見出し画像

『人間であること』大脳辺緑系と新皮質系が、それぞれ「A」と「BX」に連動する(人間学)

 日本のロボット研究者である石黒浩氏(大阪大学)は、自らに模したヒューマノイドを開発し、自らの代わりに講演旅行を行わせるという。ところが、開発したアンドロイドロボットをアメリカやフランス、イタリアなどで紹介すると非常に興味を持たれるが、ドイツではまったく興味を持たれない、ということを常々疑問に思っていた。その理由はドイツの哲学者で新実在主義を提唱するマルクス・ガブリエルはによると、人間の尊厳を尊重するドイツ憲法がそうさせるという。しかし、日本人である私たちは、「不気味の谷」はあれども、石黒浩氏そっくりのアンドロイドを前にすると、自分との差異を考えはじめる。それにより、人間とは何か、という思考に行き着き、ガマダーの「地平の融合」の通りにアンドロイドを認めようとするのか、ドイツ人のように憲法に従い無視するのか、どちらかに分かれるのだろう。

 AIやアンドロイドの出現で、人類は「人間とは何か」を考え直す必要性が高まった。本書の著者の時実利彦氏は、脳生理学の専門家で、動物やホモ・サピエンス以外の化石人類との脳の差異から「人間であること」を考察している。赤ん坊の脳は生まれたときは400gだが、6ヶ月で倍になり、7、8歳で大人の脳の90%に達し、20歳で完成するという。そしてその脳は、前頭葉が発達することが特徴で、3歳ころまでは脳そのもののハードウェアが組み立てられ、4歳から10歳まではこれを使うソフトウェアが作られる。本書の冒頭には、インドで発見された二人のオオカミ少女の例が紹介されている。彼女らは狼のように過ごしていたが、4、5歳で喜びや悲しみの表現をするようになったとある。また、4歳から5歳の間に、それまでは椅子に座らされていた子供が自分で座るようになり、更にその椅子を道具として使うようになるという例から、前頭連合野の発達からやる気が芽生え、創造の精神が身につくようになるのだとしている。

 本書を読んだ私の問題意識は、人間=A+BXとし、「A」を遺伝的なもの、本来人間がもっているもの、「BX」を後天的に身につけたものとに分けたとすると、はたして人間が人間になるのは何歳ごろ(本書によると4、5歳ころ)で、脳のどの部分が「A」で、どの部分が「BX」なのかを、ある程度認識したいというところにある。

 人間の本能にある集団欲の最小単位は家族だが、それは次の脳の部位に連動し、成立している。

1)脳幹・脊椎系が「生きている」といういのちを保障し、睡眠、排泄、休息などの生理的欲求を司る。
2)大脳辺緑系が「たくましさ」という生きていく本能の欲求から、食事や性の営み、集団欲を満たす場所、すなわち家族を司る。
3)新皮質系が「うまく」「よく」生きていくための適応行動と創造行動を司る。
4)2)にわだかまる欲求不満と3)につのる欲求不満をはらす場所が家庭の役割として宿命づけられている。

 つまり、大脳辺緑系と新皮質系が、それぞれ「A」と「BX」に連動することになるのだろう。そして、家族などの群がる本能は集団欲だが、新皮質系での創造行為は、個を自覚し、個を主張するので、群がる相手は誰でも良いわけでなく、特定の相手を求めることにつながる。要するに、これが「一元論」に至る原因なのだろう。そして、4)ある家族や家庭という小さな組織単位がそのバランスを保つ役割を担っているということになる。

Creative Organized Technology をグローバルなものに育てていきたいと思っています。