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『循環式陸上養殖 -飼育ステージ別〈国内外〉の事例にみる最新技術と産業化』 人口減少、食料不足、地方創生、循環式陸上養殖のテクノロジーはそれらを解決してくれる有効な手段だ(技術情報バンク)

 この本は8,000円と高価だが、実に参考になる本で、読むページが少なくなるのが惜しくなる驚きの連続に満ちた内容だ。2011年には世界の養殖魚は6,600万トンに達し、牛肉の6,300万トンを抜き、2013年には世界の漁獲消費量において、天然魚より養殖魚が上回った。世界での魚の年間消費量は1970年代の11kg/年/人から2014年の時点で約19kg/年/人に増加し、今後も増加中だ。魚類の平均単価は漁船操業は380円/kgだが、養殖魚は2,223円/kgと3倍の単価にまでなっている。

 栃木県の山間部で温泉水によろとらふぐが陸上養殖されていることは有名だが、本書はこれらの循環式陸上養殖の各種事例論文などを1冊に集めた貴重なものだ。しかも、淡水魚類の閉鎖循環陸上養殖と水耕栽培を連結した物質循環型の欧米事例も豊富に紹介されている。(アメリカのティラピアとレタス、トマト、バジルなど)江戸時代の江戸は、中心部での排出された糞尿は、周辺部の農家に売られ、周辺部の農家で作られた野菜は中心部の江戸の街で消費されていた循環経済が成り立っていたが、それと同じように魚の養殖で生まれた排泄物を農業に活用し、驚異的な収穫率を獲得できる循環システムをアクアポニックス(Acuaponics:Acuaculture+Hydroponics)と呼ぶ。
 
 人口減少、食料不足、地方創生などが叫ばれる中、循環式陸上養殖のテクノロジーはそれらを解決してくれる有効な手段のひとつだと以前から考えていたが、本書はその解決策が具体的に解説されていて、久しぶりに感動的な読書となった。以前、久米島の沖縄県海洋深層水研究所を訪れたときの感動と同じ感動を得ることができた。また、温泉とらふぐ養殖場のフランチャイジービジネス(現在、全国10箇所)まで行っている海のない栃木県珂川町の温泉とらふぐも食べてみたい。温泉とらふぎの味は東大の金子豊二教授が「味上げ」(魚類における浸透圧調整と魚肉の味に関する研究)を行い、筋肉の旨味成分を増加させたという。実に面白い産学共同研究だ。

Creative Organized Technology をグローバルなものに育てていきたいと思っています。