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『トヨタのイノベーションと糸川英夫のイノベーション』(5−3)原価企画と設計VE

 1970年代のスタグフレーションの例にあるように、調達VEはプラスマイナスゼロの効果しかないとすると、さらに上流の企画設計段階でコストダウンを行なう必要が出てくる。これをやっているのがトヨタだ。彼らのコスト意識は徹底していて、コストがいくらかが決定してからでないと設計図面に線を引きはじめない。つまり、目標原価が達成できない設計図は書いても意味がないということだ。企画段階から原価を決めていく原価企画のプロセスが、利益の90%を生み出すトヨタのコア・コンピタンスと言っても過言ではないだろう。先に有名になったTPSによる改善活動がトヨタの利益を生み出していると言う人もいるが、その比率は10%以下だ。トヨタは生産する前段階で必要な利益は創造されているのである。

 トヨタが行っている原価企画とは、設備投資額、部品製造原価を試算し、販売台数と販売価格を予測し、新製品の売上利益率を算定し、会社がそのプロジェクトに期待する利益率が得られるようにする企画である。原価企画書は原価企画会議に提案され、承認されれば、目標設備投資額、原価目標、目標販売台数、目標利益率が製品企画室から指示される流れになる。

 トヨタでは、販売サイドからのこんな車を出してほしいという提案としてまず最初に商品企画がある。次にその商品の性能、品質を技術面、設計面から検討する製品企画がある。そして、その製品企画で、どのようにして利益を出すのかを原価面から検討するのが原価企画になる。つまり、販売側からのニード(商品企画)に合わせてチーフエンジニア(主査)が選ばれ、そのCE(主査)の責任において製品企画と原価企画が表裏一体の関係で進められていくのである。(5−2)トヨタのイノベーションの肝は設計VEを使った原価企画(利益創造)では、商品企画と製品企画の役割の違いを明らかにしたが、製品企画と原価企画の役割は次のように違う。


製品企画と原価企画の違い

  • 製品企画 : 新しいモデルの性能、品質を技術面、設計面から検討

  • 原価企画:その新モデルでどのようにして利益を出すのか、それを原価面から検討

 トヨタでは、原価企画会議という副社長も出席する会議が毎月1回、量産段階の直前まで定期的に開催され、予定した原価に落とし込むための対策が打ち続けられる。つまり、製品企画と原価企画はそこにセットになって提出され、製品企画を常に原価面からチェックし続けているのが原価企画(会議)であり、ここがトヨタのクルマづくりの最大の特徴だ。

「働き」でオルタナティブを生み出す設計VE

 トヨタでの設計VEは、この原価企画に利用されている。つまり、製品企画で決めた製品の構造の機能(働き)は何か、その働きを実現する部品はどう設計したらいいのか、A案、B案、C案が出され、それぞれの働きと原価からどの案を選択するかを決めていく。どんなに素晴らしいものでも、目標原価に満たない場合は採用にはならない。製品企画と原価企画が表裏一体なのだ。

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