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2022.6.4 大田区総合体育館 大谷晋二郎エイド「何度でも立ち上がれ」雑感

4月10日、両国国技館で行われたZERO1旗揚げ20周年記念大会のメインイベント。
杉浦貴の持つ世界ヘビー級選手権に挑戦した大谷晋二郎は杉浦の投げたジャーマンスープレックスで頭部を強打、そのまま動けなくなりリング上から救急車で病院に運ばれた。
診断は「頚髄損傷」。

大谷は自力で身体を起こせず、会話も補助がいるという。
詳しい病状は「誤解や憶測を生むため」正式な発表がされていない。

大谷の治療は長期化が予想されるため、大谷や家族を支援するための大会が開かれることになった。
それが今回の「大谷エイド」。
必要経費以外の収益はすべて大谷の家族に送られる。

大谷に関しては好きとか嫌い以上に「偉いなあ」という感覚しかない。
ZERO1という団体の創設者は橋本真也だが橋本は最初の数年しかタッチしておらず、あとはスポンサーや運営会社が変わったりしつつ、ずっと大谷が代表として経営してきた。
いい時もあったが悪いときも…というか悪い時の方が圧倒的に多い。
選手の退団・離脱、あるいは支援会社の交代などがあって経営的にピンチである、という話が何度も噂された。
それでも大谷はどんなに細くなってもZERO1を続けてきた。

大谷はプロレスを通じた社会貢献活動に熱心に取り組んでおり、2011年には「一般社団法人 あなたのレスラーズ」を立ち上げた。
これは各地の企業などにスポンサーになってもらい、ショッピングモール、学校体育館、公共広場など人が集まりやすい場所で無料もしくは500円くらいで見られるプロレス大会を開催し、集まった人々に社会的メッセージ(『いじめ撲滅』など)を発する啓発活動だった。
ここ何年かはストップしているが、累計で300大会以上行ったという。

今、ZERO1にはこのときの社会活動(大谷の講演だったりイベント試合)を見て入ってきた若手選手が何人かいる。
大谷が、ZERO1がこうした活動をしてなければプロレスに出会わなかった人数はかなりいるのだろう。

そんな大谷が試合中の事故で動かなくなっている。
支援するしかない。

ということで大田区総合体育館に行ってきた。

会場の中に入ってショックを受けた。
観客が少ない。
大田区総合体育館は4000人くらい入る会場だが、ガラガラなのだ。

もしかしたらプロモーションがうまくいっておらず、こういう大会がある…ということが知られてなかったかもしれない。
いろんな理由はあるんだろう。
それでもこの趣旨でこれか…と愕然とする気持ちは消えなかった。
公式発表は(1150人)だった。

大会前、ターザン後藤追悼の10カウントゴング。
ターザン後藤がZERO1に上がったことはなかったように記憶してるのだが、田中将斗と工藤めぐみがいるからだろうか。
この大会で「汚れた英雄」を聞くとは思わなかった。

続いて大谷支援のチャリティーサイン会のために来場した佐々木健介(!)が開会宣言の挨拶。
健介は2014年に引退して以降、プロレス界と距離を取っていてプロレスの大会に来たことはほとんどない。
大谷がかつて健介の付き人を務めていたという関係性もあったんだろうが、健介が新日本にいた時代に関係がよくなかったと言われる選手も今日は出場する。
正直よく来たな…と思った。
めちゃめちゃ貴重な機会なので私もサインしてもらいました。

【対戦カード】

1.6人タッグマッチ30分1本勝負

アストロマン&宮本裕向&綾部蓮 vs 阿部史典&石川勇希&佐藤孝亮

アストロマン、ご当地ヒーローの選手なのかなと思ったらベースボール・チャレンジ・リーグに所属する茨城県のプロ野球チーム『茨城アストロプラネッツ』のマスコットキャラクターだそうだ。
何かしらの体操クラブ的なところから大量動員されていたちびっ子たちから「がんばれー!」と声援を受けてた。
あれ、今って声出しちゃいけないんじゃ…と思ったが誰も突っ込まなかった。

この子ども以外でも、この日は声を出している人がポツポツいた。
客層がどうというより、開始前に観戦ルールの説明が何もなかったので、周知されていない感じ。
私の席の近くにいたおっさんも何回か声出してたけど、特に誰かに注意されてる感じもなかった。
別にもう声出したからどう、とは思わないけど、そもそもZERO1の運営がゆるゆるな感じがする。

2.10人タッグマッチ30分1本勝負

今成夢人&カーベル伊藤&佐野直&橋本友彦&アンディー・ウー vs TARU&クリス・ヴァイス&横山佳和&将軍岡本&ブードゥーマスク

赤コーナーのごった煮感…。今成さんがリーダーなんですね。

なんだかんだ15年くらいブードゥーマーダーズを続けているTARUはすごいと思います。

3.タッグマッチ30分1本勝負

馬場拓海&松永準也 vs 原田大輔&岡田欣也

ZERO1の若手精鋭vsNOAH。
どう見ても原田と岡田の方が強いんだけど、馬場と松永は向かっていく気持ちを全面に出してて、あーちゃんと教えられてるんだなあ…と感心した。

4.6人タッグマッチ30分1本勝負

菅原拓也&ヒデ久保田&星野良 vs 真霜拳號&花見達也&浅川紫悠

ZERO1vs2AW。
花見が大谷の作った「ホットジャパン」というユニットに参加してたそう。(それ以外のメンバーは今成、アジャコングなど)
久しぶりに真霜を見られてうれしかった。

5.タッグマッチ30分1本勝負

北村彰基&佐藤嗣崇 vs 清宮海斗&稲村愛輝

ZERO1vsNOAH第二弾。

北村は2018年デビューの25歳。
キャリア2年で「天下一ジュニアトーナメント2020」に優勝するなど若手のホープとして台頭。
星川尚浩から継承した学ランを着用して入場し、星川の技だった流星キックを使う。

週プロのインタビューによれば、北村は大谷の講演を聞いてプロレスラーを目指したという。
ZERO1に入って、大谷の付き人も務め、迎えた団体の記念大会のメインでその大谷が動けなくなるというアクシデントに遭遇する。
試合が途中で止まり、大谷が動けないまま担架で運ばれ、観客も選手も動揺する中で北村は「おまえが(大会を)締めろ」とマイクを渡される。

そんなのってある?
繰り返すがキャリア4年の若手選手なのだ。
その何分か前まで、北村はセコンドとしてリング下で大谷の試合を見ていて、勝つにせよ負けるにせよ、最後は大谷が大会を締めると想定しているのだ。
それがアクシデントで倒れ、動揺する観客を自分の言葉で鎮めなければいけない。
けど当の北村自身だっていきなりそんな事態になって、パニックになってないわけがない。

それなのにマイクを渡された北村は「どんなことがあっても、オレたちZERO1は上を向いて、しっかり進んでいきますので、これからも応援よろしくお願いいたします」と挨拶して大会を締めた。
俺はすごいと思う。
自分が25歳の時、こんなことがあったらうろたえることしかできなかった。

北村がどういう経緯で星川尚浩の魂を引き継いだのかわからないけど、星川に加えて大谷まで背負うことになった。
今日は大谷の若手時代のテーマ曲で入場。
胸は熱くなったけど…正直大丈夫かな、と心配になる。
その若さで背負うものが多すぎる。

今日は同じく若手の佐藤嗣崇と組んで、NOAHの若手ツートップである清宮&稲村と対戦。
こういう場で見る清宮は本当にスター感があって、休憩前の試合だとちょっと無駄遣い感がある。
この試合がセミファイナルでよかったんじゃないだろうか。
試合も清宮&稲村の格上感はありつつも白熱してたし、ちょっと不可解だった。

6.女子6人タッグマッチ30分1本勝負

アジャコング&まなせゆうな&NATSUMI vs ジャガー横田&橋本千絋&朱崇花

まさか2022年にジャガー横田を見るとは思わなかった。還暦を迎えられたそうです。
まなせさん以外の人と当たるといろんな意味でハラハラした。
まなせさんと橋本千絋、朱崇花がここにいて本当によかった。

まなせさんはガンプロでもどの団体でも、自分を目立たせながら、同時に試合全体を盛り上げようとする。
見てるうちにだんだんまなせさんが好きになってきました。

NATSUMIさんはアジャさんとかと混ぜるより、一回東京女子プロレスとか同世代の選手がいるところに派遣してから戻してはどうでしょうか。

7.6人タッグマッチ30分1本勝負

大森隆男&ヨシタツ&佐々木貴 vs 太嘉文&横井宏考&TAJIRI

佐々木貴とか横井とかの大人力で回っていた全日本プロレス、という感じの6人タッグ。
横井さん、すげえ久しぶりに見ましたがお元気そうで何より。

8.8人タッグマッチ 30分1本勝負

藤田和之&ケンドー・カシン&金本浩二&高岩竜一 vs 拳王&征矢学&タダスケ&Hi69

今大会一番不思議な組み合わせ。
金剛と大谷とか関係性がまったくわからないが、拳王は金本とバチバチやってました。
拳王とバチバチできる金本がすごい。55歳ですよ!
そりゃだいぶマイルドにはなりましたが、すごいなーと思ってました。
なんだかんだ拳王はベテランの相手が上手い。

なぜかケンドー・カシンがAbema放送席の解説をしていた今成夢人を再三襲うという奇行を見せていたが、だからといってガンプロと杉浦軍の抗争が始まりそうな予感もまったくない。
ひょっとしてサイバーファイトフェスの煽りのつもりだったんだろうか。
一応「今成夢人」とフェロモンズの「今成ファンタスティック夢人」は別のキャラクターらしいですが。

9.8人タッグマッチ30分1本勝負

永田裕志&真壁刀義&本間朋晃&永尾颯樹 vs 関本大介&橋本大地&橋本和樹&中之上靖文

新日本と大日本の対抗戦の中に、ZERO1若手の永尾を入れる味のある8人タッグ。
永尾、奮闘するも関本に敗れる。
敗れた永尾を永田さんが叱咤して、観客に「ZERO1にはこんなにいい若手がいます」と持ち上げて帰る。
永田さん、正しい大人…!
これだよ。これが正しいおじさんの振る舞いだよ。ブルージャスティス!
いいものを見ました。
そいや永田さん、橋本大地ともバチバチやってましたが、永田さんは大地と子供のころから面識あったのでしょうか。

本間はたぶん離脱以降、初めて古巣・大日本プロレスと絡んだ気がするんだけど、そこに注目してた人は何人いるんでしょう。
考えたらマホンと市来とランナウェイしたときに関本はまだ20歳くらいの若手で(今の永尾や北村みたいな)、あとの選手は全員そのあとに大日本入った選手なので本間のこともどうとも思ってない気がする。
とりあえず大日本プロレス登坂社長はこの試合を見たのでしょうか。
昔、若かりし本間があんまりアレな試合をやったあとそれを差し置いてバックヤードで意気揚々とコメントしていると当時統括本部長
だった登坂さんがやってきて「何が大日魂だよ!オマエうぬぼれてんじゃないよ!」とカメラの前で説教した場面がいまだに忘れられません。

ちなみに新日本軍の入場前は「ザ・スコアー」がイントロで流れて(リーサルウェポンズの「1994年のジュニアヘビー」を思い出してしまった)、大日本軍は「爆勝宣言」で入場したので、どことどこの試合を見させられてるんだか脳がバグってしまう。
今日はターザン後藤と佐々木健介から始まって、曲だけ聞いてるといろいろワケわからなくなる。アントキの猪木も途中出てきたし。

10.世界ヘビー級選手権試合 シングルマッチ30分1本勝負

(王者)杉浦貴 vs 田中将斗(挑戦者)

※立会人・藤波辰爾

田中は大谷とのタッグチーム「炎武連夢」の曲で入場。グッとくる。
昔ブルーザー・ブロディ追悼大会でスタン・ハンセンが超獣コンビの曲で出てきたのを思い出した。

杉浦貴は緊張しているようにも、無表情にも見える硬い表情で入場。

この2か月間、誰よりもきつかったのは杉浦だったと思う。
杉浦はずっと沈黙してきた。
あれほど頻繁に更新していたTwitterは止まり、NOAHの試合には出てたけどコメントは少なかったように思う。

杉浦と田中の試合は激しかった。
杉浦は52歳、田中は49歳である。
二人とも驚異的なコンディションの良さを保っているが、どうしたって身体機能は年々下がる。ダメージだって蓄積する。
今ここでどちらかが突然動けなくなる可能性だって十分あるのだ。
それでも杉浦も田中もエルボーを入れ、場外に飛び、マットに叩きつける。

レスラーが目の前で深刻なダメージを負って、動けなくなる姿なんか見たくはない。
だが、穏やかに、大事を取って出すような技を見たって面白くもなんともない。

われわれはプロレスラーが「窮地から立ち上がる」ところを見たいのだ。
何度強烈な技を食らっても、カウント2で跳ね返し、やり返す。絶対に負けてたまるか!と気迫を見せる。
そういう姿を見たくて、そういう感情を共有したくて、決して安くないチケット代を出して会場に足を運ぶ。
プロレスで得られる感慨は他のジャンルで代わりがきかないのだ。

杉浦や田中がもしかしたら今、目の前で動けなくなるかもしれない。
わかっていながら、私は拍手をする。
喉の奥まで上がってきている「杉浦っ!」とか「田中っ!」と叫びたい欲求を抑えて、がんばれ、がんばれ!という思いを込めて拍手を送る。
拍手の意味が選手に届いているかはわからない。
でも今、自分にできることはこれしかないのだ。

拍手をする。
祈りを込めて、拍手をする。
杉浦の心の中に抱えてしまった石が、少しでも小さくなりますように。
田中がここまで身体を張っていることが、どうか報われますように。
なんて狭い表現だろう、と自分で思いながら拍手しかできない。

終盤、田中が肘につけていたサポーターを場外に投げて、ロープに走る。
それを見た時に「美しい」と思った。
前にも見た気がするのに、今日はその瞬間の映像がひときわ目に焼き付いた。

田中将斗はトッププレイヤーだ。
ZERO1よりも待遇のよい団体からの誘いはきっとあっただろう。
世間から、世界から注目される舞台に移るチャンスがあったはずだ。

でも田中はZERO1に残った。
どう見ても苦しい団体に残って、その代表が倒れたことでまたさらに頑張ろうとしている。

私はなんだか「もういいじゃないか…」という気分を抱えてしまう。

ZERO1、一生懸命やったじゃないか。
大谷も田中も、それからいなくなった選手も、みんな一生懸命やったじゃないか。

いなくなった選手が頭に浮かぶ。

崔領二。佐藤耕平。小幡優作。火野裕士。KAMIKAZE。日高郁人。植田使徒。岩崎永遠。

なんで彼らはここに来ないのか。
「来たいけど来られない」のか。
「もう関わりたくない」のか。

いなくならざるを、えなかった─。

それが現実だったんじゃなかろうか。

一人や二人じゃない。ZERO1を退団した選手はほかにも数多くいる。
続けたくても続けられなかった。
誰のせいでもなく、どうしようもないことだったんじゃないだろうか。

で、あれば。
「個人商店の引き際」という言葉が浮かぶ。
私自身、仕事は個人商店の代表だ。
それを決めるのは他人ではなく、自分でありたいと願っている。
でも、そこを引っ張り過ぎると最後は─。

思考があっちとこっちをぐるぐるする。

リング上では田中が勝ち名乗りを受けている。
数十分前は杉浦が持っていたベルトを高く掲げている。
杉浦は膝立ちのような姿勢で下を向いている。
ここからはその表情が見えない。

やがてリング上に大谷晋二郎の支援活動をする代表の人と、大谷の妹さんが上がる。
妹さんが病室から届いた大谷のメッセージを代読する。
観客がその言葉に耳を傾けている中、暗い通路を照明も浴びずに杉浦がセコンドの藤田和之たちと引き上げていく。

瞬間的に拍手をする。
杉浦、出てくれてありがとう、という気持ちを込めて。
杉浦が退場する方角の客席からも拍手が起こる。
リング上で手紙を読む妹さんが突然起こった拍手に一瞬読むのをやめて、少ししてからまた音読を再開する。

わたしたちはプロレスに何を見ているんだろう。
もやもやと考えてるうちに規制退場が始まった。
座っている二階席からはAbema中継ブースのモニターが見える。
杉浦がバックステージで何かコメントを出している。
神妙な、しかしはっきりと意思をもった表情で、何か話している。
音声は聞こえない。
杉浦のコメントこそこの会場に流してくれよ!、と強く思った。
かなり長い時間杉浦はコメントを出し、そしてフェードアウトした。

杉浦はこの2か月間、ベルトを返上したり、プロレスの活動を休止するという選択肢もきっと考えていたのではないか。
そうしてほしくなかった。
試合に出続けてほしかった。
「たまたま最後の一押しをしてしまった人」だけが十字架を負う風潮を作ってほしくなかった。
だから今日出てくれて、田中といつものような試合をしてくれて、本当によかった。

杉浦、がんばれ。がんばろう。いやがんばった。
「何度でも立ち上がれ」
大谷のこの言葉は、今日は誰よりも杉浦のための言葉だ。

あれはいつだったか、ずいぶん前にZERO1を見に行ったとき、メインイベントの試合の前に感極まったリングアナウンサーのオッキー沖田が「プロレスの神様、ありがとうー!」と叫んだことがあった。
そのときは「この人、どうかしてるな…」と冷ややかに見てたのだけど、今さらになってあの叫びがリフレインする。

プロレスの神様。
どこかにいるのだろうか。
いるのであれば、少しだけ願いを聞いてもらえませんか。

どうか大谷晋二郎に、希望をください。

そしてリングに上がるプロレスラーに多くの人から賞賛が集まって、いくばくかのお金が得られますように。

※大谷晋二郎選手への支援募金は下記で行っています

何度でも立ち上がれ!!大谷晋二郎 応援募金


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