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『多元的無知:不人気な規範の維持メカニズム』働き方改革に役立つ研究であって欲しい(人間学)

 現在のところ多元的無知を正面からまとめた本はない。Amazonで検索しても確かにない。そういう意味では本書は貴重な1冊だが、学術論文をまとめたものなので、専門家向けの内容だ。

 多元的無知とは次のことを表す。

 集団の多くの成員が、自らは集団規範を受け入れていないにもかかわらず、他の成員のほとんどがその規範を受け入れていると信じている状況。 

Allport,1924

 働き方改革が思うように進まない原因の一つが多元的無知だと言われている。本書が指摘しているように、人々が他者との行動をどのように認知したときに自分の選好と反する行動がとられるのかというメカニズムについては、実験的な手法で実証的に示した研究はない。

 多元的無知の個人の認知を4つのフェーズで捉えている。

  1. 個々人はまず、自分の個人的な選好とは異なる集団規範を多くの他者が受け入れていると信じる。

  2. 次に、集団規範から逸脱した場合の他者からのネガティブな反応を予測し、集団規範から逸脱することに伴う決まり悪さを危惧する。

  3. 結果、誤って推測された他者の態度に合致するよう、たとえ自身の態度と集団規範が乖離していても、規範に合わせて行動する。

  4. この個人の行動が、今度は別の他者に対して影響を与える。

 さらに本書では、人々が他者との関連性を考慮して行動を選択しているのであれば、他者からの評判低下を回避するために、また、他者からの評判を高めるために、人々は意思決定を行うとしている。

 さらに実験は、集団を対象にしたものが紹介されているが、職場のダイバーシティーをめぐる多元的無知については違和感を感じた。なぜなら、ダイバーシティーの職場環境であれば、集団規範が働きにくくなると考えられるからだ。イスラームの職場であれば、彼らは間違いなくお祈りをする。それは彼ら一人ひとりと神との関係において行われるものなので、多元的無知が要因で行われるものではない。日本人とイスラームのダイバーシティーの職場では、イスラームは日本人が残業していたとしても定時には帰社するだろう。
 しかし本書では、ダイバーシティーを「ダイバーシティー信念」としてとらえ、成員がダイバーシティーを肯定的に受け止め、多様な人々と協働に好意的な行動をとるか否かを多元的無知の対象としている。おそらく、ダイバーシティーを女性活用などでとらえ、外国人を考察対象としていないのだろう。

 今後の日本を考えると、100%の確率で人口は減少する。すると外国人労働者は増加することになる。職場はダイバーシティー環境になることは避けられない。そこでは働き方改革における多元的無知が起きるのか、そうでないのかを考察すべきではないだろうか。
 ダイバーシティーの方が多元的無知が消え去り、働き方改革を推進しやすいということがわかれば、日本の風土(社会)に役立つ研究ということになる。

Creative Organized Technology をグローバルなものに育てていきたいと思っています。