼ばず、生み出すイメージの強いプロデューサーと呼んでいるのも面白い。

 650ページの本だが、インターネット普及期の混沌としたなかから生まれる物語を共有したい人には、ページが足らないぐらいだろう。

Creative Organized Technology をグローバルなものに育てていきたいと思っています。