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2019年6月18日全日本プロレス後楽園ホール


全日本プロレス後楽園。

メインイベント、特別試合、佐藤光留vs岡田佑介。

 
本当はこの日青木篤志とタイトルマッチで戦うはずだった、青木の盟友佐藤光留。

青木に教わってデビューし、昨年から青木や佐藤の属するユニット「Evolution」に加入した2年目の岡田佑介。


リングに上がった岡田は試合前から泣いていた。
その涙の中には青木のこと以外にも、「初めてのシングル後楽園メイン」へのプレッシャーもあったんではないかと想像する。

佐藤が若い岡田を圧縮するように責め立てる。岡田は耐える。時折反撃しようと試みるが、続かない。また圧縮の時間が繰り返される。
「後楽園のメイン」としては異質な試合。

やがて岡田が息絶え絶えになり、身体が動かなくなる。
それでも岡田は立とうとする。立ってエルボーを打ち込む。力がない。それでも打っていく。

ふと、青木が初めてシングルでメインに出たのはデビュー何年目くらいだったんだろう、と思った。
いつの試合だったのか、それはわからない。
でも当然どこかであった。

緊張しただろう。思ったような試合はできなかったかもしれない。でもそれは自信になったことだろう。そういう試合を繰り返して成長していく。
それは佐藤光留だって、みんなそうだ。
岡田もきっとここからキャリアが始まる。いつかメインのタイトルマッチで勝利する日が来るまで。
最後はもう水も出ないくらいフラフラになった岡田に佐藤が足決め腕十字を決めて試合は終わった。

佐藤がマイクを持つ。

「僕の身体の半分だった青木さんがどっか遠くにいっちゃいました」ブログの書きだしと同じだ。

「青木さん、あなたがいなくなったリングで、僕らはこうしてプロレスをやっていきます…って言おうと思ったけど…やっぱり寂しいよー!」

この瞬間、後楽園ホールの四方から嗚咽が上がった。
これだけ多くの人が同時に声を出して泣く場に、私は初めて立ち会った。

「あなたがいなくなった全日本ジュニア、守っていくから」そう言って佐藤は締めた。

正解のないメインイベントを、二人はよくまとめあげた。
当たり前のようにそこにいた人を突然喪った痛みはそうそう消えない。
でも残された人間はその場で生きていくしかない。


パンクラスに入ったころの佐藤光留の未来は、きっとキング・オブ・パンクラシストだったろう。
DDTに出てたころの佐藤光留の未来は、KO-D無差別級王者として両国国技館のメインに立つことだったろう。

その二つはどちらもかなわなかった。
今、彼は全日本プロレスの屋台骨を支えるポジションにいる。
パンクラスでデビューした頃は、そんな未来になるつもりはなかったろう。
ただ、いくつかの選択の末、「自分がなんとかしないといけない」場が、そこになってしまっただけだ。

私の尊敬するある人がこう言っていた。
「人はどの椅子に座るかばかり考えるが、大事なのはその椅子で何を考えて何をするかだよ」
渡辺和子が言ってるのも同じことだろう。

生きていくしかない。
自分が選択したその先で。
青木の遺影を掲げた佐藤光留がそう言ってるような気がした。

彼は大事な試合になると、なぜか入場テーマ曲に篠原涼子「恋しさとせつなさと心強さと」とかPerfume
「エレクトロワールド」を使う。
今日は篠原涼子だった。

聞くたびに「なんでこんな懐かしい歌をw」としか思わなかったあの曲が、今日は馬鹿に胸に沁みた。

「悲しくて 泣きたくて 叫びたくても あなたを信じてる 言葉にできない」

という篠原涼子の歌声を聞くたびに、自分は今日のリングを思い出すんだろう。

生きていくしかない。


https://www.youtube.com/watch?v=pcJNODuM8kg



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