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『パッカードベルとイスラエル』(失敗研究)

 ゴールドラット博士の名言「愚か者は失敗に学ばず、才人は己の失敗に学ぶ。そして賢人は、他人の失敗からも学ぶのだ。」における「他人の失敗」から、イスラエルのオープンイノベーションを成功させるコツについて考えてみたい。

 事業は複雑な要素が絡まり成立しているため失敗研究を行う場合には、ひとつの側面だけでは捉えることは難しい。
 特にイスラエルとのビジネスという意味でパッカードベルとNECの関係を考察してみる。ご存知のようにNECはPC-98シリーズで日本のドメスティック市場ではナンバーワンのシェアがあった。しかし、日本IBMから発売されたDOS/Vの出現でグローバル競争の波に押され、パッカードベルを買収することになった。

 そして、その顛末は...

 パッカードベルを買収したNECは、一気に世界のPC市場でも上位シェアを獲得できるものと期待したはずだ。ところが、その目論見は大きく外れることに。パッカードベルは、デルやゲートウェイなどの直販PCメーカーが急伸した煽りを受け、業績が悪化。2000年には、米国のPC市場からも撤退してしまった......。さらに2006年、NECはパッカードベルをゲートウェイに売却した。  DECやパッカードベルはどこへ?

 日本ではパッカードベルNECのPCは主にダイエーや家電量販店、ネット通販で販売されたが振るわず、NEC本体も1997年発売のPC98-NXシリーズ以降はPC/AT互換機への切り替えが進んでパッカードベルNECの存在意義が薄れた。一方、上記の通り米国内のシェアは年々低下し、NEC本社からの度重なる金融支援にもかかわらず業績は好転せず、繰り返される支援を『年中行事』と揶揄されるほどだった。 Wikiより

 イスラエル人(ユダヤ教徒)はエンジェル投資のことを「プライベートインベストメント(個人投資)」という。決してエンジェル投資とは言わない。

 私たちは日常的に使っているカタカナ言葉の由来を日常的に意識することはないが、ユダヤ教徒は人(プライベート)と天使(エンジェル)は明確に違う、という感覚を持っている。

 同じようにGive&Takeという言葉は欧米的(キリスト教)なものだが、輸入されたカタカナ英語のまま日本人はビジネスで多用する。

 欧米 ⇒ Give&Take

 しかし、イスラエル人の金銭感覚はGive&Takeというより、Take&Take More Moreとイメージしておいた方が間違いない。

 イスラエル ⇒ Take&Take More More

 ベングリオン空港からヨーロッパの空港へ移動するとき、イスラエルでビジネスを行った欧米人と隣になることが多くあるが、彼らは口を揃えてイスラエル人はタフ・ネゴシエータだとため息をつく。

 パッカードベルの投資家であるBeny Alagem氏はイスラエル生まれだ。そのためかイスラエルにR&Dセンターがあり、パッカードベルのそれなりの立場の人と私の友人と、3人でコーヒーを飲みながら日本のことを含めた雑談をしたことがある。
 また、世界ではじめてIP電話を開発した会社のそれなりの立場の人から、日本へのMarket Entryの相談を受けたことがある。不思議な事にそれらの会話の中でたびたび出てくる共通の日本人の名前があった。

 「関本さんに会ってデモをするんだ・・・」
 「関本さんに相談する・・・」
 「関本さんは気に入ってくれるはず・・・」

 「関本さん」というのは、当時NEC会長の関本忠弘氏だ。  
 イスラエルで会社訪問をすると、「いつまで滞在するのか?」と必ず尋ねられるが、これは彼らがface to faceの契約合意のタイムリミットをイスラエル人が知りたいためだ。それだけせっかちな人たちなので、即座に判断ができる人に群がる。
 関本氏にはたくさんのイスラエル人が口コミで群がり、三田のロケットビルを訪問したのだろう。

 日本のベンチャーキャピタリストのルーツである今原氏が、投資をしてはいけない経営者として以下の2つを挙げている。

髭を生やした経営者
名刺に○○博士とタイトルにしている経営者

 日本人経営者という前提だろうから、今の時代に通用しないルールかも知れないが、この2つに共通するのは「虚栄心」や「見栄」が強い経営者ということだ。

 ユダヤ人が頭の上にキッパーという丸い布を付けている姿をご覧になったことがあると思うが、頭上に神がいることを意識することで、「虚栄心」(vanity)などを抑えるためのユダヤ人の知恵のひとつだ

 キッパーの習慣にあるようにイスラエル人は「虚栄心」「傲慢」を防止するシステムを持っている。そして、○○博士である経営者は普通にゴロゴロいますし、テクニオン工科大学、ワイツマン研究所、ヘブライ大学、テルアビブ大学、ベングリオン大学などに属した世界的な科学者やエンジニアであることは特に珍しいことではない。

 逆に日本では、前述のように「名刺に○○博士をタイトルにしている経営者」は投資対象から外す。それだけ日本人は、権威や経歴に弱い人が多いのだろう。

 だとすると、権威や経歴を重要視するそれなりの立場の人が直接交渉し判断を行うのは好ましくない。そこでは彼らがごく自然に考えるTake&Take More Moreが成立しやすくなり、繰り返される支援が「年中行事」になりかねない。

 通常、失敗研究では最低でも20個から100個の失敗する可能性を列挙するのだが、残念ながら外部で手に入る資料もないので、ひとりの日本人として周辺のイスラエル人との会話と動きから感じたことをまとめてみた。

 では、どうすればいいのでしょうか。

 それぞれの企業により対応は違うのだろうが、過去の失敗を謙虚に研究することが大切なことだけは確かだ。

──ミシシッピ河のある渡し船の業者が有能な水先案内人を募集した際、幾人かの応募があったが、第一の応募者は、質問に答えて、自分は長年ミシシッピ河で船を操ってきたが、まだ一度も失敗したことがないから、ぜひ私を雇ってくれと胸を張った。これに対して第二の応募者は、儂も長年ミシシッピ河の船頭をやってきた、と前置きした上で、次のように話をつづけた。「いやもう数え切れねえほど失敗をやらかして、何度も命拾いをしてきましただ。そんでミシシッピ河についちゃあ、どこに浅瀬があり、どの辺が難所だちゅうことは、たいてい知っとるつもりじゃ」と。主人はハタと膝を打って、お前は一番信頼のできる水先案内だ、私の求めていたのはお前だ、と言って採用したという。── ミシシッピ河の水先案内より

Creative Organized Technology をグローバルなものに育てていきたいと思っています。