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『はずれ者が進化をつくる 生き物をめぐる個性の秘密』ニッチと個性の関係(人間学)

 同じ著者の『弱者の戦略』(新潮選書)があまりにも面白かったので、類書として読んでみた。重複する部分もあるが、トレビア満載だ。例えば、アメリカはジャガイモで建国されたという話も面白い。19世紀のアイルランドではジャガイモが重要な食料だった。しかし、ジャガイモの疫病が蔓延し、アイルランド中のジャガイモが壊滅状態になってしまった。食べ物を失った多くの人たちは開拓地であったアメリカに移住したのだ。
 一方、南米アンデスではアイルランドのようなことは起きない。なぜなら、さまざまな品種を一緒に栽培しているので、一つの種が壊滅状態になっても別の種があるからだ。アイルランドは収穫量の多い優秀な種だけを選んで国中で栽培していたが、この種は胴枯病に弱かったのである。

 生物はかって経験したことのない大きな環境変化に直面したとき、その環境に適応するのは平均値から大きくはずれたものだ。やがて、はずれたものが平均値になっていく。これが生物の進化なのである。
 勝者は戦い方を変えない。その戦い方で勝ったのだから、戦い方を変えない方がいい。しかし、負けた方は戦い方を考える。負けることは「考えること」で、それが「変わること」につながる。

 本書は基本的に生物に関するものなので、人間もそこに含まれる。人間は種としてニッチだが、一人ひとりに個性がある。人間の個性を示した例として、「おわりに」に紹介されている東京シューレ葛飾中学校は印象的だ。この学校はさまざまな理由で学校に行けなくなった子供が集まる学校だ。しかし、著者がそこで行った授業において、参加した生徒は、誰よりも物事を深く考えることができ、誰よりも柔らかな発想をもち、誰よりも積極的に教師とコミュニケーションができ、誰よりも前向きな好奇心をもつ子供だったいうのだ。こういう子どもたちがはみだしてしまう社会とは一体何なのだろうか、という結論で本書は終わる。同じ生物でも人間社会での個性は、社会システムからはずれてしまうものであってはいけない。

Creative Organized Technology をグローバルなものに育てていきたいと思っています。