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『事実はなぜ人の意見を変えられないのか-説得力と影響力の科学』データ至上主義に対しての問題提起(マスクドニード)

 本書には、データ分析、ビックデータ、統計は最強の学問だ、と考える人にはショッキングな内容が羅列されている。手間ひまかけて集めたデータや慎重に考え抜いた結論を、影響を与えたいと思っている人に語ったとき、データで人の意見が変わらないことに気づくことがある。逆に、自分の考えを強化する場合に限って、データは役に立つ。自分の意見を否定するようなデータ分析結果が提供されると、私たちはまったく新しい反論を思いつき、さらに頑固になる。これを「ブーメラン効果」という。

 自分の意見を裏付けるデータばかり求めてしまう傾向は、「確証バイアス」と呼ばれている。面白いのは、推論能力に長けている数量に関するデータの扱いを得意とする分析的な思考の持ち主は、そうでない人よりもデータを積極的に歪めやすいということだ。

 イスラエルのワイツマン研究所で、脳がいつ、どのように、なぜ同調するのかを調べられた。MRIスキャナ内に横たわる実験参加者に、映画の鑑賞から脳の活動を記録すると、全参加者の神経活動がオーケストラのようにピッタリ揃う瞬間があった。それは、ひとりひとりの脳反応を見分けることが難しいほどだった。感情が脳の大部分をハイジャックしたため、その乗っ取られ方は見分けがつかないほどそっくりだった。
 また、facebookの50万人に対する実験によると、あるユーザー群には、ポジティブな投稿を、別の群にはネガティブな投稿を多く表示するようにすると、人が抱き合うようなポジティブな投稿を多く見た人は、ポジティブな投稿をする。逆に飲食店などの不満などのネガティブな投稿を多くすると、否定的な投稿をする傾向が強まった。つまり、感情は自分の中で起こる私的なプロセスではなく、感情は外部に漏れ出し、あらゆる場所に伝わるのだ。

 これらは脳の扁桃体の活性化の影響によるもので、さらに扁桃体の隣の領域にある海馬を刺激することで、記憶すら変化する。このように、他人を変えようとする試みは、脳の働きを決定づける中心的要素と一致しなければ成功しない。その中心的要素である、事前の信念、感情、インセンティブ、主体性、好奇心、心の状態、他人を明確にし、各要素が人にどのような影響を与えるかを知ることが重要だとする。それには、生物学の原理、行動学のルール、心理学の理論が必要になる。本書はその一端を紹介することで、データ至上主義に対しての問題提起とも受け取ることができる。

Creative Organized Technology をグローバルなものに育てていきたいと思っています。