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『香川にモスクができるまで 』イスラームは過去←現在←未来と考える(イスラーム)

 インドネシア人のムスリムが2年をかけて香川にモスクを購入するまでのプロセスを描いたもの。購入したモスクは2800万円だが、紆余曲折を経て、ワクフという寄付のシステムでできたものだ。ワクフとは寄付を意味するが、モスクなどのイスラム社会に必須の社会公共財の設立や運営(国家に依存しない)に対してイスラム教徒が寄付をする仕組みを指す。本書を読むことで、このワクフを含めて、イスラム教徒の寄付の概念は、キリスト教徒とも日本人の概念ともまったく違うものだということがよくわかる。

 物事には原因があって結果がある。酒ばかり飲んで肝臓を壊すことや、心のなかで「思い」を持つことで成功することなど、これらは原因と結果の因果律によるものだ。イスラム教徒にとっての因果律は、死後に結果があり、その原因が現世にあると考えるのである。これが日本人にはわかりにくい。

 結果として、死後天国に行くことが目的なり、それには善行を積む必要がある。その善行は右肩に乗っている天使が帳簿に記入し、悪行は左肩の天使が記入する。その決算書によって天国に行けるかどうかが決められるというのがイスラームのシステムだ。したがって、彼らにとって、スンニ派の日に5回のお祈りも、豚肉を食べないことも、ワクフでの寄付もすべてが善行ポイント獲得の重要な行為なのだ。誰に強要されるわけでもなく、自らの意志で善行ポイントを獲得しようとするため、16億人が同じ行動ができるのである。

 医療などの研究方法には2つの方法がある。一つは前方視研究、もう一つは後方視研究で、イスラム教徒の発想は、天国という未来から現在を考え行動する後方視思考だ。だからこそ、宗教行為が習慣となるのだ。本書はこのことをいろいろな具体例で伝えてくれる絶好のテキストになる。
 例えば、イスラームには自己責任という概念が必要ない。インシャーラーという言葉がそれを的確に表わしている。たまたまお金持ちになった人と、たまたま困窮する人がいると考える。お金を寄進すれば善行ポイントが積み重なるので、お互いが助け合うシステムにつながる。モスクを建てるために努力すれば、みんなのためになるが、それより何より、大きな善行ポイントが記録されるので、天国に行けると思え、心の安定が得られる。

 原因と結果が、来世と現世にまたがっているのがイスラームだということを理解しないと、ムスリムは理解することができない。同時に現在から未来を考える私たちとは違い、未来から現在と過去を考える習慣がある人たちがイスラームなのだ。整理すると次のようになる。

過去→現在→未来 (日本人、AI)
過去←現在←未来 (イスラーム)

 日本人やキリスト教徒、AIの時間の流れは、過去から現在、未来ととらえるが、イスラームは、未来から現在、過去へと逆転してとらえているのである。本書を読むとそのことがよくわかる。

Creative Organized Technology をグローバルなものに育てていきたいと思っています。