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『価値の創造主 初代レクサス開発物語』自動車はエンジニアリング領域の話が多い(技術の歴史)

 前職でLEXUSのグローバルWebサイトを構築運用していたため、興味があって読んでみた。当時の欧州の乗用車市場規模は、65万台/月、そのうち高級車市場は約10%の7.1万台/月。シェアの内訳は、ベンツ35%、ボルボ、アウディー、BMW、ルノーがそれぞれ11〜14%でシェアを分け合い、これら5社で高級車市場の83%を占め、トヨタの車は月間50台を売るのが精一杯だったという。
 そこへ投入したのがLS400だ。月間販売目標は、欧州は立ち上がり時50〜100台、将来500台と10倍。アメリカでは4000台、中近東1300台、オーストラリア200台とある。日本や中国などアジアは目標すらない。LEXUS以前のトヨタはグローバル市場はお話にならないぐらい弱かったのである。

 主査補である著者が主査制度を創始した長谷川技監を訪ねるシーンがあるが、自動車エンジニアにとって、航空機のエンジニアは別物なのだろう。しかも、長谷川技監が主査として開発したカローラは、現在でも累積販売台数が世界トップだ。この部分までを読んで気づいたのだが、自動車はエンジニアリングの話ばかりだということだ。一方、飛行機はサイエンスの話がほとんどになる。たとえば長谷川技監の設計したキ94はインターセプターなので高高度が要求される。また、レシプロエンジンで水平最大速度750キロとなると、明らかにプロペラの先端が音速を超え、スーパーソニックの世界になる。そうなると苦労する点は実験結果と数式を一致させるというサイエンスの話になるはずだ。時速230キロの自動車にはそれがないため、エンジニアリングの領域で話が終わる。

 LS400で行ったヤッピーを対象にしたフォーカスグループインタビューは、B2C企業にとってインサイドを明確に手段の一つだがデプスインタビュー、TAT法など他にも手段がある。日本のグローバル企業はほとんどB2B企業化した今、これらを必要と考えるかどうかが、グローバル企業の命運を分けることは確かだ。ちなみに、絞り込んだヤッピーの言葉は次の3つだ。

「高級車は投資だ。財産だ」
「リセールバリュー(再販価格)が高いことだ」
「メルセデス・ベンツは古くなっても価格が下がらない」

 LS400が目指したアートとデザインの融合を行った歴史をたどると、レオナルド・ダ・ヴィンチが思い浮かぶ。前述したようにB2B企業化してしまった企業には、これは不要だ。
 したがって、現在の日本企業を読者ターゲットとするならば、B2B企業におけるインサイトの重要性に特化した方が、伝わりやすい。

 製品開発に、原価企画だけでなく、重量企画があることは知らなかった。また、米国で発売時にLexisNexisが商標侵害を訴えたことも米国らしい。これにより、名前が広がったという。皮肉だが、これも運なのだろう。

Creative Organized Technology をグローバルなものに育てていきたいと思っています。